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ビジャレアルCF・佐伯夕利子氏に聞く、柏レイソルも取り入れた「知的財産」を活用する独自の世界戦略とは?

2025.04.23

プロクラブの経営は主に、放送権料、チケット収入、スポンサー収入、グッズ販売やファンクラブなど商品化によって得られるマーチャンダイジングの4本柱が基盤とされてきた。一方、時代の変化とともに従来の収入モデルに加え、グローバリズムや持続可能性といった新たな価値観の導入と経営の両立も強く求められている。そうした中でスペイン東部、人口わずか5万人の街にある「ビジャレアルCF」は、多くのビッグクラブに先駆け「知的財産」(IP=Intellectual Property)を経営基盤に据える独自の世界戦略に打って出た。

3月には、J1柏レイソルがこの興味深くチャレンジングなプログラムをいち早く取り入れた。前編では、その戦略を佐伯夕利子氏に聞いた(文中敬称略)。

人口5万人の街のクラブが、世界30カ国以上で知財を提供

 サッカークラブによる新たな世界戦略の波はこの3月、スペイン東部からは地理的に最も遠方に位置する極東にも到達した。

 佐伯夕利子と、同クラブ国際事業部が知財として展開する「アカデミーディべロップメント・プログラム」に携わるアレハンドロ・マルケスが上旬に来日。柏に滞在し、レイソルのアカデミーを指導するコーチ21人を対象に4日間のセミナーを行った。

 2017年、知的財産の強化と世界的展開に注力するためクラブの組織内に新たに国際事業部を設立。長いコロナ禍で困難な時期があったにもかかわらず、昨年まで7年で早くもヨーロッパ、アメリカ、アジア、中東、オーストラリアなど世界30数カ国で知財ビジネスを定着させている。

 同プログラムを日本で実施するのは柏が初めてで、布部陽功フットボールダイレクターの意識改革への強い希望と旧知の佐伯との縁で実現したという。単発のセミナーや講演会とは違い、半年以上をかけて3つのフェーズで濃密なプログラムが実施される。つまり知的財産の公開は、ビジネスとして惜しみなく提供されるわけだ。

 第1フェーズでは、柏とつないでのオンライン講義が2日に渡って行われた。スペインサッカー、リーガの歴史や背景、ビジネスの成り立ち、中にはフットボールとサッカーは何が異なるのかといった社会学的なアプローチも含まれる。講義の最後には柏レイソルのクラブ史、Jリーグの歴史をそれぞれ調べて第2フェーズで発表する宿題が出された。

 指導者たちにとって、クラブやJリーグ、日本サッカーの歴史を自分がどこまで把握して育成年代を指導できているかと問われるのは、ある意味「灯台下暗し」だろう。スペインの強豪から技術論や最先端の戦術論を聞くより先に、自分が立つピッチの土台に目を向けなくてはならない。これもこのプログラムの大きな特徴である。フットボールへの深い知識と明確なスタンスこそ、小さなクラブが培ってきた数多くの知的財産を構成する原点だからだ。

 第2フェーズが、3月に佐伯たちが来日して行った講義となる。滞在した4日間、午前10時30分から昼過ぎまで座学、午後は実際にトレーニングを見学しながら気がついた点をコーチ陣と議論する。

柏アカデミーの選手たちと記念撮影するアレハンドロ・マルケス氏と佐伯夕利子氏

 佐伯は、この議論の時間が強く印象に残ったと振り返る。

「言葉を揃える」とは?

――柏でのセミナーの感想は?……

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Profile

増島 みどり

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年独立しスポーツライターに。98年フランスW杯日本代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞。「GK論」(講談社)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作多数。フランス大会から20年の18年、「6月の軌跡」の39人へのインタビューを再度行い「日本代表を生きる」(文芸春秋)を書いた。1988年ソウル大会から夏冬の五輪、W杯など数十カ国で取材を経験する。法政大スポーツ健康学部客員講師、スポーツコンプライアンス教育振興機構副代表も務める。Jリーグ30年の2023年6月、「キャプテン」を出版した。

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