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「守る」or「繋ぐ」モダンCB論。行き着く先はブラックサッカー?

2019.10.25

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~

毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回は、モダンサッカーの進化によって単に「守る」だけでなく、「繋ぐ」ことまで要求されるようになったモダンCBの現状について考えてみる

今回のお題:月刊フットボリスタ2019年11月号
『モダンCB論 後方の司令塔に見る戦術の進化

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

「モダンCB」とは何なのか?


川端「店長、今号のフットボリスタですが、いきなりマニアックじゃなかったですか? 『そこかよ』みたいな。どうしてこのテーマ、『モダンCB』特集なんてことになったんでしょうか」


浅野「最大の理由は単純で、リバプールフィルジル・ファン・ダイクがDFとして史上初めてUEFAの最優秀選手賞に輝いたからです」

2006年のファビオ・カンナバーロ以来となる、DFとしてのバロンドール受賞にも期待が高まっているファン・ダイク


川端「表紙がファン・ダイクですもんね。しかしファン・ダイクの私服姿は売れるんですか!?(笑)」


浅野「いやいや、それがけっこう初動から好調なんですよ(笑)。まあ、売れるからというより、CBの『レジスタ化』は本誌でもずっと言われてきたことですが、この機にあらためて掘ってみようかなと思い立ったわけです」


川端「彼こそが本誌で言う『モダンCB』であるということでという認識でいいですか? 個人的には、ちょっと違う気がしているわけですが」


浅野「典型的なモダンCBではないよね。『圧倒的な対人の強さ』というCBで一番優先度の高い能力がスーパーな選手です」


川端「僕はモダンCB化が進むにつれて失われていたモノを彼が取り戻したゆえに希少価値を持ったという風に見えています。秋田豊の究極進化型というか(笑)」


浅野「ただ、彼はキックもうまいからね。足下の技術やパスワークに参加する意識がないGKがもはやビッグクラブではプレーできないのと同じように、後方からのビルドアップで『穴』になってしまうようなCBが厳しいのも間違いないんだ。ファン・ダイクはロングキックはうまい部類ですし、繋ぐパスも問題ないです。その上で、あのフィジカルと読みをベースにした対人の強さがある」


川端「もちろん、もちろん。別に下手とは言ってません(笑)。ただ、彼の選手としての『ベース』がどっちかというのはあると思うんです。ファン・ダイクは明らかに『守る』というCBとしてのベースがあった上で、『繋げる』選手じゃないですか。でも、モダンCBの流れ、つまりCBのレジスタ化が言われる中で、守る方の能力が『最低限』になって『繋げる』ことが重視されるような風潮もあると思うんですよ。いや、あったと思う、かな?」


浅野「そこはチームのゲームモデル次第だよね。マンチェスター・シティペップ・グアルディオラフェルナンジーニョをCBにコンバートしたように『繋げる』ことがより優先になっているようにも思うけど、リバプールのCBに求められているタスクは『SBへの展開』だしね。GKも含めて、U字のパス回しが基本だから」

故障者が相次ぐシティでは守備的MFフェルナンジーニョ(左)が本職を離れて急遽CBを務めている


川端「求められる能力として『ゲームモデル次第』の部分が現代サッカーで大きくなったポジションかもしれない、CBって昔はもっと専門職だったし」


浅野「それはそうかもね」


川端「ただ、繋ぐことに関して彼よりうまいCBはたくさんいると思うけど、守れることに関して彼を凌ぐCBはいないんじゃないかな、という評価だと思うんです。それが『欧州最優秀』として評価されることは、あらためてこのポジションを考える上で面白いと思っています」


浅野「いろんな考え方があるよね。大前提にあるのはサッカーという競技のインテンシティが上がったこと、あと、選手のアスリート能力の向上ね。これは間違いなく目覚ましい。昨季の欧州CLで歴史上でもなかったような大逆転が頻出したけど、前からプレスをかけ続けても足が止まらなくなったことで、リードを奪ったチームがゲームをコントロールすることが難しくなったのは一つあると思うんだよ。相手のビルドアップの潰し方は、最も対策を練る部分だし」


川端「それゆえに『繋げない』CBは、もはや怖くて使えなくなった。それと同時に、化け物みたいなFWと対峙できるモンスターDFはチームを勝たせる存在として輝いた」


浅野「そうそう。特にリバプールはCBファン・ダイクとGKアリソン・ベッカーの獲得によって、明らかにチームの次元が一段上がったから」


川端「両立は悩ましいところですよね。フェルナンジーニョ並みに繋げて、ファン・ダイク並みに守れるCBがいればいいんだけど、そんなのいないか(笑)」


浅野「いないよ(笑)」

歴代の日本代表が抱えてきたジレンマ


川端「今度のU-17ワールドカップに臨む日本代表のチーム作りでも、そこがポイントの一つで、すごく現代サッカーの監督らしい悩みだな、と思いましたね。CBで守れる選手は繋げないし、繋げる選手は守れない。この中で、両方を持っている選手を何とか探すのだけど、なかなか適材はいない。世界大会基準のプレッシングの中で『繋げる』CBとなるとメチャクチャ限られているけれど、でもそこは『最低限』として求めたい基準なわけで。かといって、守れないCBは当然困る(笑)」


浅野「そりゃそうだ。ただ、そこは戦術面のフォローも重要ですよね。リバプールのCBがSBへの展開を推奨しているのは前からプレスをかけられても横に逃げるのはそこまで高度なプレーではないですからね。その先のSBは大変ですが(笑)。逆にSBに展開が詰まってもパスや推進力で突破できる人材がいれば、対人特化のCBを使う余地も出てくるかもしれない」


川端「そうだね。でもリバプール的なサッカーを世界大会で日本人がやるのは無理だろうというのがそもそもある。繋いでいなして時間を作れるチームというのが大前提のモデルなので、そこに合う人材は欲しい。若年層の世界大会においても、プレッシング側の能力が著しく高まっているのも確かなので」


浅野日本代表がどう戦うかを考えれば、繋げるCBはもちろん欲しくなるよね」


川端「とはいえ、世界大会において日本が相手の攻勢にさらされる時間を削りきるのは不可能なので、やっぱり『守れないCB』も論外」


浅野「過去の話でいえば、宇佐美貴史がいた代のU-17W杯のスイス戦なんか、地上戦では日本が圧倒して押し込んでいるのに、ロングボールを放り込まれただけで形勢が180度逆転したからね、見事なくらいに(苦笑)」


川端「あの時期はアジアでもよくやられましたね。酒井高徳、それに宇佐美もいた世代のU-19アジア予選の韓国戦とか典型でしたけど。GKのパントキックからのヘディングという単純攻撃でやられて負けた……。CBはどちらも小柄な選手でした。あの頃はそれが日本の目指すべき『良いサッカー』という雰囲気もあったけど」


浅野「そういうのを見ちゃうと、CBの対人の強さは必須だなと。吉武博文さんのチーム並みにボール支配に振り切っちゃえば別かもしれないですが」


川端「ただ、この前のU-22日本代表とU-22ブラジル代表の試合とかもそうでしたが、プレスが強過ぎて外せない時間帯自体はあるんだけど、外して運べる時間帯も十分に作れる。その両方の時間帯をどう戦うかという感じに今の日本はなってるのかな、と。世界との力関係という意味で」


浅野「日本は難しい立ち位置だよね。ある程度『繋ぐ』のは大前提だと思うけど、明らかに『繋げない』時間帯も絶対に出る。『繋ぐ』方のみにこだわった人選にするとやばいことになるのは過去の経験からも学びましたけど、そもそも『繋げない』人をCBに置いてしまえばスタイルの根本が崩れてしまう」


川端「そうそう、ある種のジレンマを必然的に抱えている。だからこそ、ハイブリッドなCBの育成は長らく日本サッカーのテーマの一つだったと思います。冨安健洋が出てきたのは一つの象徴かな。やっぱり、このタイプを考えるとボランチからのコンバートが基本だよね。育成年代はボランチ基本でやりつつ、徐々にCBの頻度を上げていく。吉田麻也もこのコースだし、王道だと思いますわ。若い世代だとセレッソ大阪の瀬古歩夢も、ボランチから落ちてきた選手だからちゃんと繋げる」

今夏シント=トロイデンからボローニャへステップアップを果たした冨安。イタリアでは“偽SB”として新境地を開拓しており評価はうなぎ上りだ


浅野「CBはフィールダーの中で一番プレッシャーを受けないポジションだからこそ『レジスタ化』したわけだけど、そもそも最初からCBだとプレッシャーを受けないわけだから、それをかわすスキルが育たないのはあるかもしれない」


川端「吉田や冨安みたいなエリートではなくて異色だけど、昌子源も結果的にこういうコースだよね。中盤より前の選手として育成されて、米子北高校でDFになった。彼は『ファン・ダイク系』のCBだと思うけど、あのタイプにしてはかなり『繋げる』選手になっているのはそのキャリアゆえだと思う。だからU-16までの年代の指導者は勇気を持って大型選手を中盤で使ってほしい。DFに下げたくなるのはわかる、わかるが、まだちょっと我慢して、と(笑)」

「勝利至上主義」と「いいサッカー問題」


浅野「計画的な個人の育成は大事です。バルセロナのセルヒオ・ブスケッツが非常に強いプレッシャーの中で落ち着いてプレーできるのも、U-16まではCFで起用されていたおかげでしょうね」


川端「これは自分がよく言うんですけど、シドニー世代くらいの日本の名ボランチ、遠藤保仁や中村憲剛、小笠原満男、小野伸二といった選手たちが軒並み『元トップ下』なのも偶然じゃないと思う。本家レジスタ、アンドレア・ピルロも然り」

遠藤(左)は、稲本潤一(中央)や高原直泰とともに「黄金世代」として年代別日本代表を経験。A代表では中盤の大黒柱として長く活躍し、歴代最多となる152試合に出場した


浅野「今の日本はあのタイプのボランチがいなくなったよね」


川端「今のボランチは『最初からボランチ』として育成された選手が多くて、そうなるとやっぱり、プレッシャー下の技術では劣ってしまうのかなと思います。その分、走力や守備力に優れたバランスの取れているセントラルMFは多いですが」


浅野「育成年代でボランチやDFラインに対する強烈なプレスは経験できないしね。日本では特に」


川端「『うまい系』の選手をすぐにサイドハーフにしちゃうのも同じ理由で疑問なんだよね。そういう選手の最終到達ポジションは確かにサイドになるのかもしれないが、という。内田篤人も中盤やFWをやっていた時期が長いけれど、彼も最初からSBだったら、ああいうプレスかけられても動じることなく組み立てもできるような選手になっていないと思うんだよ。同じ鹿島で言うと、西大伍も元トップ下だけど、やっぱりそういう部分を感じるし」

日本におけるモダンSBの先駆け的存在として、シャルケのビルドアップを支えた内田


浅野前回のテーマにも重なってくるけど、育成のゴールの問題だよね。育成の指導者が何を評価されるか。育成で移籍金100億円稼いだことが評価されるなら、当然別の考え方になると思う」


川端「その年代で少しでも良いチームを作ろうとすると、その時点の最適解に選手をハメていく形になるし、『その時点では使いにくい』選手が切られちゃうことになる。これは勝利至上主義とはまた違う文脈で、だから余計に難しいと感じているんだけど」


浅野「必ずしも勝利至上主義ではないよね。むしろ『いいサッカーをしたい』『いいチームを作りたい』という内容面でのこだわりの結果という感じがするな。勝利至上主義ってロングボールでもドン引きカウンターでも何でも勝てばいい、という考え方を指して言われがちじゃないですか。それに対する考え方として『そんなことをしても将来のためにならないから、いいサッカーをしよう』というのがあった」


川端「そうそう、まさにね。極端に言えば、孤立した状態でロングボール受けまくったFWが大きく成長することもある。例えば大迫勇也が繋ぎ倒すスタイルのチームでああいう個性に育ったかは怪しいと思うし」


浅野「一見してチームとしてうまく機能していないように見えても、それぞれの個々の育成計画の中でそのポジションで使う必然があれば、最終的には大きく伸びることもある」


川端「『いいサッカーするために』という前提で考えるなら、より繋げるボランチがいいのが当たり前だし、プレッシャーかけられるとボールを失っちゃう選手ならサイドでより楽な状態でボール受けさせた方がきっと輝く。ただ、さっきのブスケッツの話は典型だけど、その選手を『鍛えるため』のベストポジションがそこかはまた別問題で……」


浅野「そこは悩ましいところなのは当然だよね。機能しないポジションに選手を置いていたら、その指導者の評価は落ちるかもしれない」


川端「U-17代表の話で言うと、候補になっていたCBの中に『ボランチで使ってくれないかなあ』と代表スタッフが思っていた選手がいるんだよ。繋ぐ部分に弱みのある選手だから、そこを鍛えてほしいわけ。でも、その所属チームのことを考えると、絶対にCBがベスト。だってボランチには他に良い選手いるし(笑)。指導者としては自然というか当然の選択としてのCB起用。そもそも、勝ちから遠ざかるように感じられる選手起用をする監督に選手がついていくのかというのもあるし。選手は勝ちたいからね」


浅野「そこはバランス感覚だったり、監督の人間力次第じゃないですか。育成のうまい監督って一見不合理なことをよくやるじゃないですか。選手からしたら『なんで???』みたいなことを。ただ、そこにはその監督の中での必然があったりするんですよ」


川端「難しい。何年か前のJユース同士の試合の話なんだけど、監督に『後半から出てきたあの大きい左利きのSBはどうしてスタメンじゃないんですか? 何度もチャンスを作ってたし、足も相当速そうですが』と聞いたら、『いや、彼が入るとあそこでボールが動かなくなるので使えないんですよ』と。つまりいいサッカーができなくなるので使わないという話で」


浅野「『いいサッカー問題』か……。ただ、育成段階であることを考えると、才能の大きな選手を使うべきですよね」


川端「ここの正解が何かは、何とも言えない。この監督が間違っているとは一概に言えないとも思う。ただ、前回の話に繋がるんだけど、ホントに使わないなら、リリースしてほしいんだよね、その左SB。タレントなのは確かだから、『使いたい』というチームがきっとある」


浅野「今の日本の仕組みだと、そこで選手を抱えちゃうわけだよね」


川端「欧州のユースチームとJのユースチームの最大の差って、『選手をクビにしない』ところだと思いますけど、これってすごく優しいようでいて本当の意味で“優しくない”なと思うのはこういう時ですね。他のチームへ行って大ブレイクした可能性を持った選手がそのままフェードアウトしているかもしれない。指導者によって『やりたいサッカー』は違うし、当然それによって選手の評価も大きく変わるわけですから」


浅野「選手の移籍がないといろいろ歪みますよね。CBだってチームによって要求される能力が違いますからね。CBの逸材はボランチを経験させるべきと外野が言ったところで、それで目の前の試合に勝てなくなっても、あるいは『いいサッカー』ができなくなっても批判されるのは監督だろうし、監督はつらいね」


川端「勝てないと求心力もなくなって、指導が選手に響かなくなるパターンはある。『お前の言う通りにしてたら勝てないじゃん』という。とはいえ、『どう起用してどう育てるか』について、Jクラブはもうちょっと戦略的にやれるようにしていく必要はあると思います。現場の指導者任せではなく。どうも現場のせいにされがちですが……」


浅野「そこは間違いなくクラブとして考えるべきところだね。前回の話にまた通じちゃうけど、トップ選手を育成することへのインセンティブはもっと働くようにしないとダメだろうし、そういう仕組み作りは絶対必要だね」

もはやゴールキックも休めない!?


川端「さて、話をちょっと戻しましょうか(笑)。編集長として今号のオススメ記事というか、『これは読んで欲しい』という記事はありますか?」


浅野ボローニャのコーチをしているレナート・バルディによる冨安の記事ですね。究極の内部情報かつモダンサッカーに求められるDF像を知るケーススタディとしても格好の題材だと思います」


川端「コーチが選手の記事を書くとか、内部過ぎる(笑)」


浅野「直接の対戦相手は誰も見ていないからね(笑)。冨安の偽SB起用の意図や具体的なタスクを解説してくれているんですが、もはやCBとSBの境界線すら曖昧になってきているなとあらためて感じられて面白かったですね」


川端「ボローニャは冨安のせいで(?)、チームの設計が左右非対称だし、混乱しそうなチーム(笑)」


浅野「ドイツで誕生した『ハーフディフェンダー』という用語は3バックの左右CBを指しますが、今回結城康平さんが紹介してくれた『補助CB』は4バックのDFラインに残る方のSBを指してそう言うそうです。共通しているのが、CBにもSB的な能力が求められるようになっているし、SBにもCB的な能力が求められるようになっていること。純粋なCBよりも偽SBの方が、前への推進力やライン間へのパス出しといった冨安の全能力を引き出せる、という言葉は印象的でした」


川端「なるほど」


浅野「バルディの記事でもう一つ面白かったのが、『CBのレジスタ化』の裏表として、ボランチのプレーが『考える』ではなく、より『反射的』になってきているということ。もはやゲームの流れを読んで何か意思を介在させられる=ゲームメイクの余地があるのはCB、あるいはGKだという話ですね。このへんは全部セットで繋がっている話だと思います」


川端「プレッシングが組織化・アスリート化されてトンデモない圧力になっているのとワンセットですよね。SBのボランチ化も然りで、状況とか時間帯にもよるけど、常に時間的な余裕を作れるのは後ろのポジションしかなくなっている。ポゼッションスタイルのチームのアンカーのプレーを『事務処理』と形容している人がいて、言い得て妙な部分があるなと思ったんです。書類の内容はかなりパターン化されているので、それをさばく仕事。『作る』仕事ではない、という」


浅野「だからCBにゲームを作ることが求められるわけです」


川端「一方で、『純粋なCB』の価値も忘れるなという記事があったのも面白かったです」


浅野木村浩嗣さんの記事ね。GK特集の時も同じだけど、一番優先順位の高い仕事は本業の守備だからね……って、この話題は広げてもループする気がするんだけど(笑)」


川端「そうそう、まさにそのループこそが現代サッカーの監督たちが直面しているジレンマですよ」


浅野「『繋げるCB』は重要だけど、『守れるCB』が要らないということでもない……。これはGK論の時もそうだったね」


川端「繋げるGKは守れない……ではダメですから」


浅野「あと後方からのビルドアップに関しては、川端さんの大好きなゴールキックの新ルールに関する記事も載せました。味方がゴールキックをペナ内で受けられるようになったルール変更は、どう考えてもビルドアップに大きな影響を与えると思うので」


川端「別に大好きじゃないけど(笑)、過去のルール変更が戦術の革新を生んできたのは確かなので」


浅野「新ルールはビルドアップの促進のための変更だけど、前プレの餌食にもなりうるのがジレンマで、完全に味方に繋ぐのを放棄するチームもあります。ただ、ゴールキックはオフサイドがないんですよ。だからFWをオフサイドの位置に立たせれば相手の最終ラインを下げさせられる、かつペナ内まで引いてボールを受けに来た味方に敵が食いついてきたら(敵がペナ内に入れるのはキックの直後)中盤ががら空きになるので、そこへパスを送るとかは有効そうですね」


川端「ゴールキックのオフサイド消滅は結構盲点になってますよね。スーパーゴールキックGKとか出てきそう」


浅野「実際シティのエデルソン・モラエスはそれを利用してチャンスを作っているしね。さっき俺が言ったのは前後分断サッカーのビルドアップの考え方で、ミシャ式とかアントニオ・コンテのサッカーがそうだよね。ペップのように後方に数的優位を作って剥がしていくメソッドも今後発展していくと思う」

左足で最後尾から高精度のロングキックを繰り出すエデルソン(左)。昨季のプレミア第2節ハダースフィールド戦では、ゴールキックからセルヒオ・アグエロのゴールをアシストした


川端「この前のU-22ブラジル戦も、新ルール使ってゴールキック繋ごうとする日本と、新ルール使ってハメちゃおうとするブラジルの対比が面白かった。ただ、『クイックゴールキック』はもっと狙えると思うんだよね。でもリスクが先に来ちゃうかな。ブラジル戦はゴールキックになったところで休んでいたDFに日本のベンチから叱咤の声が飛んでいた。広がってポジション取れば受けられたのに、ということだと思うけど。でもゴールキックで一休みという感覚は染みついたものだけに抜けづらいよね」


浅野「そこで休めなくなったら一体いつ休むんだっていう(笑)」


川端「サッカーのブラック化や!!(笑)」


浅野「一方で、プレスかけ続けるのは不可能という常識も崩れかけてきているので、ゲームが切れる際の意識もどんどん変わっていくんだろうね。そここそが勝負どころだ、みたいな。『トランジション(攻守の切り替え)』がサッカーの勝負どころとしてより意識されるようになったみたいにね」


川端「現代の選手は大変だ。変化も速いし、労働負荷が上がる方向の変化だしで(笑)」

上がり続ける「足切り」ラインの先に待つもの


浅野「そろそろ、まとめましょうか」


川端「現代サッカーの流れとしてCBに求められる役割が変わってきた、と。とはいえ、従来型の要求が『ゴール数を競う』サッカーというスポーツの本質を考えれば、消えるわけではない、と。逆に言えば、そのジレンマに応えられるハイブリッドなCBがより求められていると言えるわけですな」


浅野「西部さんが戦術リストランテで言っていたことなんだけど、『才能』と『能力』は違うと。前者はドリブルで何人も抜けたりといったスペシャリティと言い換えてもいいかもですね。そして後者は、実際にピッチ上で何ができるか。で、プレーできるリーグの格を決めるのは才能以外のプレーレベルがリーグの平均に達しているかだと。攻撃の選手はドリブルで2,3人抜けても、守備がザルなら平均レベルが上がった今のサッカーでは使えないと。CBも同じで、求められる能力の平均レベルが上がったので足切りされる選手が増えた。スペシャリティとしての対人の強さ、ビルドアップのうまさなどいろいろな能力があると思うのですが、それ以外の能力が平均に達していないと使えないという話なんだと思います」


川端「大意としては同意なんだけど、例えばリオネル・メッシは達してない部分ある気がするから、バケモノ級に突き抜ければ別かな。CBのフェルナンジーニョも然りで、ヘディングでの防空能力はリーグのアベレージをクリアしてない。でも戦術的な部分によって『リーグのアベレージ』の足りない要素も補えないこともない、とは思う」


浅野「メッシとクリスティアーノ・ロナウド級は例外です(笑)。あとは彼らもそうですが、戦術面の工夫ですよね。守備をしないやつがいても成り立たせるバランスを考えたり、フェルナンジーニョが穴にならないように押し込まれる展開を作らせないとかね」


川端「ただ、それってバルセロナでもマンチェスター・シティでもそうだけど、強者のロジックですよね(笑)。補えるだけの余力がある、とも言い換えられる。例えば日本代表が世界大会に出て行った時にどうかとなると、やっぱりアベレージの部分は全員がクリアしてないとキツいんだと思う」


浅野「さっきのブラックサッカーの話もそうだけど、先へ先へと目指しているからサッカーの余白はどんどんなくなってきていているよね。ドリブルとか高さとかスペシャリティの部分に関して言えば、過去のサッカーに比べてそこまでレベルは変わっていないと思うんだ。ただ、それ以外の平均レベルが急速に上がっている。特にスプリントとか持久力とか走る部分だよね。そこはコンディショニングの進化とセットなのかもしれないけど」


川端「確かにノンビリ感はどんどんなくなってきたね。もはやゴールキックすら危うくなったわけで」


浅野「アヤックス時代のフレンキー・デ・ヨンクが『あなたの向上すべき点は何ですか?』というお決まりの質問に理路整然と向上させたいプレーを羅列していったことが話題になったけど、アベレージを大事にするというか、欠点を消していく方向性は感じるよね。その行き着く先は完全無欠のサイボーグかもね(笑)」

バルセロナ移籍後の8月に行われたインタビューでも自身の課題として「ロングパス・ミドルシュート・相手の背後をとるポジショニング」を挙げていたデ・ヨンク。昨季アヤックスでCLベスト4進出の原動力となりステップアップを果たした22歳だが、その向上心はとどまることを知らない


川端「再び大意として同意しつつ、そこに矛盾するようだけど、だからこそ突き抜けた武器のある選手が求められるとも言える。ファン・ダイクはまさにそれを体現しているよね。アベレージとして繋ぐ能力も十分に及第点という方に目を向けるか、突出した個の守備能力という方に目を向けるかで出てくる見解がまるで違うことになりそうだけど」


浅野「あれだけでかくて速くて読みもいい選手は過去にもいないよね」


川端「何にしても新しい時代の新しいCB像が求められる中で、古い時代から求められる伝統的な『CBの良さ』でも突出している選手が出てきたのは興味深い。日本からもファン・ダイクが出て来てほしい(笑)。冨安とファン・ダイクが組んだら最強っぽくないですか?」


浅野「日本のCBは海外でもまれる選手が増えてきていて、どう変わっていくのか楽しみです。もう主力はほとんど海外組だしね」


川端「長谷部や昌子、もちろん吉田も含めてCBでこれだけの数の選手が欧州で戦えるようになっているのは間違いなく日本サッカーが進歩した証でしょう。強みとまでは言えないけれど、もはや弱点ではない。W杯でも吉田と昌子があれだけ戦えてましたしね。もちろん、『進歩の流れはこの辺りで止めておきましょう』という意味じゃないよ(笑)。でも変に『日本人はCBに向いてない』みたいにネガティブに捉える必要もないのかな、と」


浅野「日本のCBは間違いなく進化しているでしょう。冨安が象徴ですが。20歳の彼がどこまで羽ばたけるかは凄く楽しみにしています。日本人が誰も到達したことがないレベルまで行ってほしいですね」

●バル・フットボリスタ過去記事


Photos: Getty Images

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。