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水面下で進む大きなルール改正。「リアルタイム分析解禁」が意味するもの

2019.07.31

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~

毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のお題:月刊フットボリスタ2019年8月号
『リアルタイム分析の進化はサッカーを変えるのか?
「再現性」を追求するデータ分析の未来』

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

定量データと定性データって何?

川端「さて今号のフットボリスタは『データ特集』ということでしたが、『最新テクノロジー特集』に近かったですね。特集名を目にした時は、てっきり『プレミアリーグをデータから分析!!』みたいなのが来るのかと思いましたけど」

浅野「その勘違いは予想していなかった(笑)。そうした数字の特集をしたわけではなく、2018年6月のロシアW杯で通信機器のベンチへの持ち込みが解禁され、ベンチでリアルタイムに映像やライブデータを見られるようになったんですね。そこから1年が経った中で、欧州サッカーや日本サッカーの現場がどう進化しているのかを掘り下げた特集です」

川端「テクノロジーの進化は本当にヤバいですね。バルディさんの話を読んでいて『ここまで来たか』と。選手のパフォーマンスをAIが自動で評価していくとか。もうそこまで使えるんだな、という……」

浅野「スタッツ社のIE(=プレー効果指数)の話は俺も驚いた。ビッグデータに基づいた独自のアルゴリズムでAIを使って選手のパフォーマンスを明確に数値化する仕組みだそうです」

川端「正直、タックル数とかパス成功率とか、リアルタイムに採れたとしても特別に意味のあるデータになる可能性は低いと思うんだけど、そういう『量』のカウントじゃなくて、『質』の評価をAIが機械的にやっちまえる時代になってきているというのは衝撃的ですね」

浅野「分析にはシュート数みたいな定量分析とフォーメーションの噛み合わせなど質的な分析をする定性分析があって、サッカーに前者は役に立たないというのは前から言われていたわけじゃないですか。そして後者に関しては人がやるしかなかった。ところが、AIが後者をできるようになっていくと状況は大きく変わってきますよね」

川端「いよいよ人間の時代も終わりだな、と(笑)」

浅野「ただ、バルディさんも言っているように『どれが一番参考になるかではなく、我われにとって役に立つデータが大事』なので、やっぱり使う人間次第なんですよ」

川端「今はまだそうですね。ただ、遠からずどうなっていくかな。本誌に載ったデータスタジアム社の八反地勇さんのインタビューでもそんな話になっていましたけど、そのうち囲碁や将棋みたいに『AIに判断させた方が勝てる』という時代はきっと来るわけじゃないですか。その時、本当にサッカーってどうなるんだろうな、という。今は日本の高校サッカーでも心拍のデータを見て交代のタイミングを判断したりするようになってきていて、もうすでに変わってきていますが」

浅野「IE=プレー効果指数の話で興味深かったのは、ボローニャの経営陣がこの数字を重視していて、昨季ローマ、ユベントス、ウディネーゼに3連敗しても、IEは右肩上がりに上がっていたので監督交代による明らかな改善を認めていた、と。今までサッカーって勝ち負け以外の客観的な判断材料がなかったので、どうしても結果だけにフォーカスしちゃうか、個人の主観的なジャッジに拠っていたじゃないですか」

川端「オーナーが直感的に『この監督では勝てない』と判断したらクビ、みたいな(笑)」

浅野「そうそう(笑)。ただ、内容面が数値化できてそれを経営陣と共有できるとなると話は変わってくるんじゃないかな」

川端「その分、よりシビアに評価されるとも言えそうですし、経営者には便利なツールですよね。サッカーの専門知識やセンスに欠けていたとしても選手や指導者を客観的に見える数字基準で評価できるわけで。むしろちょっと怖いかも(笑)」

浅野「現場レベルで言うと、パフォーマンスが数値化できたとしても、重要なのはその数字をどう上げていくかじゃないですか。例えば『アタッキングサードのハーフスペースでボールを受けた回数』だったり『敵の守備ラインを突破したパスを出した回数』など、ゲームモデルやプレー原則との紐づけだったり、データの切り取り方に定性分析的なセンスが求められるかなとは思います」

川端「そう、現場はまさにそうなんだろうし、定量データに関しても一種の励みになるだろうと思う。ただ、経営者は違う形で使ってくるだろうなと直感的に思いました」

浅野「経営陣ははっきりした数字が見たいだろうから、パフォーマンスを客観的に評価できる定量データの存在は喜ぶと思う。あと、定性分析の話でも今は人間がやっているゲームモデルやプレー原則の設定って、オブジェクト指向的というか、プログラミングに近い考え方じゃないですか。そこは将来的にAIが侵食していく領域だなとは感じています。そうなった時、さっき川端さんが言っていた未来が来るのかなと」

川端「確実に侵食されますよね。サッカーって複雑系ではあるけど、やっぱり『ゲーム』なので、AIが『攻略』していく日は遠からず来るでしょう。彼らが新たな戦術を編み出したり、より最適な交代策を提示してきたり。囲碁の定石が崩されたみたいに、サッカーの定石も崩れるかもしれない。『前半25分に交代した方が実は勝率がいい』みたいな(笑)」

浅野「その例はともかく(笑)、そういう現象は起こり得るね。それは今回の特集を作っていてあらためて感じた」

川端「監督も選手と揉めたくないから、『お前を交代した方がいいというのはAIの判断なんだ。俺はお前を代えない方がいいと思ったけど、AIがそう言うんだから仕方ないだろう』みたいに言い訳をし始めたりして」

浅野「嫌な未来だな(笑)。これは河野大地さんが言っていたのだけれど、NBAはデータに基づいたゲーム分析を突き詰めた結果、ミドルシュートが少なくなってスリーポイントシュートを打ちまくるスポーツに変わった、と。そういうことはサッカーでも起こり得るよね」

川端「バスケットボールは確かに変わりましたよね。まさに定石の破壊。野球のフライボール革命とかも同じか。当然、サッカーでもそうした変化はある、というかもう起こりつつあるのかなと思います」

アマチュアにも広がる「映像分析」

川端「何にせよ、完全に人の領分だと思っていた個人のパフォーマンスの良し悪しをAIが判断できるようになりつつあるとすると、僕がイメージしていたよりもサッカー界におけるシンギュラリティは意外に近いかもしれないと思いました。無数の映像を自動チェックするAIによるタレントの発掘なんてことも進んでいくのでは」

浅野「そういう、まさに人が頑張ってやるしかなかったことがAIに取って代わられていくのか」

川端「経験によって積み上げた人間の感覚を、AIがビッグデータと圧倒的な量の検索によって上回っていく形ですね。やはり、知的労働こそが彼らの領分。囲碁や将棋だって、『AIが人に勝つのは無理。人間の直観の凄さには迫れない』とか言われていたけど、振り返ってみれば追いつかれるまであっという間でしたからね。この特集読んでいてあらためて痛感させられるのは、トンデモない規模でこのジャンルへの投資が行われていて、技術的な進歩が凄まじいスピードで進んでいることが実感できますよね。これはヤバい」

浅野「投資額は凄いことになってそうですね。AIに関して日本は先進国から完全に滑り落ちちゃっているみたいなので、このジャンルも欧州と米国が完全に先行しそうです」

川端「とりあえず分析に関する部分に限って言うと、今『人』がやっていて早期に『AI』へ置換されそうなのはやっぱり『カメラマン』だなというのも実感できます。もう人の撮った動画とAIが撮った動画はほとんど区別できなくなっていて、後者の方がよりユースフルになるのも時間の問題。人が勝てる要素は逆にコストだけという時代が迫っている」

試合映像を撮影するカメラも進化を続けている

浅野「実際、ベルギーリーグで来季から試合映像の自動撮影が始まります。AIカメラ3台でパノラマで撮影するみたいです」

川端「DAZNもやりそうですね、そのうち。いま日本の現場ではカメラマンの高齢化と人数の不足が深刻な問題になっているそうなので、その代替手段としてAIカメラはどこかのタイミングで一気に普及する気がしています。人が撮るカメラはピッチ脇の一台のみ、みたいな時代が遠からず来そう」

浅野「カメラだけでなく、社会全体でいろいろと置き換わっていくんだろうね」

川端「年代別日本代表の試合でも、スタンドでカメラ回しながらメモしていた人がハーフタイムになるとロッカールームへダッシュ!みたいなシーンがよくありますが、あれも変わるのかな」

浅野「そこはリアルタイム分析に関わる部分で、今回の号でも触れていますが、リーグが分析用の試合映像をクラウドに上げて、各チームの分析担当がリアルタイムにタグづけして映像を切ったり、データ化しています。Jリーグが今季5節から始めたLIVE SCOUTERも同じスキームです。なので、分析担当が撮影するのは遠からずなくなると思いますけどね。ただ、先鋭的と言われるウェールズサッカー協会のアナリストカンファレンスでは、アナリストには撮影の技量も求められると言っていたので、すぐにそうなるかはわかりませんが」

川端「Jリーグとかプロリーグはそうでしょうけど、そうじゃないカテゴリーの試合もありますから。逆に言うと、そういうプロではないカテゴリーでも、そうしたアプローチが当たり前になりつつあるとも言えますけど」

浅野「日本の育成年代でSPLYZAがシェアを伸ばしているのが象徴的だよね」

川端「良くも悪くも、日本の育成年代のチームはアマチュアであっても『もっと強くなりたい』『もっと選手を輝かせてあげたい』という情熱が強いから、その反映ですよね。それだけ映像分析がパフォーマンス向上に寄与できるという実感があるからこそでしょう」

浅野「映像分析は間違いなくそうですね。試合中のリアルタイム分析は通信環境の問題もあるので育成現場では難しいでしょうし、Jリーグでも数万人が入るスタジアムでは無線が安定しなくなるようです。ちなみに、この前の女子W杯は有線で繋いで落ちないようにしていたとか」

川端「その点、育成年代の試合は観客いないことがほとんどなので通信の不安は薄いですよ(笑)。何にせよ、新しい仕事ならではの重さがあって、バックヤードの重要性が増していることをあらためて実感させられます」

浅野「それは間違いないね」

「動画世代」の新たなアナリスト像

川端「わっきーさんの高校チームもそうだし、記事に出てきた筑波大学もそうなんだろうけど、学生にとっては選手以外に新しくチャレンジできる仕事が出てきたとも言える。こういうデータ分析とかって、経験として社会に出てからも役立つだろうから、いい勉強にもなりますよね」

浅野「そうそう。適材適所というか、部活の補欠問題が議論されていますが、試合に出られなくてもアナリストという役割ができて別な形でチームに貢献できるようになる。そういう中で新たなキャリアパスができたり、今まで日の目を見なかった才能が育ってくるかもしれないという期待感はあるよね。部活とか大学サッカーでアナリストが育ってプロへという流れが今後もっと出てきてほしいですし、きっと出てくるでしょうね」

川端「出てくると思うというか、現状そこ以外の供給源はかなり薄そうです(笑)。体育大学や体育学部が『アナリスト養成講座』みたいなのを作っていく流れはあるのかもしれないですね。このジャンルだとバレーボールとかが先駆的存在ですけど、その辺どうなんでしょう」

浅野「実際、ある大学なんかは凄い投資もして、全スポーツのデータ分析に力を入れているらしいですよ」

川端「やっぱり、そういう形で特色を出す大学も出てきますよね。需要あるから当然か。そのうち資格とかもできていく流れなのかも」

浅野「逆に言えば、Jリーグはまだまだそこが弱いのかもしれない。投資したチームがすぐに結果が出るかといえば、そうでもないので」

川端「確かに弱いんだけど、一昔前に比べれば確実に進歩もしていますよね。今まではお金に余裕がなかったからそこに傾注できなかったと言うのが大きかったと思うので(笑)」

浅野「DAZNマネーの流入以降、お金の問題でやれなかったことはグッと減ってきた感じはありますよね」

川端「横浜F・マリノスのビデオアナリストである杉崎健さんのインタビュー読んでいても思ったけれど、現状は『たまたま育ってきた』人を使っている感じだよね、まだ。そこをもうちょっと体系的に育てていくように変えていければベストなのかなと思うけど、でもアナリスト『だけ』をやらない方がいいのかもともちょっと思っちゃうから、ここは何とも言えないかな。日本って、すぐ『だけ』になっちゃいがちだし」

浅野「これは筑波大学の小井土監督も言っていましたが、アナリストも選手やコーチ経験があった方がいいのは間違いなくて、そこの育成プランも難しいよね」

川端「まあ、一口にアナリストと言っても、今後はより細分化していくのかもしれないですし、AIの担当領域が拡張していく中でもっとセンスや対人コミュニケーション能力の方が求められるようになるのかもしれないし。判断や分析はAIがやっているから、それを噛み砕いてわかりやすく監督や選手に伝えるのがお仕事、みたいな。もちろん、すぐにそこまではいかないでしょうけど(笑)」

浅野「指導者養成の大枠の中に、アナリスト仕事も組み込んでいくのが王道じゃない? 監督をやるにしてもそこへの理解はあった方がいいだろうし、今はデータ分析があってもそれを活用できる指導者がいないとも聞きます」

自ら撮影を行うアナリストも少なくない

川端「それはそうかも。あと河野さんのインタビューでも言っていたけど、明らかに『動画世代』はやっぱり違う感じがしますね。しゃべっている内容が“動画的”な選手が多くなったし。そういう世代からまた新しい人材は出てきそうです」

浅野「へえ。動画世代ってどう違うんですか?」

川端「動画世代なので文字では表現できないかな(笑)」

浅野「おい(笑)」

川端「いや、感覚的な部分だよね。U-20W杯を戦ったチームの選手たちも『相手を観てサッカーする』のがようやく当たり前になってきた感じがあるし。これは地味だけど確かな変化。あと単純にテクノロジーとの親和性ですよね。映像を使うことで戦術理解も進歩した感じがあります。横浜FMの分析チームの映像編集が優れていて、言葉がわからない外国籍選手もわかる云々あったじゃない? あれ、日本人でも言葉ではわからない選手は結構いると思うので(笑)。そういうわかりやすい指導を幼少期から積み上げた効果は確実に出ていると思う。もしかすると、出過ぎている選手もいるかもしれないけど」

浅野「視覚的な情報の重要度が増しているのは我われメディアも同じだよね。絶対にその方がわかりやすいし。Jリーグどうこうの前に、我われも頑張りますとしか言えない(苦笑)」

川端「俺たち文字世代の時代はまさに終わろうとしているな(笑)。フットボリスタ・チャンネル、早く作りましょう」

浅野「やりたいね。あとはインフォグラフィックだよね」

川端「そうそう、インフォグラフィック。それも即時性のあるインフォグラフィックは需要あるよね」

リアルタイム分析の主戦場はハーフタイム

浅野「最後にメインテーマであるリアルタイム分析の話をしましょうか(笑)」

川端「あ、メインテーマだったのか!(笑) 林舞輝さんは冒頭コラムでリアルタイム分析は言うほど効果をあげてないんじゃないか? という話もしていますよね。サッカーのルール特性上」

浅野「そうです。リアルタイム分析の現状を言うと、タイムアウトがないサッカーではやっぱり難しいんですよ」

川端「ハーフタイムくらいしか『タイム』がないですもんね。各アナリストもそこに懸けてますからね」

浅野「5分早く引き上げて映像を切ってデータをまとめてアナリストからコーチに伝えて、そして監督へ。これを10分以内に行うという……」

川端「だから前半最後の5分で戦術変えたり、ハーフタイム直前に選手交代したりしてかく乱することも(笑)」

浅野「なるほど、そういう駆け引きも出てくるか。バルディの『ハーフタイム前に戦術を変更したら、ハーフタイムに対応されてしまうので、機能していないのは承知の上で、あえて後半開始まで待ってから戦術を変更した』という話は面白かったですね」

川端「そうそう。逆に後半5分でいきなり交代してシステム変えたりする監督がいるのも、ハーフタイム対応を防ぐためだよね」

浅野「投入がバレると対策されるから、対策されないように交代後の策だけ伝えておいてすぐ代える、と」

川端「ただ、後半5分だけ出る選手の心理的な負荷が大きいので人心掌握の観点からは愚策になりかねないですが。純戦術的には面白いんですけど」

浅野「やっぱりハーフタイムをめぐる攻防が、リアルタイム分析では軸なんですよ」

川端「ただその点に関しては、U-20W杯や女子W杯を観ながら違う可能性も感じていたんですよ。今のサッカーでは、新しい『タイム』が生まれたじゃないですか。VARという」

浅野「ああ、なるほど」

川端「平気で2分とか中断するあの時間を効果的に使えるかは、これからのサッカーで勝敗を分ける要素になってきそうだな、と。今はみんなボーッと待っている感じですけど(笑)」

浅野「なるほど。VARで映像のチェック待ちをする時間の有効活用か」

UEFAは昨季のCL決勝トーナメントからVARを導入。準々決勝セカンドレグ、ユベントス対アヤックスではオン・フィールド・レビューが行われた

川端「インターハイとか、夏の暑い大会で導入されるようになった『クーリングブレイク』は戦術変更で活用される実質的なテクニカルタイムアウトになってますけど、ああいう決まった時間じゃないので実際に生かすとなると難しそうではありますが、軽微な変更や、事前に準備していたものを実行することはできるかな、と」

浅野「やり方次第で活用できそうですね」

川端「『もしVARで試合が切れたらこのデータをベンチに入れるぞ』とアナリストが準備しておいたり、『このデータに基づく戦術変更を選手に伝えるぞ』と監督が用意したりする流れはあり得るかな、という」

浅野「今はハーフタイムを軸にした駆け引きだけど、川端さんが言ったように今後はVARや交代も含めて、リアルタイム分析のフォードバックを行う機会をいかに作っていくかが大きなポイントになっていくかもしれませんね。それだけリアルタイムデータの有用性や信用性が上がってきているし、インプットできる情報は膨大なのに対し、アウトプットできる機会が少なすぎるのが現状ですからね」

川端「データをフィードバックする時間を作るために、転げ回って時間稼ぐ選手が出て来たりして(笑)。『今アナリストと連絡取ってるから、痛いフリをして時間を稼げ』みたいな指示が飛ぶ、みたいな」

浅野「嫌な想像するなあ(笑)。まあ、いずれにしても、映像の分析はまだまだリアルタイム分析より、中長期的なパフォーマンスアップや事前対策に使うという方が主流ですよね」

川端「現状、短い時間でどう伝えるかを突き詰める必要があるから、それをこなせる優秀なアナリストの需要が高まっているとも言えますしね。それは監督の意図を汲み取る部分を含めてで、だから横浜FMの話はやっぱり面白かったですね」

浅野「アメフトやバレーボールのようなスポーツと一緒にはできないですよね。攻撃前に一度選手が全員集まって、『これからどう攻める』と相談しているようなものなので。試合中は選手も興奮していますし、本当に要点を絞って、わかりやすく映像一発で伝えないと効果はないのかもしれない」

川端「基本的に再現性の低いスポーツですからね、サッカーは。唯一アメフト的なのはセットプレーだけで、だから映像に関してはセットプレーが一番使えるんだという指導者もいます。特にCKは頻度も高くて再現性高くデザインしやすい」

浅野「それこそ今は監督がベンチで試合中に失点シーンやセットプレーの映像も直接観られるしね。それは絶対にやらないと不利になる」

川端「『今のCKはなんでやられたんだ?』という解答はパッと出せますよね。もちろん不確定要素はあるんだけど、理詰めのパーセンテージが大きいのがセットプレー。あとはビルドアップですね。ここはサッカーみたいな競技でもかなり再現性が高くなっていて、『どうしてボールが運べないのか』『なぜプレスがかからないのか』は分析しやすいし、解答を映像で選手に伝えやすい」

浅野「あとは、これからテクノロジーへのリテラシーがますます求められるようになるので、その点でも指導者の世代交代が加速するかもしれない。結局、監督に理解がないとすべて意味がなくなるので」

川端「でも、ドイツもそうでしたけど、若い監督が結果を出す傾向が見えたら、ガッと変わると思いますよ。日本人は右に倣えなところありますし。ただ、監督というポジションはまた特殊で、アナログな人間と人間の関係を処理する能力が強く求められるので、経験も大事なのは間違いないと思います。経験があって、新しい価値観を持った若いコーチをうまく使える監督が理想かもしれない」

浅野「人間性が凄く良くて人心掌握に長けていて、組織をマネージメントする力は凄くある。でも戦術的には……という監督はJリーグでもいますよね。そこは組み合わせで補える可能性がある」

川端「欧州だとスタッフごと『チーム』で動く監督が多いのもその辺りが理由ですよね。完璧な指導者なんているわけないのは当たり前で。ただ、部下に任せるのが苦手な人は多いかもしれない。現場肌というか。マネージャーになれないというか」

浅野「監督がトレーニングの指揮を執る必要も別にないわけで」

川端「日本の例で言うと、たとえば青森山田高校が強くなったのも、黒田剛監督がマネージメントの仕事に注力するようになったからだと思うんですよね。現場を預けられる優秀なコーチがいて、監督はより広く全体を観て動いている。英国型というか」

浅野「でも、なかなかそれをできる人がいないから優秀な戦術コーチやアナリストがなかなか出てこない。それこそ(東大ア指揮蹴球部ヘッドコーチの)山口遼くんみたいなバリバリの理論派にトレーニングは任せていいんじゃない(笑)」

川端「いや、信念強そうだから、すぐ監督と喧嘩になるんじゃないかな?(笑)」

浅野「確かに彼は助手より監督タイプかもしれない。そう言えば、本人もそう言っていた(笑)」

川端「日本は下積み文化というか、企業スポーツの名残なのかもしれないけど、スタッフからアシスタントコーチになり、そこからヘッドコーチを経て監督、そして最後はフロント入りみたいな青写真を描きがち。ただ、そもそも監督に向いていない人もいるし、そもそもコーチこそ適職な人もいると思う。全体にオールラウンダー志向が強すぎるんじゃないかなと感じる。センター試験的というか(笑)。理科だけ100点、社会は10点みたいな人は生かされない。これはサッカー界に限らず、かもだけど」

浅野「それは絶対あると思う」

川端「たとえばクロップさんだって、確実に何かが欠けているでしょ、あの人(笑)。やれない仕事はいろいろあると思う。でも監督としては間違いなく最高峰なわけで」

浅野「ただ、任せるにしても監督は最低限理解していないと。丸投げになってしまうと上手くいかないでしょう」

川端「それはそう。伝え方や伝える内容は任せるにしても、伝えた結果として促す方向はそろえないとダメだしね」

サッカーの未来は「将棋」!?

浅野「欧州サッカーの現場ではテクノロジー化は加速していますし、リアルタイム分析もこれからどんどん進化していくと思います。JリーグもLIVE SCOUTERを始めたり、その流れはキャッチアップしていますが、現場でどういう取り組みが進んでいくのか注視したいですね」

川端「物凄いスピードの変化ですよね。いよいよ本当にサッカーが変わっていく感じがします。VARの導入でも感じましたが、今後は総じて人間が判断することによってブレる部分を削っていく方向になっていくのかなと思います」

浅野「サッカーのあり方自体が変わっていくかもしれない」

川端「ケミカルなドーピングからヒト成長ホルモンや遺伝子改造みたいなバレようのない『見えないドーピング』になっていくであろうことを含め、スポーツがスポーツとしての価値を維持できるのか不安になってきた部分もあったり……。ただ、将棋もそうですけど、データ化やAIによる分析が進むことで、かつては玄人のみが理解できた『良し悪し』を、素人が数字で理解できるようになることでのエンタメ化は進むのかもしれない」

浅野「それはあると思う」

川端「『今のはドリブルじゃなくてパスが正しかった。そっちの方がソフトの評価値がいい』『右SBの浅野はもう交代した方がいいな。評価値が80まで落ちてるじゃん』みたいなやり取りを観ている側が交わすようになっていくのかな。将棋はそういう要素も取り込むことで『素人が観るスポーツ』としてのエンタメ性を向上させましたからね。もちろん、そうじゃない従来型の見方もあるのは大前提で」

浅野「それは俺も感じました。どう考えても、勝ち負けでしかサッカーの良し悪しを判断できないのは良くない状況じゃないですか。そこに客観的な物差しができるのは間違いなくポジティブですよね。ただ、AIの浸食が行き過ぎたらルールでの規制も考えた方がいいのかもしれない」

川端「ミスをする人間がやるからこその面白さは絶対あるしね。采配ミスもエンタメですから。将棋もAIの台頭によってそこが再認識できたのは大きかったと思います。『人間の棋士がAIに負けるようになったら、誰も将棋を観なくなるのでは』という恐怖があったけど、実際は逆になりました。観ている側の『将棋理解度』みたいなのが確実に上がっているので。それは他のスポーツにも言えることだし、サッカーもそうなるのかもしれない。ただ、競技としての特性上、サッカーはむしろテクノロジーの攻勢を受ける中での最後の砦みたいな立ち位置になっていくのかもしれないですけど」

浅野「データスタジアムの八反地さんが、デジタル化が行き過ぎた未来において『あれ、俺が好きだったサッカーってどうだったっけ?』となってしまうんじゃないかという話をしていましたけど、ああいうことですよね」

川端「八反地さんの言葉は地味に重かった。時代がよりデジタルになっていくからこそ、人はサッカーにアナログを求めるようになっていく可能性もあるかもね」

浅野「10年後のサッカーはかなりの部分でAI化が進んでいるんだと思います。それによって新しい魅力も創出されるのだろうけれど、そうじゃない部分に郷愁を覚える人も出てくるでしょうね」

川端「ふと思ったけど、戦術をAIに任せるのがベストという時代になったら、やっぱり親分肌で人心掌握に長けたタイプの監督が最強なのかな?」

浅野「確かに……。いや、でも、そういう時代になっても棋士がコンピュータ使って将棋を勉強するように、AIの出したトレンドを吸収していかないといけないのは変わりないんじゃない?」

川端「いや、この時代に棋士が棋士たり得るのは、対局中の電子機器使用を禁止されている状態で戦うからですよ。正解に近いものをAIは持っているので、それをOKにすると『カンニング』になっちゃう。だから長期的には、将棋みたいに『電子機器のベンチ、ロッカールームへの持ち込み厳禁』的になって、アナログ時代に戻る選択をするのもあり得るのかも。観客は『AI対AI』を望まない気がする」

浅野「ただ、見た目はAI対AIと気づかないけど、実質そうなっているという未来もあるかもだけどね」

川端「それもあるなあ」

浅野「結論は『サッカーの未来を占うには将棋を見ろ!』ということでよろしいでしょうか?」

川端「いいんじゃないでしょうか(笑)。スポーツ自体の大きな分岐点が遠からず来る気はしていますし、将棋はそこが先行したジャンルの一つなのは確かなので。実際、将棋のネット中継とかを、観ている人たちの反応も含めて知ると、サッカーの未来の試合中継についても考えさせられると思いますよ」

浅野「昨年の電子機器のベンチへの持ち込み解禁はけっこう大きな変化だと思っていましたが、あまり取り上げられなかったので今回あらためてまとめてみました。その結果、いろんなことが見えてきた気がします。本日はありがとうございました」

●バル・フットボリスタ過去記事


Photos: Getty Images

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。