REGULAR

日本代表の暗黙のゲームモデルvsハリルの「裏」志向の対立

2018.07.24

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~


毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のお題:月刊フットボリスタ2018年8月号
「『世界基準』で見た日本」後編


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● ● ●

「幅」「2ライン間」「裏」

浅野「最後に日本のサッカースタイルの話をしてもいいですか。個人的に今大会すごく気になる部分だったので」


川端
「文字数オーバー必至ですが、わかりました。今号のフットボリスタでちょっと面白いなと思ったのはウルティモ・ウオモの人もバルディさんもそろって、『今回の日本代表には明確なプレー原則があった』と書いていることでした。日本人からすると『あったんかな?』と思うところもあるわけですが、外から客観的に、しかも継続して日本代表を見てくれていた海外の専門家にそう感じさせたのは逆に興味深いな、と」


浅野
「それは前回の対談で話題になったアンダー世代のアメリカの指導者が日本と対戦した時に『日本代表は毎回共通のプレー原則がある』と褒めてくれるのと同じだと思います(笑)」


川端
「そうそう、日本サッカーが“空気”として持っている暗黙のゲームモデル、暗黙のプレー原則を実践したのが今回の日本代表だったというのがあらためて出てるな、と」


浅野
「でも、外から見たら確実にあるとも思いますよ。だってどの年代も同じサッカーしてますから、すぐ日本代表だなとわかる」


川端
「そこをぶっ壊してやろうとしてきた(ように見えた)ハリルホジッチとの対立を通じて、あらためて選手たちの中で意識化された部分もあったのかな。だからこそ、外国の人から『明確なプレー原則がある』ように見えたのではないかな。ハリルさんがやっていた『ボランチを経由しないサッカー』とか日本の暗黙のゲームモデルではあり得ないわけで(笑)」


浅野
「バルディが整理してくれたんだけど、アタッキングサードを攻略するためのアプローチは『幅』『2ライン間』『裏』の3つしかない。幅というのは横からの攻撃で主にクロスですね。日本はこの面では厳しい。残る手段は『2ライン間』と『裏』で奇しくもベルギー戦の2得点はこの形から生まれています。日本サッカーは『2ライン間』の攻略がアイデンティティという世界的にも珍しいチームで、ただそこにこだわって中央に人数をかけまくってカウンターを食らって沈むのが負けパターンです。バルディがハリルホジッチを評価しているのは、そこに『裏』へのアプローチを意識づけたことです。肝心の『2ライン間』がなくなったのを最後どうするつもりだったのかは気になりますが、『2ライン間』と『裏』の2つの攻略ルートを突き詰めるチームビルディング、人材育成が鍵になるんだと思います」


川端
「前にも話した記憶あるけれど、ハリルは最後“クロスの工夫”でやるつもりだったと思うよ」


浅野
「クロスだと厳しいと思う」


川端
「うん、そうだろうね。でも彼の志向は明らかにそっちだから」


浅野
「つまり『裏』と『幅』か。ルカクみたいなタレントがいればいいんだけどね」


川端
「いないからなあ(笑)。でも今大会の大迫は大迫にしかできない味を出していたとも思います。(『2ライン間』を狙うという)暗黙のゲームモデルにおいて、アタッキングサード手前までは理想的なセンターFW像を描けていたんじゃないかな。ただ、『裏を忘れてしまう』というのは、ハリルホジッチに限らず、年代別日本代表の指導者たちも口をそろえて嘆くポイントですね。それこそ吉武さんも大熊清さんも内山篤さんも鈴木政一さんも、そして田嶋会長が育成年代の指導者だった時にも出てきたフレーズです。それぞれサッカー観は違うと思うけれど、でも共通して感じるポイントではある」


浅野
「そういえば、ザッケローニ監督も言っていたね」


川端
「リフティングを徹底的に重視する世界でも珍しいサッカー文化で、対面パスとかコーンドリブルも物凄く大事にするのも異質です。そういう文化の影響があると思う。長いボールを裏に蹴ると、たとえ繋がっていても怒る人多いし(笑)。何かズルいみたいな感覚すらある」


浅野
「まあ、肝心の『2ライン間』攻略もキレキレの香川頼みでしたけどね」


川端
「香川頼みというか、香川タイプこそ日本らしさみたいな意識はあったんじゃないでしょうか。あいつを生かしてこそ、的な」


浅野
「それはあるね。特異なプレースタイルというのは今回のW杯のデータからも見られました。シュートに繋がったプレーで他国に比べて明らかにスルーパスが多いとか」


川端
「“あうんの呼吸”を使ったジャパニーズスタイルの崩しは普通にハイレベルだったと思います」


浅野
「今大会そんなチームはあまりないです。バイタルエリアはみんな締めてますから。日本も締められていましたが、よく攻略したとも言えます」


川端
「狭いところに行き過ぎるのは日本の悪いところと語られがちですし、実際そうなんですが(笑)、でも狭いところでも崩しに行けるのは日本の強みでもありますよね。長所と短所の表裏一体というか」


浅野
「ただ、『2ライン間』にこだわり過ぎるとよくなくて、『裏』をどれだけ使えるか。ここもバランスだと思います」


川端
「本当は『幅』も使いたいけどね。今回はSBを使った崩しもよく機能していたと思います。守備のリスクと裏表でしたけれど。やっぱりこの『数的優位を作ってナンボ』という部分は日本の暗黙のゲームモデルですよね」


浅野
「そこは明確に感じます。ポジショナルプレーじゃなくて、局面に人数をかけ過ぎていてカオスになるんだけれど、それが効果を発揮してもいた」


川端
「カオスの中での暗黙の了解、“空気を読み合って”秩序立つのが日本のスタイルなのかな、と。渋谷のスクランブル交差点みたいなもんですよ(笑)」


浅野
「あと今大会は個人の戦術的インテリジェンスも高かった。長谷部はCBの間だけじゃなくてサイドに出たりすごく的確にポジションを埋めていたし、柴崎や香川のポジショニングも攻守に凄く考えられていました。単純に頭のいい選手がそろっていましたね」


川端
「よく言われる個人戦術のところね」


浅野
「だから、この短期間でも機能したんだと思います。ただ、この11人じゃないと成り立たないバランスでした。ゲームモデル主義のドイツとは正反対に属人的なサッカーだった」


川端
「まあでも、代表チームに時間がないのはどこも同じで、そこで人的バランスを見出すことで活路を探るというのは普通に一つの考え方だと思います。『代表監督はセレクター』みたいな言い方されるのはそこでしょう。特に日本のようなアウトサイダーは、化学変化を起こしてかけ算になる部分を作らないと、個人の総和では勝ちようがないから。今回の乾×香川、長谷部×柴崎、乾×長友、みたいな」


浅野
「そういう意味では化学変化は起こりましたね」


川端
「そこは我慢して模索して“起こした”変化でもあったと思う。西野さんらしさですね。だからやっぱり、解任するなら3月の親善試合も西野さんでいくべきだったとは言えるんじゃないですか。準備段階で“化学変化探し”しかできなかった印象も否めない」


浅野
「そこはわからないな。この短期間だからこそ開き直ってできた部分も多かったと思う」


川端
「それもまた然り、か」


浅野
「いろいろと理屈じゃないチームでしたね」

日本人スタッフの蓄積


川端
「あと、やっぱり今大会を語る上ではコンディショニングコーチたちのチームについても触れておくべきでしょう。彼らに全権を委ねた西野さんの決断含めて。こっちは完全に理屈(笑)。ブラジル大会の時はまさにこの部分で失敗したわけですけれど、ザッケローニ監督やハリルホジッチ監督と今回の西野監督の一番の違いはまさに彼ら日本人スタッフの仕事を信じて任せてくれたことにあったわけで」


浅野
「そこは日本の蓄積があるんでしょうね。2010年大会の岡田武史監督の時も含めて、確実に機能してますからね」


川端
「まあ、監督からしたらW杯直前は絶対練習したいタイミングなんですよね。現行レギュレーションだと、W杯イヤーって3月の1度しか集まれないから。そこであえて我慢して抑制した調整練習を続け、個人での調整も許し続けたのだから、その辺は西野監督の器だと思います。『何もしていない』みたいな批判はナンセンス。トップはあえて任せる、動かさない判断をするのも仕事の一つ」


浅野
「だから外国人監督を呼ぶにしても、最初の契約段階でスタッフ人事はもっと要求した方がいいと思います」


川端
「どうだろう。スタッフ人事は難しいですね。自分が外国人監督の立場だったら、よくわからない日本人とか入ってほしくないだろうし(笑)」


浅野
「そこは日本の知見を入れろ、と。『俺たちが主導した体制だと2回連続ベスト16だぞ』と言うしかない」


川端
「そういうネゴシエートが苦手なんだよね、俺たち日本人は(笑)。でも次はカタールでしょう。中東開催に関しては、絶対に欧州の指導者に負けないくらいの豊富なノウハウを持っていますよ。外国人監督を呼ぶにしても、そこはちゃんと生かせるようにしてほしいですね」


浅野
「確かにカタール開催のコンディション調整を日本以上にできる国は、中東諸国を除くとそうそういないでしょうね」

まとめ


浅野
「今回は2カ月しか準備期間がない異常事態でしたが、日本サッカーの『素の力』は結構あることがわかりました。それは大会に向けたコンディション調整や相手の分析、日本サッカーが今まで蓄積してきた無意識のゲームモデル、選手の個人戦術含めてですね。まあ、アンダーの大会だと毎回ベスト16に行っているので、不思議ではないんですが。あとはそこからのプラスアルファをいかにするかですね。そのためには自分たちの強みと弱みを客観的に知る必要があって、その上でそれを上乗せできる人を連れてくる必要がある」


川端
「その意味では、外国人監督を呼ぶならJリーグや他の役職としてワンクッション踏んでもらった方がいいのかもしれない。いきなりA代表監督ではなく。まあ、これは相手の都合を考えない勝手な議論ですが(笑)」


浅野
「でも、そうですね。いきなりA代表監督はリスクが高過ぎる」


川端
「植田のベルギー移籍が発表になりましたけど、新世代の選手たちがどんどん欧州へ出て行く中で新たに花開く選手が出て来てほしいですね。やっぱり今回のW杯では長く欧州でやっている選手たちの経験値の大きさも実感したので」


浅野
「そのあたりは今回の特集で取り上げた“移籍”パートと関わってきますね。今回の特集は日本サッカー全体に光を当てる意図で、全部繋がっているのでその繋がりも楽しんでほしいですね」


川端
「そもそも“移籍”と“育成”が同一軸上にあるという発想自体が日本には乏しいですからね。まあ、何にしてもいろいろな知見を得られたし、試合自体も面白いのが多くて、凄く楽しめた大会でしたね。日本にとってもあのラウンド16の死闘を経験できたことはきっと財産になります」


浅野
「間違いない」


川端
「あの試合についてあれがダメだったとかこれが良くなかったとか言い出すといくらでも言えるんですけれど、でも『ベルギー強かったなあ! 凄い選手いたな!』というサッカーファンとしての素直な感想も忘れないようにしたいですね。ああいうカウンターをあの時間帯に繰り出せる、技術・戦術、決断力、スタミナ、チームとしての共有感……。それを持てる選手を日本も育てていきたいなとあらためて思いました」


浅野
「いずれにしても、日本代表には『いいものを見せていただき、ありがとうございました』とお礼を言いたいですね」

●バル・フットボリスタ過去記事

Photos: Getty Images

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。