どこよりも真剣にJapan’s Wayを掘り下げる。「日本人らしさ」という幻想と向き合えるか

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~
毎号ワンテーマを掘り下げる雑誌フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。
今回は、JFA(日本サッカー協会)が打ち出している日本サッカーの強化方針であるJapan’s Wayをめぐる様々な議論について考えてみた。
今回のお題:フットボリスタ2021年1月号
「ゲームモデルvs個の育成
新パラダイムで変化する世界の育成事情」
店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦
「育成のローカライズ」が重要な理由
川端「やあ、マスター。コロナ下でも営業してたんだね。この店、俺しか客を見たことなかったけど」
浅野「ええ、唯一の客だった川端さんも来なくなったのでしばらく休業していましたが、物好きな方から『再開しろ』という要望をかなりいただきまして、再び店を開こうかなと思った次第です」
川端「僕のところにも結構来てましたね。意外と需要があったのかと驚きつつも、楽しみにしてくれていた方がいたなら申し訳なかったなという気持ちです」
浅野「また今回からざっくばらんに話していきましょう。今号は川端さんの専門分野である『育成特集』でした」
川端「専門ではないよ。趣味分野」
浅野「確かに変態的興味ですからね(笑)。今号で川端さんには、U-19代表の影山監督と青森山田の黒田監督を取材していただきましたが、どうでしたか?」
川端「日本の育成を協会やJリーグのサイドからだけで見ちゃうと一面的な切り方になり過ぎるだろうと思ったので、『部活サイド』から黒田監督にも登壇してもらいました。2人は対照的なことを言っているようでいて、実は『日本サッカーの課題感』としては共有している部分も大きいんですよね。それは聞きながらあらためて感じました」
浅野「2人は経歴も対照的ですよね」
川端「影山監督は福島県生まれで、筑波大出身の元Jリーガー。ドイツで実際にケルンのユースチームのコーチも務め、向こうの大学でも学んでそっちの人脈もあり、語学も堪能なので海外の知見を豊富に持つ方ですね。フランスW杯初出場に分析スタッフの1人として携わり、マカオやシンガポールで監督をして、その後はファジアーノ岡山監督を経て、年代別日本代表監督。こうやってしゃべっていても、だいぶイレギュラーな経歴ですよね(笑)。一方の黒田監督は北海道出身で、大阪体育大学を経て、25歳で青森山田高校の監督に。そこから叩き上げて指導者として高校サッカーの最前線で戦って実績を積み上げてきた方。確かに対照的です」
浅野「影山監督もそうですし、黒田監督の話を聞いていても思いましたが、海外の知見を採り入れた上での『育成のローカライズ』があらためて重要なのかなと思いました」
川端「今号のフットボリスタを読んでいて思いましたが、やっぱり各国・各クラブ、育成に関しては十人十色というか、百家争鳴ですよね。いろいろな捉え方があって取り組んでるし、10年経ったら『あ、やっぱりアレは違ってたわ』みたいにもなるし(笑)」
浅野「日本も昔、フランスのINFのクロード・デュソーさんをJFAアカデミーの校長に招いてフランスの育成メソッドをそのままやろうとしたら、あまりうまくいかなかった話があったじゃないですか」
川端「あれはむしろ、デュソーさんがフランスでやれなかったことをやろうとしていた節もありましたけど、言いたいことはわかります」
浅野「やっぱり育成はその国の文化の中で生きている子どもたちをどう育てるかという話だから、ローカライズはめちゃくちゃ大切ですよね。そういう意味で、日本の子供たちに足りないのは『競争意識』や『自己主張』で、それを育む環境としての『体育』にも必然性はあるなと、あらためて感じました」

川端「黒田監督が意識しているのはまさにそこでしたしね。実際、青森山田の試合を観ていると、選手たちがめちゃくちゃ主張し合っていて面白いですよ。今年、プレミアリーグがなくなって対戦することになったベガルタ仙台ユースの壱岐監督もそこに一番驚いてました。日本の文化だと何となく言いづらいような厳しいことも言い合うので」
浅野「川端さんが前にしていた話だけど、影山監督はトレーニングの中で『競争意識』や『コミュニケーション(=自己主張)』を意図的に発生させる形にしていて、そこが面白い、と。それこそエコロジカル・トレーニングのアプローチに近いという話でしたよね」
川端「2人の指導者としてのアプローチは違うんですけれど、日本サッカーに対して持っている課題感と、その改善を重視している点は似ていると感じるのはそこですね」
結局、Japan’s Wayとは何なのか?
浅野「ただ、読者の感想としても頂きましたが、『Japan’s Wayとは何なのか?』については抽象レベルが高いので、やっぱり伝わりにくいかもしれませんね」
川端「そこはまさに協会内で『Japan’sWay』をブラッシュアップする作業中で、具体的に出せる要素が少なかったというのも大きかったとは思います。個人的には『Japan’s Way』が永久不変のものではなく、時代性を持ったものなんだという考え方を示してもらえたのは良かったのかな、と」
浅野「金科玉条ではないってことだよね」
川端「そもそも『日本人』ってそんな固定的なモノじゃないでしょう。『日本人らしさ』とかいうなら、なおさらです。U-19代表の影山監督や冨樫剛一コーチは『日本人とは何か』みたいな部分から議論したそうですが、実際、集団的なメンタリティ一つを取っても、時代性は大きいんですよ」
浅野「というと?」
川端「例えば、僕や浅野さんが学生だった頃(90年代)と比べても、ヤンキーと呼ばれる層がすっかり薄くなったじゃないですか。年代別日本代表チームに選ばれるような選手の考え方や行動も様変わりしたと感じます。20年前はU-19日本代表合宿を観に行ったファンが、自販機でタバコを買っている選手と遭遇するなんてことが起こっていましたが、今なら起きないでしょう」
浅野「誰の話かは聞かないでおこう(笑)」
川端「西野朗さんが技術委員長だった時にユース代表の視察に来ていて話したことがあるんですが、西野さんが30年近く前にユース代表監督だった時とは選手たちのメンタリティがまったく違う、と。自分が監督だった時はサッカー以前のところで胃を痛めていた。遠征先で悪さしちゃうとか宿舎から抜け出して遊びに行っちゃうみたいな心配をしなきゃいけなかったけど、今の選手たちは本当に真面目でサッカーのことをまず考えている。監督がサッカーのことを考えられるからいいね、と(笑)」

……
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Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。