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欧州クラブと若手日本人の思惑一致。「狙われるJリーグ」の生存術とは?

2019.10.09

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~

毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回は、中村敬斗菅原由勢のような10代の有望株がかなり早いタイミングで欧州移籍を決断するようになった背景、そしてそれを踏まえたJリーグの生存術について。

今回のお題:月刊フットボリスタ2019年10月号
『加速する欧州の「10代マーケット」 日本の若手が狙われる理由

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

「通過点」となったJリーグ


川端「さて、久保建英が表紙になった最新号のフットボリスタですが、テーマは『加速する欧州の「10代マーケット」 日本の若手が狙われる理由』となりました。この意図はどの辺でしょう?」


浅野「その久保がまさにそうだけれど、今年の夏に今までになく大量の日本人が海を渡ったじゃないですか」


川端「中村敬斗とか菅原由勢のようにティーンも多かったですね」


浅野「10代への先行投資は今の欧州の移籍マーケットのトレンドです。その背景にあるものを知っておかなければ、日本のサッカー関係者、特にJクラブが難しい立場に立たされるな、と。結局、今のエリート育成の大半を担っているのはJクラブだから、そこが疲弊すると将来に向けてもマイナスだからね」


川端「育てたのに移籍金をもらえない『タダ取り懸念』みたいなのはずっとJリーグを悩ましてきたじゃないですか」


浅野「ずっとあったね」


川端「最近の流れはこの延長線上であるとも言えますけど、ちょっと違うのは『若手の値段が欧州ではメチャクチャ高騰しているのに、Jリーグは安価なまま』という『価格ギャップ』みたいなのが起きているんじゃないかということです。江戸時代の金銀比価問題による大量の金流出、みたいな……いや、わかりにくいな、このたとえ(笑)。価格ギャップより『内外価格差』と言った方がいいのか」


浅野「そこは日本の下積み文化や年功序列など文化的側面もあるから難しいけど、欧州クラブはFIFAルールで移籍が解禁される18、19歳くらいの若い選手がまず欲しいわけですよ。そして、今の日本の若手も『できるだけ早く欧州に行きたい』というマインドへ完全になっちゃっているじゃないですか。今回オランダへ行った中村や菅原はJリーグでは必ずしもレギュラーじゃなかったのに、さっそく活躍していますからね」


川端「菅原なんてオランダでも上位のAZに加入して、もうヨーロッパの舞台でマンチェスター・ユナイテッドと渡り合っているわけですからね」


浅野「同年代の選手、そして後輩たちがそれを見てどう思うか……ですよね」


川端「実際、高校年代のエリート級のJユース所属選手たちに話を聞くと、ほとんど『早く欧州へ行きたい』と言いますからね。それこそ中村敬斗なんて、三菱養和ユースの頃からギラギラと夢を語っていましたし、実際にプロ入りするクラブを選ぶ時から、その後の欧州行きまで意識していたと思います」


浅野「そういう選手は増えている?」


川端「日本のトップクラスの若手選手から、Jリーグが『ゴール』として意識されなくなってきたと思います。これはより高いレベルを意識して成長していくわけで、サッカー的に見ればポジティブな面も多い。ただ『通過点』と見なされるようになってきたJリーグ側にとっては難しい時代が来ているのも確かですね」


浅野「実際、中村は高2で三菱養和をやめて、高3の年代でガンバ大阪とプロ契約しましたよね。その選択って『10代で欧州に行きたい』という彼個人のキャリアプランからの逆算でしょう? いきなり欧州はリスクが高いし、ガンバでまずは1、2年やって10代のうちに欧州に行く。高校生でこれだけクレバーな選択ができるのは大したものですね」


川端「彼がそもそもジュニアユースからユースへ上がる時にJクラブを選ばなかったのも、『選択肢を増やすため』と言っていたくらいですから。そうやって先のことまで考えている意識の高い選手は間違いなく増えましたね。そうでない選手も当然いますが(笑)」


浅野「Jクラブは明らかに『通過点』になっていて、その流れを変えるのはお金的にも選手の夢的にも、もはや不可能なんでしょうね」


川端「彼個人が本当に意識高い選手だったのもありますし、この世代は『相互刺激』も強くあったと思います。2017年のU-17W杯を目指していたチームはそういう上昇志向の強い、野心を持った選手が多くて、みんなが刺激し合っていた。そこに久保という欧州との距離感を意識させてくれる選手が混ざっていましたから。もはや漠然とした『夢』じゃないんですよ、欧州行きは。非常に現実的な『目標』です。そこが10年前、20年前の10代が世代として持っていた感覚と大きく違ってきています」

15歳から世代別日本代表に選ばれ続けていた中村は、世界を体感する中で早くから欧州上陸に向けたキャリアプランを描いていたという

世界基準との差。「成長」を求める若手たち


浅野「あと実際、川端さんも取材していたその2017年のU-17W杯では、優勝したイングランドとも戦ったわけじゃないですか。マンチェスター・シティでやっているフィル・フォデンとか、大人の事情でグループステージで帰っちゃったけど、ドルトムントのジェイドン・サンチョもいた」


川端チェルシーハドソン・オドイもね。この前、菅原がヨーロッパリーグで対戦したマンチェスター・ユナイテッドのゴメスもその時の選手です。あいつも良い選手だったなあ……というか、本当に強かったわ、あのイングランド。よくPK戦まで持ち込みましたよ(笑)」


浅野「あのU-17イングランド代表はまさに黄金世代でしたね」

当時のU-17イングランド代表にはフォデン(前列最左)、ゴメス(同列左から3人目)、オドイ(同列右から3人目)、サンチョ(同列最右)ら超逸材がズラリ


川端「PKまでいった日本戦を除くと全試合で差をつけて勝ってますからね。それこそブラジルやスペインからも大量点取って勝ち切ったチーム」


浅野「スコアを見ても、冗談みたいな強さだね(笑)」


川端「だから日本の選手たちはあの試合を通じて物凄くいい物差しを手に入れました」


浅野「その試合を『基準』にしちゃうと、国内の試合が物足りなくい感じる部分もあるのかもしれない」


川端「あると思いますし、上昇志向と合わせて『早くあいつらと同じところに行かないと置いてかれてしまう』という危機感もあるでしょう」


浅野「選手は純粋に『成長』という面でも早く欧州に行きたくなっちゃっているんですよね」


川端「脱線しちゃうと、今度の10月にあるU-17W杯でもああいう体験したいですね。本当にあの世代の選手にとってあの試合で受けた刺激は大きかったと思うし、あれのおかげで伸びた選手が間違いなくいる。年代別日本代表がなんで必死こいて世界大会を目指すのかを体現できましたから。みんなの目線が高くなった」


浅野「ただ、実際の日本とイングランドの試合はかなり際どい勝負でしたよね。最後は日本が押せ押せになってましたから。久保の惜しいシーンもあった。あの試合で選手たちは今の時点ではまだ世界のトップと戦えるという手ごたえもあったでしょう。逆にここからの環境次第でどんどん離されるという危機感もあったのかな」


川端「チームとして何とか戦えたという手ごたえもあった一方で、個の力の差を痛感させられた選手も多かったですね。さらに言うと、彼らはU-15でもイングランドと戦っていて、その時は勝っているので、そこからの成長の差というのも痛感したと思います。特に肉体的な成長については『あんなヒョロヒョロで当たり負けしていたやつが、こんなムキムキに。しかも足もめっちゃ速くなってる!』みたいな衝撃が(笑)」


浅野「2年間でそんなに変わるんだ……」


川端「実際、あの試合のあとに『早く欧州へ行かないと』みたいなことを言い出した選手もいましたね」


浅野内田篤人にインタビューした時にも言っていましたが、U-18くらいまでは普通に戦えるけど、その後は差が開いていくと。理由は普段戦っている環境の違いだと彼は言っていました」


川端「そこからの競争の厳しさが大きく違いますからね」


浅野「選手のマインドとして、『早く欧州へ行くべき』というのは昔から感じていたことではあると思うんです。叶うなら自分の成長のためにも少しでも早く欧州に行きたい、と」


川端「そして、今の時代は欧州側の移籍トレンドの変化でそれが可能になってきた」

加速する「プレーヤートレーディングの世界」


浅野「そう、欧州側の変化も加速しています。2年前の本誌特集の時に移籍の目的が『チームの強化』から『選手の市場価値を上げること』に移ってきている移籍ゲームのことを取り上げました」


川端「要は、ごく一部のメガクラブ以外はもう優勝なんて絶対狙えないから、という」


浅野「そう。そうなると目の前の試合に勝って順位を1つ2つ上げることよりも、1シーズンで所属選手の資産価値を上げることの方が重要だ、と」


川端「で、その『資産運用』で大きな利幅が見込めるのは10代の選手たち」


浅野「実際に10代でフランスリーグでレギュラーで二桁得点ともなれば、30億円とか40億円でプレミアリーグのクラブに売れるわけですからね。あれから2年経ってその流れはさらに加速していて、もうメガクラブまでもがプレーヤートレーディングの世界にガッツリ参入してきた」


川端「明らかにメガクラブが抱える若手選手のデビューが早くなっていますよね(笑)。あと今号に出てきたベンフィカくらいのクラブが典型だと思うんですが、国内級のビッグクラブが『育てて売る』クラブとして完全に舵を切りましたよね。試合を見ていても20代前半以下の選手が本当に多い。そこはもう割り切っている感じがする」

昨季ベンフィカでデビューしたアカデミー出身FWジョアン・フェリックスは今夏1億2600万ユーロ(約151億円) でアトレティコ・マドリーに引き抜かれた


浅野「この流れを作った原因の一つは間違いなく代理人にもあって、大物代理人ジョルジュ・メンデスの母国ポルトガルはプレーヤートレーディングの先進国ですよね。ベンフィカやポルトは選手の売り買いだけで一体いくら稼いだんだっていう(笑)。日本でもポルティモネンセ旋風が吹き荒れつつありますが、あのクラブは完全にプレーヤートレーディング狙いと割り切っています。中島で成功したからって露骨に日本人狙い過ぎです(笑)」


川端「ポルティモネンセの株主は、過去のJリーグに多くのブラジル人を斡旋してきた大物代理人、コンスタンティン・テオドールさんですからね。まさに売買して稼ぐためのクラブですから、時代の流れに乗っているとは言えます」


浅野「そう、時代ですよね。ユベントスなんかもトップとアカデミーを切り離してアカデミーは選手を売るプレーヤートレーディング専門と割り切っていますし、シティのシティ・フットボール・グループは選手の売買で200億円以上稼いだことを誇っていますよね。レアルだって今狙っているのは10代のビニシウスやロドリゴで、久保の獲得もそうした流れの一環でしょう」


川端「シティのプレーヤートレーディング戦略の中には日本人も組み込まれ始めましたね。板倉滉に続いて食野亮太郎が海を渡りましたが、食野はJ1でもようやく出始めたところですけど、プレーヤートレーディングの考え方で言えば、『ようやく出始めた』くらいの選手を獲るのが一番『売買利益』を出しやすいとも言えるのか」


浅野「そこはリスクとリターン次第で何とも言えない部分があります。実績がなくてローリスクで獲った選手は成功の確率も自ずと下がりますし。例えば、冨安健洋に関してはアビスパ福岡から獲得したシント=トロイデンVVとそこから10億で獲ったボローニャのどちらが『売買利益』を出しやすいかはわかりません。ボローニャで大成功してプレミアに売れたとしたら30~40億くらいになってるかもしれないし」


川端「個人的に、ベンフィカのような立ち位置は未来のJクラブが狙い得る一つの理想ではあるのかなとも思うんですよね。『踏み台』『通過点』になることに違和感を覚えるのは当然なんだけど、あえて割り切ってプレーヤーの市場価値を高めて次のステップでの成功率を上げる『良き通過点』となることでサッカー界におけるプレゼンスと莫大な富を手にしている。最近の動きを見ていると、もしかすると鹿島アントラーズはそこを狙ってる、というか『狙うしかない』と思い始めているのかなとも思いますし」


浅野「『通過点』としてのより良い在り方は何かという話ですよね。そういう意味で言うと、最近ブンデスリーガへすぐに行く日本人が減っているけど、それは必ずしも日本人の質が下がったというのではなく、オランダやベルギーが“早めのインターセプト”を行って中間利益を抜こうとしているという見方もできると思います」


川端「ドイツは欧州の中だとスポーツ的なロジックが強い方の国ですもんね。未完成の選手を獲るより、“戦力”を欲しがる傾向がまだ強いというか」


浅野「もちろん、それもある。日本代表の主要メンバーはほとんどがすでに欧州組になった時代だからね。Jリーグにそのクラスはもう残っていない」


川端「最近は特にベルギーの動きが顕著ですよね」


浅野「シント=トロイデンの存在は当然ありますが、そもそもベルギー行った選手の成功率が高いというのもあるんじゃないかと思います」


川端U-18ベルギー代表監督も『トップ・オブ・トップの力のあるコンペティションではないけれど、勝利へのプレッシャーが強過ぎないので、若い選手を伸び伸び成長させていくには最適なリーグだ』と言っていましたね。そういうところも日本人に合っているんでしょう」

「選ぶ側」から「選ばれる側」へ


浅野「『より良い通過点』としてのJリーグを考えるとしても、難しいのはJリーグでの実績と信頼度が上がってきているとはいえ、『欧州への環境適応』を考えると、やはりまだ壁がある。5大リーグのクラブが本当に重視するのは『欧州での実績』ですから。Jリーグから直の欧州移籍では獲れる移籍金の上限はおのずと決まってくる。マックスで武藤嘉紀や浅野拓磨の4~5億円でしょう。そういう意味ではJクラブが個別的にベルギーやオランダ、ポルトガルあたりのクラブと提携を結び、移籍金をシェアする仕組みを作っていくのが現実的な選択でしょうね」

欧州初挑戦となったマインツで活躍し、昨季ニューカッスルへステップアップを果たした武藤


川端「日本人が少々苦手としている『Win-Win』の仕組み作りですよね。いずれにしても、『優秀な選手は欧州へ引き抜かれていく』ことを前提とした準備や仕組み作りはもはや不可欠だと思うんです」


浅野「そこは間違いない」


川端「もちろん、各クラブそれぞれの立ち位置によるだろうけど、Jクラブも新人を採る時に『ウチと契約してくれれば、ベルギーの◯◯というクラブをステップにして欧州へ行けるぞ』という勧誘文句にしちゃうくらい突き抜けたクラブがあってもいいのかもしれない」


浅野「クラブ側が選手にそうしたキャリアプランを提示できる、あるいは選手と一緒に作り上げられるようにならないと、欧州クラブから一方的に出し抜かれる側になってしまいますからね」


川端「選手サイドに『Jクラブを出し抜かないと、欧州へ行けない』と思わせちゃっていることがしばしばあるのが現状ですからね……」


浅野「実際、川端さんにはこうした状況を踏まえてJリーグやJクラブがどう考えているかを探りにいろいろ取材してもらいましたが、それぞれの当事者と話してみてどう感じましたか?」


川端「まず当事者も当事者、セレッソ大阪のアカデミーダイレクターである大熊裕司さんとの話は本当に興味深かったですね。Jリーグで一番欧州に『抜かれている』クラブの一つですから。現状のJクラブが『対欧州』で考えた時に未熟な部分を含めて率直に語っていただけたので、『Jクラブの育成の今後』を考える意味でも面白かったです。選手側の意識変化は強烈に感じているみたいでしたし、Jクラブのそこへの対応が追い付いていない現状も認識されていました。それは『育てても儲からない』現状も含めて」


浅野「実際、すごく難しいと思うんです、Jクラブの立場は。欧州クラブと若手日本人のニーズが合致しちゃっているので、そこでどう存在価値を出していくのか。その状況を飲み込んで完全に割り切っちゃえばできることも多々あると思います」


川端「日本のクラブは総じてどこも『スポーツ的』だと思います。ビジネスでやっていない。それはメチャクチャ素敵なことでもあって、僕はそういうJリーグの気風は好きでもあるんですよ。みんな本気で『一つでも上の順位に』と戦っていて、だから毎年冗談のような混戦になりますし(笑)」


浅野「それはわかる。尊いとも思う。移籍にしても、それを通じて稼ごうということではなく、あくまで主眼は『チーム強化』になっていますよね」


川端「『プレーヤートレーディング』の考え方なんてほとんどないでしょう」


浅野「加えて、C契約制度(新人の結ぶ最初のプロ契約は460万円以下とし、規定の試合出場時間を突破するまで年俸制限のないA契約には移行できない)やアカデミー間の移籍禁止など、ガラパゴス的な制度の問題もあります」


川端「アカデミー間の移籍禁止についても、そろそろ考える必要があると思っています。今のJリーグだと、J2中堅クラブのユースに年代別日本代表の有力選手がいたら、彼の持てる選択肢は欧州進出か、そのJ2クラブとの契約かの2択。競争の発生しない殿様商売状態なので、ユースの選手へ提示する条件は自然と渋くなる文化のあるクラブまであるわけで」


浅野「選手にとっては明らかに不利だよね。ユースの選手たちが『自分の将来を考えてくれているのか?』とクラブに対して不信感を持ちがちなのもこういう部分でしょう」


川端「これが欧州ならば、そんな有力選手がいたら、ビッグクラブによる争奪戦になるでしょう。でも現状だと、それでそのJ2クラブが儲かることもないし、選手が国内のビッグクラブへ一気に飛躍していくこともない」


浅野「いったい誰のための制度なの?という状態だよね。誰も得していない。加えて全クラブに言えることとして、自身の支配下にあるユースの選手が他クラブから狙われるという経験値自体がまったく溜まっていないので、アカデミーの交渉力が上がる余地がない」


川端「そう、そこに関しては四半世紀経ったのに、まったくレベルアップしていない。レベル1です。国際競争では相手がデスピサロということだってあるのに、最初の村の近くのスライムとも戦った経験がないようなものです。だから本当に守備力がないし、売る力も育っていない。欧州や南米のクラブがビジネスに長じているのは、まず激しい国内市場での競争があった上でのことですからね」


浅野「ただ、選手を引き抜かれる側になりそうなJ2のクラブとかは嫌がりそうだよね」


川端「そうでしょうね。でも、本当に今の制度がJ2のクラブの利益になってるのかどうか。J2のジュニアユースからユース昇格を拒否して高校サッカーを選んだある選手に『なんで?』って聞いたら、『ユースに上がったらクラブを選べない。(自分のクラブに)昇格しかなくなっちゃうから』と言うんですよ。これって本末転倒してるなあ、と。変に縛ろうとすると、歪みますよね」


浅野「そうなると、Jリーグが『通過点』にすらならずにスルーされる可能性が出てきますからね」


川端「実際、そういう流れも生まれつつあるともいます。柏レイソルU-18からベンフィカに行った小久保怜央ブライアンとかは一例ですが、高校サッカーの選手にも声がかかるようになってきていて、実際に欧州クラブに練習参加へ行ったりしていますからね。そうした流れに乗じた怪しいビジネスも増えている印象ですが(苦笑)」


浅野「Jクラブが『選ばれる側』になってきた。これはネガティブに考えればいくらでもネガティブに受け取れる変化ですが、選手にとって『選ばれるような魅力を持つ』変化が促されているとも言えます。うまくポジティブな変革に繋げてほしいタイミングだと思います」

「昇格」以外の選択肢がない問題


川端「外圧に頼るのもどうかなとは思いますが(笑)。ただ、海外移籍どうこうは抜きにして考えても、逆にJ1の有力クラブのユースで昇格できない選手がJ2に行く選択だってもっとあっていいと思うんです」


浅野「現状はほとんどないですよね」


川端「そもそもJ2・J3のクラブがJ1のユースの選手を『スカウト対象』と見なしてないですからね。ユースからトップに上がれないことになった選手のうち、強い意思があったり、家庭の事情などで進学が難しい選手だけが伝手をたどって自分でテストを受けに行く感じにしかなっていません。しかし実際のところ、可能性のある選手はもっといると思います。そもそも『昇格できない』と判明する前に、自分から移籍する道もあっていいと思います。3年になってもレギュラーで出られそうにないなら移籍を選ぶとかね。現状は高校サッカーに行くしかない感じですけど、それ“だけ”なのはおかしな話で」


浅野「制度面だけでなく、移籍をタブー視する考えは根強くありそうですね」


川端「そこは“当たり前”が変わることで、自然と変わっていくと思います。学校単位の部活動に対してクラブチームの持っているメリットって、本来はそういう部分だと思うんですよ。チームを選べるし、移れる。発掘されるってことですね。ところが、現実はそうでもない」


浅野「チームを移れないがゆえに埋もれちゃう才能もいそうですね」


川端「そうですね。単純に上のレベルから下のレベルへという話だけでなく、同じレベルのチームであっても、Aというクラブのサッカーで評価されない選手がBでは凄く高く評価されるというのはサッカーではしばしばあることでしょう」


浅野「欧州でもそういうケースは珍しくないですよ」


川端「例えば『進撃の巨人』はトンデモないヒット作ですけど、週刊少年ジャンプに持ち込んだら『これはジャンプの作品じゃない。ウチに合ってない』と断られた。サッカー選手も同様で、別冊少年マガジンに行けば評価される選手がジャンプでくすぶっている可能性は大いにある」


浅野「確かにそういう選手は眠ってそうだね。別のスタイルのサッカーなら評価されるような」


川端「ジャンプの『観る目がない』と言われがちなパターンですが、むしろ『合わない』と判断して早々にリリースしたことによって、『進撃の巨人』は開花したんです。抱え込んでいたら、こうはならなかった。選手の流動性が生まれることで、新たに才能開花する選手はもっと増えるんじゃないかとも思っています」


浅野「これは大熊さんもインタビューで言っていましたが、そうやって育成年代での移籍が普通になることで、それに対する耐性というか、『選手が移籍で入ってくる』あるいは『出て行く』というのが当たり前の世界に身を置くことにより、プロに行ってから戸惑うことも減るでしょうし、競争社会に順応しやすくなるんじゃないかというのもありますよね。今だと最初の移籍がいきなり『海外』になりかねないですからね」


川端「もちろん育成年代で無軌道に移籍しまくる状態ではカオスになってしまうだけなので、移籍期間をしっかり設けてその範囲内でやるべきです。年2回がベターだと個人的には思いますが、最初は年1回でもいいんです。移籍に伴う育成費の支払いもより明確化・義務化すべきだと思います。特にJクラブはそこをなあなあにしちゃダメでしょう。あと、イングランドがやっているようにU-15までは遠隔地への移籍を禁止するとかですね。個人的にも、義務教育年代については他のJクラブに手を出してはダメとルール化するとか、そういう一定の歯止め策はあるべきだと思います」


浅野「プロの養成所なんだから、Jクラブのアカデミーもプロになることにもっと特化すべきなのでは。今だと大学の推薦を取るためにアカデミーにいるみたいな話も聞きますし」


川端「そもそも、そういう保険を用意しないと選手が集まらなかったんですよ。Jクラブのアカデミーが歴史の流れの中でどうやって変化していたのかという話をし出すと長くなるんですが、日本の社会的な背景もあるので、一口に“特化”と言っても簡単じゃない部分があります。話すと長くなりますが……」


浅野「今回はやめときましょう(笑)。そうやってアカデミー間移籍に育成費が発生するとなると、そもそも各アカデミーに金がないから払えない、選手が動かないということになりませんか。トップチームの予算から出してもらうわけにもいきませんし」


川端「そこは逆でしょう。払えば動くとなれば、払うクラブが出てくると思います。タダじゃないからこそ目利きも求められるようになるし、そこを育成していこうということにもなる。これが最初からお金は動かない前提だと、ビジネスの感覚も出てこないし、人材も育たないと思います。現状だと、『中学生の才能を見抜く能力が図抜けています』という人がいたとしても、大した金額もらえないでしょうし、クラブ内での地位も高くならないでしょうから」


浅野「結局、Jクラブのアカデミーがどうやって利益を出すのかというビジネスの話になってきますよね。一番は移籍金なんでしょうが、Jリーグは分配金を傾斜配分する構想もあるそうですね」


川端「プレミアリーグも実際にそうやっているようですね。ランクの高い、頑張っているアカデミーに多く配分する形にしている。日本は今育成の分配金は横並びにしていますが。ただ、その基準で『トップチーム昇格人数』みたいにするのは絶対にやめてほしいですけどね。ホームグロウン制度もそうですけど、『とりあえず人数稼ぎで昇格』みたいなのを奨励するのは本当にナンセンスですから。一方、『当該アカデミー出身選手の総出場時間』なら意味のあるデータになると思います。これは他クラブで出ている選手も含めて、です。それなら育成力を計る目安になり得るかもしれません。ただ、こっちは早めに欧州移籍した選手が多数いるクラブはどうすんだという話になってきますが」


浅野「この号のインタビューでも登場していただいたモラス雅樹(ヴィッセル神戸コーチ)さんに教えてもらったんですが、ドイツやオーストリアのアカデミーはスポンサーがついたりしているみたいです。ユベントスやベンフィカは極端な例にしても、独立組織として運営していけるだけの財政的基盤をどう作るかなんでしょうね」


川端「日本でも例はありますよ。最初にやったのは東京Vだったかな。そう多くはないですが、高校サッカーの強豪チームにもそういう動きがあって、市立船橋とか京都橘とかがやってますよね。高校サッカー選手権のような高体連の試合ではダメだけれど、日本サッカー協会のやっているリーグ戦ではスポンサーをつけて試合ができるので」

求められるのは「前倒しの育成」?


浅野「『移籍する自由』『獲得に行く自由』を生み出すと、自然とプロテクトするための早期のプロ契約も出てくるでしょうしね。これは移籍に慣れている欧州でもそうなんだけど、自国リーグを経由しない海外でのプロデビューはリスクがあって避けた方がいいと多くの育成関係者が言っています。そう考えると、『通過点』としてのJリーグにも大きな意味がある」


川端「これは言っていて思いましたが、『通過点』という言い方は良くないですね。『ジャンプ台』とか『成長ポイント』とかにしたい(笑)」


浅野「確かに(笑)。でも、まさにそういうことですよね。昨シーズンCLでベスト4に入ったアヤックスは『個別の育成』『育成の前倒し』といったコンセプトを掲げて、大きな結果を残しました。実際、デ・リフトユスティン・クライファートは17歳でプロデビューしています。Jクラブの現実的な答えもそこかなと考えています。つまり16歳でプロ契約して、17、18歳の2シーズンプレーさせて、19歳で売る」

デ・リフトは17歳でトップチームデビューし、昨季クラブ史上最年少となる19歳でキャプテンに就任。今夏8550万ユーロ(103億円)でユベントスへ移籍した


川端「これまで『いかにもJリーグだな』という事例として、5人くらいユースから昇格させる時に同時に契約のオファー出して、発表も同時でしたけど、それも崩れてきました。早めに契約するというのが当たり前になってきたのは大きな変化ですね」


浅野「さっき川端さんも言っていたけど、鹿島は明らかに移籍戦略が変わってきていますよね。『獲られる』ことを前提にしながら新しい選手を予備的に獲得しているように見えます。それが『売る』ことをより確かな前提にしていくのも遠くないのかな、と」


川端「別に全クラブが一斉にそっちへ傾く必要もないとは思うんだけど、もうちょいうまい具合の枠組みは作れるし、もっとJクラブの対外的な部分も上げられると思うんですよ。短期的に損したように感じるクラブもあるでしょうけど、長い目で言うとそうじゃない形で」


浅野「それはそうだろうね」


川端「移籍に関する仕組み作りの部分と、Jリーグの今やってるアカデミーの組織改革がうまく噛み合えば、Jリーグは世界のサッカーの中でもっといいポジション取れると思いますし、それだけのポテンシャルは絶対ある。そこに関しては確信がある」


浅野「今のままだと各クラブがアカデミーでいい選手を育てるインセンティブが働きづらいですからね。きちんと頑張ったクラブが報われて、選手も自分で環境を選べて、最終的に日本サッカー全体の発展と利益に繋がるような仕組み作りができるかですよね。Jリーグはイングランドから人材を招いていますが、海外に学ぶ部分は学んでいい形に着地してほしいです」


川端「その意味で今回の特集でも取り上げた、JリーグがプロジェクトDNAに絡んでイングランドから招いた2人は、日本のアカデミーに新しい価値観、考え方を持ち込んでくれそうで期待しています。今回の話もおもしろかったですよ。反省点としては、大熊さんの記事もそうなんですが、文字数的にまったく収まらなかった(笑)」


浅野「その続きはぜひWEBで出しましょう(笑)。今回はありがとうございました!」

●バル・フットボリスタ過去記事


Photos: Getty Images

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。