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柏はなぜ、ビジャレアルから学ぶのか?布部陽功FDは“もったいない”を解決したかった

2025.04.24

プロクラブの経営は主に、放送権料、チケット収入、スポンサー収入、グッズ販売やファンクラブなど商品化によって得られるマーチャンダイジングの4本柱が基盤とされてきた。一方、時代の変化とともに従来の収入モデルに加え、グローバリズムや持続可能性といった新たな価値観の導入と経営の両立も強く求められている。そうした中でスペイン東部、人口わずか5万人の街にある「ビジャレアルCF」は、多くのビッグクラブに先駆け「知的財産」を経営基盤に据える独自の世界戦略に打って出た。

3月には、J1柏レイソルがこの興味深くチャレンジングなプログラムをいち早く取り入れた。後編では、「アカデミーディベロップメント・プログラム」を受けた柏の布部陽功フットボールダイレクターに、その狙いや効果を聞いた。(文中敬称略)

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Jリーグで最初に受講した柏が抱えていた課題

 どしゃ降りの国立競技場で行われた4月11日の「金J」で柏レイソルはアディショナルタイム4分に木下康介のゴールでFC東京に1-1に追いつき5戦負けなし、11日時点で暫定3位とした。この試合で今季10試合を終えて4勝5分1敗。2年連続で残留争いをしていたクラブの変貌ぶりを強く印象づけた。

 リカルド・ロドリゲス監督(51)は試合後、「今後につながるとても価値ある1点だった」と、粘った試合を評価した。

 堅守速攻だった昨年の平均ボール支配率47.5%から(Jリーグ14位)、今年はJリーグトップの59.2%にまで上げ、スタイルそのものを大きく変えてスタートダッシュに成功。課題は、ポゼッションしても1試合の平均シュート数が9.7本(14位)と優位性をチャンスにつなげられない点だろう。

 監督は選手たちに「いつかキャリアを振り返った時に、人生で一番楽しいシーズンだったと一緒に言える1年にしよう」と話す。監督の「楽しかったと言えるシーズン」に集約されるポジティブな空気、風通しの良さ。こうした雰囲気も、サッカーのスタイル同様これまでとは変わってきたかに見える。

リカルド・ロドリゲス監督

 レイソルに在籍して14年になる布部陽功は19年からチームの強化担当に就き、現在はフットボールダイレクター(FD)として引き続き選手の獲得やクラブの育成に関わっている。新監督を招へいするにあたって、チームの歴史やクラブの課題など自らの考えを率直にぶつけると、監督に「一緒に新しいレイソルを作っていこう」と背中を押されたという。

 「アカデミーディベロップメント・プログラム」を相談した際も、監督は「ビジャレアルの育成は世界ナンバー1だ。学ぶ価値がある」と歓迎。シーズン開幕後、トップとは違う部門のアカデミーとはいえ、部外者とも言える欧州のクラブをオープンに受け入れた。簡単な決断ではない。

 布部は09年当時、日本サッカー協会のS級ライセンスを取得するため海外研修に同クラブを訪問した。以来、柏の人口43万人とは比較できないほど小さな街のクラブが、次々と打ち出す戦略の一端をいつか学べないかと希望していたところ、旧知の佐伯夕利子とプログラムがつながった。

 「新しい柏レイソルを作ろう」

 監督の言葉を形に変えようとするFDと未知の指導メソッドにチャレンジするアカデミーコーチたちの向上心が生み出す空気は、トップチームの好調な滑り出しと無関係ではないだろう。(インタビューは3月下旬に実施)

布部陽功FD(Photo: ©︎KASHIWA REYSOL)

改革を形にできなかった焦りとジレンマ

――FDとしてトップチームと監督を支え、勝負にこだわるシーズン冒頭、わざわざビジャレアルCFの知財プログラムを受け入れた理由はなんでしょうか。

布部「クラブに改革が必要ではないかと柏で仕事をしながらずっと考えてきました。どこが悪いとか何がうまくいっていないといった問題ではなくて、もったいない、そう思っていました」

――もったいない……例えば?……

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Profile

増島 みどり

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年独立しスポーツライターに。98年フランスW杯日本代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞。「GK論」(講談社)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作多数。フランス大会から20年の18年、「6月の軌跡」の39人へのインタビューを再度行い「日本代表を生きる」(文芸春秋)を書いた。1988年ソウル大会から夏冬の五輪、W杯など数十カ国で取材を経験する。法政大スポーツ健康学部客員講師、スポーツコンプライアンス教育振興機構副代表も務める。Jリーグ30年の2023年6月、「キャプテン」を出版した。

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