
2024年度にJFAプロライセンスを取得した林陵平が、ライセンス講習の海外研修先に選んだのは町野修斗が所属するドイツ1部のホルシュタイン・キールだった。
インタビューの後編では、ドイツサッカーの最前線で感じた日本サッカーに足りないもの、町野修斗をどう見たか、現代サッカーの監督像、解説者と指導者の「コトバ」の違い、そして自身の今後のキャリアプランについて素直な思いを語ってくれた。
日本に足りないのは「ON・OFF」のスピード感
――今回ドイツで4試合を見てきたそうですが、実際に現地で生で見てどう感じましたか?
「まず感じたのは、もちろんサッカーの内容もそうですが、スタジアムの雰囲気ですね。観客が作り出すものがその試合にすごく影響するんだなと思ったし、選手たちの迫力や強度も圧巻でした。日本もプレー強度は上がってきていますが、スイッチが入った瞬間の全体のスピードアップ感は違うなと。ON・OFFという部分はフィジカルだけでなく、選手一人ひとりのサッカー理解というのもあるのかもしれません」
――先ほど「ピッチ上での対策の応酬のタイミングが早くなった」というお話をしていただきましたけど、ブンデスリーガ全体の傾向で何か気づきはありましたか?
「シンプルに個のクオリティが高いと思いましたね。一人ひとりの技術、止める・蹴るもそうだし、普通にアスリート能力の高さですね、自分のボールになった時に簡単に奪われない。ドルトムント、ブレーメン、ボルフスブルクあたりを見ましたが、やっぱりどのチームも平均して良い選手が多い。もちろん、アベレージが高まった中でそこからさらに頭一つ飛び抜けているのがスーパーな選手なんでしょうけど」

――フィジカルの部分はどうですか。例えば、フィジカルトレーニングの違いとかは?
「フィジカルトレーニングに関しては、日本も今はけっこう同じような感じだと思いますよ。トレーニング中にGPSのデータを見ながら選手の負荷の状態を見るというのは、Jリーグでも今どこもやっていますから。その部分での違いはあまり感じなかったですね。ただ、あっちはスプリントを1回するじゃなくて、連続でするのが当たり前というのは感じました。高強度を出し続けられる面の差はありますね。
向こうの選手は身体が丈夫というか、筋トレをガンガンしているんですよ。試合に出ている選手が次の日にスクワットで100キロを上げたりとか普通にやっています。町野に聞いても『みんなめっちゃ筋トレしてますよ。試合後とかもバンバン重いの持ってますから』と言っていました。厳しい過密日程でも苦にしないのは、そういう身体の強さが関係しているのかなと思いました」
――その町野選手の話も聞かせてください。ドイツ1部で7ゴール(取材日の2月19日時点)と立派な数字を残していますが、活躍の理由をどう見ますか?
「プレーの柔軟性がありますよね。プレーエリアもそうだし、プレーの選択が1つではない。いろんなことを柔軟にこなせるタイプなので、ラップのチームでうまく機能している面はありますね。主にプレーしているのが[3-4-2-1]のシャドーで、1番前のCFではない。2列目で前を向くとか、起点になることができているので、幅広い役割が期待されています。あとはゴールですよね。数少ないチャンスをしっかり決め切る。シュートも両足蹴れるし、何より数字を残せているのは大きいですよね」
――これで二桁取ったら、欧州内での評価もかなり上がりますよね。
「そうですね。だから僕は町野に『二桁いけよ』と言って帰ってきました。『応援してるぞ』って」
キール&町野サポーター。 pic.twitter.com/8ugioVRyI9
— 林 陵平 Ryohei Hayashi (@Ryohei_h11) January 19, 2025
ドイツで見えてきた「現代サッカーの監督像」
――ドイツでの研修を終えて今の指導者に求められている役割だったり、あらためて感じたことはありますか?
「ラップが言ってくれたように、フットボールの知識を追求し続けないと取り残されるなと思いました。常に学び続ける意識を持って、アップデートしていくことが大事ですよね。あとは自分のゲームモデルというものを持ちつつ、相手があるスポーツなので相手によって自分たちはどうするかを戦術の中に落とし込んでいかないといけないと感じました。変わらない幹にあたる部分と柔軟に変えていく枝葉の部分をしっかり両立させる必要があります」
――その肝になるのがトレーニングの構築ですよね。自分が実現したい現象を起こすためにどういう制約をつけるか。変わらない部分と変える部分をトレーニングの中で調整してやっていくのは大変だよなといつも感じています。……



Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。