REGULAR

論理では説明できないハリル解任劇「謎の国ジャパン」は対戦国も脅威

2018.04.18

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~


毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のお題:月刊フットボリスタ2018年5月号
『ポーランド、コロンビア、セネガル。「日本の敵」の正体

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦


日本式コミュニケーションが生んだ悲劇

川端「今号は『日本の敵』ということで、日本代表のW杯展望、対戦相手研究が柱のコンテンツでした」

浅野「サッカースタイルって文化も色濃く反映されているのが面白くて、知らない国を知るきっかけになったりしますよね。W杯対戦国というのはその絶好の機会の一つなので、これを機会にポーランド、コロンビア、セネガルというライバル国をピッチ上の分析はもちろん、背景にある文化まで含めて取り上げるというのが企画意図です」

川端「だがしかし……」

浅野「俺は今現在進行形で日本という国の文化についてあらためて学ばせてもらっているよ(笑)。この3カ国の分析を受けて日本はどう戦うべきかというパートを設けているんですが、今回のハリルホジッチ解任でほぼ死にコンテンツになりましたね……」

川端著者の林さんは『架空戦記』と言ってましたが、ifストーリーとして面白かったので死にコンテンツではないと個人的には思いましたが」

浅野「にしても、まさか本番2カ月前に本当に辞めさせるとは……」

川端「最初は『何かのスキャンダルかな?』とも思ったものの、そうではなかった」

浅野「本当にビックリしました」

川端「ただ、『解任あるかも』というウワサ自体は前からあったんですよ。田嶋幸三会長もチラッと言ってましたが、去年の12月とかは現実的な解任危機だったのだと思います。問題は代表に貼り付いているわけでもない自分にも伝わっていた『解任あるかも』の空気感が、監督本人にはまるで伝わってなかったんじゃないかということですよ。だから解任の背景にあったのはやっぱり『コミュニケーション』の問題だと思います。選手とのコミュニケーションではなく、もっと別筋の」

浅野「テストばかりの選手起用を見ていると、監督は寝耳に水だったんだろうね」

川端「それは3月の欧州遠征2試合の戦いぶりからも明らかですよね。自分のクビが危ういと思っていたら、宇賀神の右SB起用とかテストなのか三味線なのかもよくわからない配置なんてやらないで、もっと勝ちにいっていたでしょう。やらなかったのは、ハリルホジッチ本人がその危機を感じていなかったからでしょうし、めちゃくちゃ怒っているのも、『そんな素振りなかったのに、いきなり後ろから刺された!』という感覚だからだと思います。長く監督をやってきた方なので、クビにされること自体は経験者ですし、その危機を乗り越えたこともあったけれど、日本で味わったのは恐らくまるで違う感覚だったはず」

浅野「せめてあの遠征で進退がかかっていたなら、事前にそう伝えるべきですよね」

川端「続投確定と言われていたかはわからないけれど、田嶋会長は会長になった当初からハリルに対して『信頼している』『応援しているよ』というメッセージは繰り返して伝えてきたと思います。ただ、それは本音と建前が別にある日本型コミュニケーションですよね。そして、もしかするとハリルさんはそれを真に受けてしまった部分もあるのかな、と。アフリカやヨーロッパで経験を積んできた百戦錬磨の監督ですから、会長からプレッシャーを受けること自体にはむしろ慣れていたと思います。『あいつを使え』『もっとこういうサッカーをしろ』『次の試合は絶対勝て!』とかね。でも、そういうプレッシャーを田嶋さんはかけていないと思います。解任会見でもそういう要望を伝える仕事は西野委員長たちに任せていたという節のことを言われていましたよね」

浅野「俺もそこがコミュニケーションの齟齬の原因かもと今思った」

川端「ハリルさんにしてみると、監督をクビにする権限を持つ会長が、現場に不満も持っているのに何も言ってこないなんて逆に考えられないでしょう。実はJクラブに来た外国人監督でも似たようなすれ違いを起こすことがあるんです。さらに、これは完全に僕の推測に過ぎませんが、ハリルさんは田嶋会長から『信頼しているから安心して頑張って』というメッセージを受け取っていたからこそ、西野委員長や手倉森コーチ、あるいは選手たちから上がってきた種々の要望や提案を退け続けていたのもあるんじゃないかな、と。『俺には会長の支持がある』という」

浅野「最終意思決定者は会長だからね。ヨーロッパやアフリカの常識的な現場感覚からすると、それが自然でしょう」

川端「監督に文句のある会長が何も言ってこないなんて思わない(笑)。あれだけのキャリアのある監督ですから、そういう声に対応する術策もあったと思うんですよね。『GOAL』のインタビューでトルシエ元監督も言っていましたが、アルジェリア時代だって選手や周囲の声に妥協しながらチームを作った部分があったという話ですしね。実際、2002年W杯までトルシエさんはそういう忖度もしながらやり切った部分がある」

浅野「技術委員会とはどうだったのかな?」

川端「そもそも彼の立場からすると、今の技術委員会は微妙に信用できなかったと思うんですよ。これはそこから出てくる意見の良し悪しではなく。ハリルを連れてきた霜田委員長を筆頭としてメンバーは次々といなくなってしまっているので、このあべこべな部分のあった関係性も『コミュニケーション』問題の源になっていたのかな、と」

浅野「本音と建前、日本型コミュニケーションの問題かぁー。さっきの監督がまったく予期していなかった解任の話もそうだけど、欧州社会もそうだし、国際間コミュニケーション全般に言えることだけど、不満があるならあるで具体的に『何が不満なのか?』『どうしてほしいのか?』『どっちがどこまで妥協して、どこに着地点を見出すのか』は当たり前の議論だから。会長はそれを技術委員会がやっていると考えていて、その技術委員会の言うことは『だって俺には会長の支持があるから』と監督は聞かない。だとしたら不幸なすれ違いだよね。結論を言うなら、会長は『本音では支持していない』のに『建前で支持している』なんて言ったらダメなんだよ」

川端「Jクラブを取材していても感じることですが、日本の社長や会長って、自分が現場について何か言うのはまずいという自制心があって言わない人が多い。でも実は文句を貯め込んでいる(笑)。『監督を信頼している。全力でサポートします!』と言った3日後に解任のリリースが出てくるようなのは珍しくない。日本人感覚だと『そこで本音を言わないのは普通でしょ』というところでしょうけれど、そういう本音と建前の構造に外国人監督は気付けないですよね」

浅野「組織のトップは自分の専門外である現場を尊重しているんだと思うよ」

川端「それはホントにそうです。個人的に思うのは、外国人監督に対しては逆の体制を組む方がいいんじゃないかということですね」

浅野「会長に文句を言わせて、現場は従うってこと?」

川端「従うか従わないかは必ずしも重要じゃないと思います。だって会長がまるで的外れな意見を言うかもしれないですし。ただ、『会長が不満を持っている』ことが伝わらないのは危険だと思います。不満に従うのではなく、『結果で黙らせる』というやり方が監督にはありますから。トルシエ時代とかそうだったでしょう。クビがヤバいときに勝ってましたから(笑)。逆説的に彼の時のような『解任デスマッチ』はちゃんと用意されていて、会長からのプレッシャーもあった方が、むしろ監督としては戦いやすい部分もあると思いますよ」

浅野「そもそも代表マッチで結果責任を問えるのは『予選』と『本大会』のみで親善試合はテストじゃないですか。だから親善試合の結果で解任されたように“見える”ことに最初大きな違和感を持ちました。解任するなら予選が終わった直後であるべきで、そこで今までの戦いぶりを本気で精査して判断を下すべきです。ただ、唯一の例外はどうしても判断できないから格上相手に実力を証明してみてくれという『解任デスマッチ』を設定すること。対戦相手のテンションが本番とは違うので、その結果が100%信頼できるかどうかはわかりませんが、少なくともフェアではある」

川端「チームを団結させる契機にできたりしますからね。普通の親善試合では経験できない『公式戦並みの緊張感』を生み出すこともできるからテストにも有益です。もちろんリスクもありますが、ステルスで切るよりいいと思います。そういう危機を乗り切ると、しばしばチームは強くなるし、そういう土壇場に強い監督は選手からも信頼される」

浅野「ただ、もう一つ見逃せない側面もあって、ハリルホジッチは本番前に手の内を見せたくないという思いもあったと思います。過去のバル・フットボリスタでも話題にしたセリエA分析官レナート・バルディの日本代表分析レポートの時に感じたけど、2試合のみでこちらが驚くほどの精度で長所も弱点もすべて丸裸にしちゃうんだよね。今のトップクラスのアナリストは本当にレベルが上がっていて、分析する時間がたっぷりある一発勝負のW杯は本当に『情報戦』だなと痛感しました。事前の情報は隠せるだけ隠した方がいい、場合によっては親善試合はすべてテストに使ってもいいとすら思いました。もちろん、強豪国はそんなことする必要はありませんが、日本のような突破と敗退の境界線にある国は情報戦が生命線になります。ハリルホジッチはボーダーラインの国を率いるスペシャリストなので、勝負師としての『本番』で評価してあげないとフェアではない」

川端「でもそれをハリルホジッチに言ったら、『解任されるよりはいいだろ!』と言うと思います(笑)。当然『毎試合が解任デスマッチ』はダメですよ。弊害が大き過ぎますから」

浅野「そういう『解任デスマッチ』を設けるなら予選突破のすぐ後くらいですよね」

川端「もちろん遅かったと思います。そこは当然の前提。その上で、あえて今回のベルギー遠征で解任の是非を問う必要があるならば、『ウクライナ戦は自由にテストしていいけど、マリ戦は死ぬ気で勝ちに行くところを見せてくれ』でよかったんじゃないでしょうか。それでクビになったとしたら、ハリルホジッチはあんなに怒ってないと思いますし」

浅野「アフリカという非常識なバトル空間で生き抜いた人なので、会長から理不尽な要求が落ちてくること自体には耐性もあったと思いますが、『そんなこと言ってなかったではないか』『なんで今なんだ』というのはあったでしょうね」

川端「だから欧州系の外国人監督に対しては同じ『本音と建前』でも、やっぱり逆がいいと思います。会長から監督にストレートな要求が出るけれど、技術委員長は監督の立場に立って会長と戦い、メディアとも戦う。お前とは一蓮托生だ、と。もしかすると本音とは違うかもしれないけれど、そのポジションを取る。ハッキリ言うだけだと、たださえ孤独な外国人監督が孤立しちゃうので、味方である人が必要なのは間違いないと思います。だから、やはりハリルさんの悲劇は霜田委員長退任から始まっていたんだとは思いますよ」

15年3月、ハリルホジッチ氏の監督就任会見で。右が霜田委員長(当時)

浅野「もう一つ、『世界の中の日本』という視点で見れば、今回の解任劇で日本サッカーは信頼を失ったと思います。今までは日本という国のイメージもあり、欧州をはじめとしたサッカー先進国の指導者からも日本はサッカー的にもオーガナイズがしっかりしていて信頼できる国と受け止められていました。代表監督もアクシデントがない限り4年間勤め上げますし、安心して自分の仕事がしやすい環境と捉えられていました。そんな良くも悪くも『パターンの国』に一体何が起きたんだと世界的にもちょっとした騒ぎになりました。現にフットボリスタにもポーランドメディアからの取材依頼がありましたしね。W杯2カ月前の解任、しかも会長の言葉を借りれば『結果』ではない。ハリルホジッチも意味がわからないと思いますし、それは他の国のサッカー関係者も同じです。この意味不明な解任劇は、今まで日本サッカー界が築き上げてきた『信頼できる国』というパブリックイメージに大きな傷をつけました。アギーレ、ハリルホジッチは大物がやりたがらない代表シーンの中ではクラスの高い監督で、正直よく連れて来たなというレベルでしたが、今後はこのレベルの真っ当な外国人監督の招へいは難しくなるでしょう。来たとしても、すごく胡散臭い山師みたいなのが来そうで嫌ですね」

川端「それについていろいろな人に話を聞いてみているけど、浅野さんが懸念していたような監督呼べなくなる的なことはないかもしれない。ハリルホジッチさんの性格はよく知られているので、『またハリルがやったかー』みたいなリアクションが監督業界的には多いようですし。これまで積み上げてきた日本サッカーへの信頼があるのも確か。ザックさんも言っていたみたいだけど、『あの日本人が怒るのだから、アイツはよほど酷いことをやったのだろう』というのもあるようで(笑)。あくまで僕が聞いた中での感覚的な話ですけれど、でも日本向けに極端な逆風が吹いているわけでないのは事実だと思います」

浅野「変人ハリルの悪名が日本サッカー協会の理不尽を上回った(笑)」

川端「そもそもあれほど実績ある人があの時期に売れ残っていたのはそういう部分を忌避する人が向こうにも多いからだしね。まあ、それがハリルさんの魅力だとも思いますが。だから逆に言うと、W杯後も日本人監督にこだわらなくても大丈夫です。そう考えると、田嶋会長が『サッカー』じゃなくて『コミュニケーション』を理由に強調したのは、海外向けとしてはポジティブだったのかもしれない」

浅野「さすがFIFA理事、国際感覚がある(笑)」

川端「もちろん、狙ってはいないでしょうけれど」

■「サッカー人」田嶋会長、なぜか背水の陣

浅野「そもそも、そうしたコミュニケーションの齟齬もそうなんだけど、ハリルホジッチの何が不満だったと思います?」

川端「個人的には、解任の理由をもっとストレートに『サッカー』として説明していたら、田嶋会長の会見に共感する声も多かったんじゃないかという気もするんですよ。『結果が出ていないし、試合内容も悪いので監督を代えます』とね。『選手とのコミュニケーション』じゃなくて。それを理由にしてしまうと、『技術委員会は何をやってたんだよ!』という反応になっちゃうのも仕方ない。親善試合やE-1選手権での内容や結果がいま一つだったのは普通に事実だし、そこに不満を持っていたファンが多かったのも確かですから、それを理由に押し切った方がクエスチョンは少なくなったのでは。もちろん反発や批判がなかったという意味ではないですが」

浅野「試合内容をファンが不満に思うのは理解できます。ただ、当事者であるサッカー協会はサッカーの常識に応じて動くべきでしょう。事前に何も言わなければ親善試合は本番への準備に使われますし、それが嫌ならそう言わないと。もう一つ、俺がキーワードとして挙げたいのが、『ビジネス化』ですね。サッカー日本代表というのは、日本スポーツ界の中で最強のビジネスコンテンツですから。要は毎試合『絶対に負けられない戦い』で、一見さんも楽しめる好感度の高いサッカーをしなければならなくなっているのかな、と」

川端「そこはどうかなあ。要は最後に勝てりゃあいいんです。その前提は協会側、というか田嶋会長にはむしろあったんだと思います。あの人も年代別とはいえ、代表監督だった経験のある人ですから。でも会長的には最終的に『勝てる気がしなかった』ということなのかと。逆に言うと、だからこそ、ここまで引っ張っちゃったのかなという気もしています。ホントの素人会長だったら、『こんなサッカーじゃダメだ!』『あんな監督は嫌いだ!』と早々にクビを切っていたんじゃないかな、と」

浅野「理由はピッチ外の要因なんじゃないの? サッカーの常識に反しまくっていてあまりにも不可解だから、外から見ている人間は完全にサッカーではない要因で決まったな、と感じていると思います。当のハリル本人がそういうコメントを出していますから。あれはポジショントークではなく、まぎれもなく本音でしょう。俺もそう思ったし」

川端「むしろ田嶋会長からはビジネス化と逆の傾向すら感じますよ。だって、ビジネスに徹しているなら、3月の試合は国内で組むでしょう。昨年の欧州遠征含めてガラガラの強化試合を第3国開催でやることで日本サッカー協会はむしろ懐を痛めているわけで。そもそも儲けるための最善策もW杯で勝つこと以上にないのは明らか。そういう認識がなかったとは思えません」

浅野「俺はそこほんとにわからないんだけど、前回W杯ベスト16の実績がある監督としてハリルを連れてきているわけじゃないですか。で、W杯予選突破は決めた。本番に向けて明らかにテストばかりしている。で、これだと勝てないからクビ??? そこにどういう根拠があったのか、あまりにも理解不能じゃない? だから真偽不明なスポンサーからの圧力説なんてのが出てきているんだと思うよ。まったく論理的じゃない決断に見えるから、サッカー以外の論理が働いたんだろうって」

川端「もちろん、俺もわからない(笑)。ロッカールームその他で何かあったのかもしれない。そこは外野から見えないところですし、選手から意見が上がっていたのは事実だろうけれど、そこを汲むかどうかは別の判断だしね。実際、12月までは汲まなかったわけで。ただ、スポンサーの意向ってことはないんじゃないかなあ。何しろ、もう2カ月前ですからね。スポンサーも大会に向けて動き出してしまっている。彼らがどの選手が選ばれるかはわからない中で何を使うかというと、監督ですからね(笑)。グッズ、ポスター、トレイラー。そういうところのキービジュアルでハリルさんは使われていたわけで、このタイミングの解任は、むしろスポンサーにとって大変過ぎる。これが『後任は中田英寿さんです!』みたいな人気取りのトンデモ人選だったらそっちも疑いますけれど、西野さんですからね。ビジネス的判断なら普通過ぎますし、何より遅過ぎます」

浅野「それはそうだけど、同じようにサッカーの理由で代える根拠もなくない?」

川端「ハリルさんのキャラクターに対する不信もあったのだと思いますが、そもそもサッカーの価値観の相違がくすぶっていて、そこへ最後に火がついた形なのかな、と。ハリルさんのスタイルが、そもそも日本の指導者層のアレルギー反応を生んでいたのは間違いないと思います。『デュエル? いや、デュエルを避けてこそのが日本サッカーやろ』。あとは田嶋さんも会見で言っていた『パスを繋ぐサッカー』にこだわってこそである、という。これは確かに根強い。ユース年代の指導者に話を聞いていても、ハリルホジッチさんのサッカーをどう捉えるかは割りと二極化されていましたからね。W杯を受けてそういった傾向がどう変わるのかは日本サッカーにとって一つのポイントだろうみたいな原稿を自分は準備していたんですが、霧消しました(笑)」

浅野「E-1選手権が典型だったけれど、Jリーグの平均的ないい選手にそのままハリルのサッカーをやらせた時の惨状が物語っているものはありますよね。平均的な日本人の良さを消し、苦手な部分で勝負している。ただ、西部さん、河治さんとの座談会のテーマにもなっていたけど、攻撃時に人数をかけてポジションバランスを崩す日本の攻め方はカウンターに弱くて、世界の舞台ではそこをもろに突かれる。これでは勝てないと冷静にハリルが判断していた部分もあると思います」

川端「実際、日本が世界舞台で結果を出したときは堅陣速攻型が多いのは事実としてある」

浅野「そのジレンマがあります。あくまで勝つために堅守速攻に向いた人材を集めて戦う短期プラン、負けてもいいから自分たちの強みを生かしたサッカーを積み重ねていく長期プラン、わかりやすく言えばそうなります。日本が自分たちの良さを出しつつ結果と内容の両取りを目指すのはまだ先というか、世界のトレンドを一回吸収した後だと感じています」

川端「ハリルさんの本大会における最終構想はもはやわからないですが、3月の欧州遠征で大島僚太と森岡亮太をいきなり使っていたあたり、果たしてどうだったのかなあ、と。言うほどデュエル重視、リアクション寄りの結論だったのかさえよくわからない部分もあります。まあ、あれも単なる迷いだったのかもしれないし、本大会に向けたブラフだったのかもしれないですが、今となってはもうわかりませんしね」

浅野「サッカーの監督の評価って、結局実績だよね。ハリルを代えるならハリル以上の監督が必要だし、ここまで引っ張ったら本番でお手並み拝見が既定路線だと疑っていなかった。いずれにしても、日本がW杯本番をどのスタイルで行くのかを判断するはもうずっと前の段階でしょう。親善試合で評価しても仕方ないし、『解任デスマッチ』にする気配もまったくなかったしね。そこはなんだかんだ言ってもサッカー協会は腹をくくっていると考えたし、ハリルも常識的判断としてそう考えていたと思う。もちろん、日本らしいサッカーをあえて貫くのも一つの選択だと思います。今は勝てなくとも、積み上げることで将来は勝つという長期計画を立ててね。ただ、ハリルを選んだ時点で違うでしょ、と」

川端「そこはそうでしょうけれど、田嶋会長にすると『俺が選んだわけじゃない』というのはやっぱりあったと思いますし、そこからボタンの掛け違いはずっとくすぶっていたのだと思います。あと、もう一つ根底にあるのは『日本人監督待望論』ですよね。これは間違いなく根強くずっとある。『なんで外国人ばかり監督にするんだ』という不満はプロの指導者層にあった。だから今度のW杯の後に日本人監督が誕生すること自体は、実のところ既定路線だったと思うんですよ。前倒しになったのがビックリなのであって、『西野監督』の誕生自体は別にサプライズじゃない」

浅野「俺、昔から欧州サッカー通ぶる人が日本サッカーを馬鹿にするのが大嫌いだったんだよね。実際、日本サッカーにはいいところがたくさんあるし、昨年だってU-17とU-20のW杯で両方グループステージ突破している国は6か国くらいだよね。そういう考えだから日本人監督の夢もわかるし、若い監督を応援したいとも思っている。ただ、それでも今はやめた方がいいかなと。ここ数年の欧州サッカーの進歩は著しくて、正直日本サッカーは圧倒的に置いていかれたなと感じています。4年前は間違いなくもっと近かったんだよ、日本と世界の距離は。俺はザッケローニのチームはW杯本番でも行けると思っていたし、そう分析していた世界のエキスパートも多かった。あれは隠れた好チームだって。ただ、世界との距離はここ4年で大きく遠のいた。今はそれを必死でキャッチアップして学ぶ時期がまた来ている。日本らしくアレンジして追い抜くことを考えるのはまだ先かなと」

川端「自分は『日本人監督』という選択肢そのものを排除するのは反対なんですよ。日本人の指導者にはそういう野心を持っていてほしいし。Jリーグでホントにとんでもないチーム作って、アジアでもクラブW杯でも優勝してみたいなチームが出てきて、その監督が代表監督に推されるみたいな可能性は残しておいてほしいです。ただ、仮にそういう指導者が出て来た場合でも、スタッフを日本人で固める必要はないと思います。分析、フィジカル、GKといった個別的な分野の専門家を含め、外国からの智恵と刺激は入れた方がいい。それこそ遣隋使以来の“日本らしさ”ですから」

浅野「日本人監督+海外の優秀なアシスタントコーチと組み合わせるのは、確かに面白いかもしれない。結局、欧州のビッグクラブ監督も実際の練習は優秀なテクニカルチームが仕切っていたりするしね」

川端「鎖国で強くなるのは超難しい。今回は『時間がない』ということで日本人で固めたとのことですが、ならば『時間がある』時に日本人スタッフで固めることにこだわる必要はないとも言えます」

■これぞ世界最先端の情報戦???

浅野「実際、西野体制の日本代表はどうなると思いますか。2カ月で何ができるのだろう?」

川端「逆に言えば、監督解任ブーストを狙うには早過ぎますよね。2カ月あったら、ブーストの効果なんて消えますから。5月30日のガーナ戦翌日、そこで負けた後に最終メンバー発表直前に解任するなら、ブースト狙いはあり得た……わけもないか」

浅野「直前解任のメリットとしては、日本がどういうサッカーをしてくるのかわからなくして相手の研究や分析を雲散霧消させることはあると思うけれど」

川端「それを狙ったということはないでしょう(笑)。まあ、結果としてそういう効果が出る可能性はありますが」

浅野「世界最先端のサッカーはロジカルになり過ぎるくらいロジカルなので、この監督解任で情報戦で優位に立ち、カオスの勝負に持ち込むのは突破口かもしれない。もう日本がこの先どうなるのかは誰にもわからない(笑)。今でも実績あるハリルを解任してW杯経験がない西野さんというのは謎だけれど、サッカーは計算だけじゃないので、逆境での理屈じゃない底力に期待しています。狙ったわけではないですが、ハリルの計算よりもそれが一番対戦国には怖い気がします。何しろまったく読めないので。実際、俺が対戦国のアナリストだったら相当嫌だな。特に初戦のコロンビアの分析官にとっては悪夢のような状況(笑)」

川端「結果としてW杯で一番不気味な国になったかもしれない」

浅野「ぶっちゃけ効果的ではあるんだよ、監督解任ブーストは。ただ、日本がその魔力にはまるのはちょっと……、未来を切り売りするような作戦なので」

川端「1994年大会でのサウジアラビアがそれですよね。直前解任でソラリが監督になり、2勝1敗でベスト16。結果としてめちゃくちゃいいチームにもなっていたのだけれど、それ以降クセになってしまったのか、大会中にまで監督を代えるようになってしまった。ああはなりたくない(笑)。それこそ僕らも意識して戒めないといけないことだろうとは思っています」

1994年W杯のサウジアラビア代表

浅野「日本のサウジアラビア化(笑)。もう何が起きても不思議じゃないという感覚になってきました。ガーナ戦後に西野監督が解任されて新しい監督が来るとか(笑)」

川端「いっそ、一戦ごとに監督を代える究極のカメレオン作戦もいいかもしれない。第1戦を西野朗監督、第2戦を手倉森誠監督、そして第3戦は森保一監督……」

浅野「とんでもない新機軸が発明された(笑)。FIFAのルール上は禁止されていないはずです。まさにオールジャパン」

川端「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する作戦ですね――って、そんなわけないでしょ!(笑)」

浅野「最後は思わずヤケクソになってしまいましたが、でもやっぱり俺は日本代表を応援したい。そこだけは絶対にブレたくないですね。日本サッカー界の人がそれぞれの立場で本気で頑張っていること自体はまったく疑ってないですから」

川端「それは本当にそうですね。だから余計にこんな形になってしまった不幸な流れが残念ですが。でも、覆水盆に返らず。ここまで来たらやってもらうしかないでしょうし、でもきっと選手・スタッフは全身全霊を注ぎ込んで戦ってくれるでしょう。そこも僕は疑っていません」

●バル・フットボリスタ過去記事

Photos: Getty Images

プレミア会員になってもっとfootballistaを楽しもう!

プレミア会員 3つの特典

有料記事が読める

動画が観られる

雑誌最新号が届く

「footballista」最新号

フットボリスタ 2020年11月号 Issue081

高度化するピッチ外の戦い。FFPを軸にモダンになったクラブ経営を読み解く。 特集➀FFPを理解するためのサッカーファイナンス入門。 特集②20-21欧州展望。新時代を切り開く戦術家たち

10日間無料キャンペーン実施中

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。