REGULAR

宮市亮やロッベンから学べること。サッカー選手をケガから守る方法は?

2019.04.08

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~

毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のお題:月刊フットボリスタ2019年4月号
『ケガとともに生きる』

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦


理不尽に立ち向かう偉大な姿

川端「今号のフットボリスタはケガ特集という理解でいいんですよね? これまたマニアックですが、どうしてこのネタになったんですか?」

浅野「ケガ特集も今年どこかでやりたいと考えていたテーマで、プレミアの過密日程が問題視される2、3月がいいかなと。ちょうど故障者が増える季節ですしね」

川端「以前のフットボリスタで片野道郎さんも書いていましたが、『そもそも寒い冬はケガが多い』という統計もあるんですよね」

浅野「そうそう。あと最初の質問に戻ると、ケガは週刊時代のフットボリスタでも取り扱っていたテーマで、ケガという理不尽な状況にどう立ち向かったのかとか、逆境をどう乗り越えたのかといった選手の心理面を含め、あまり表に出ない部分だけれど、スポーツで大事な部分に光を当てたかったのがあります。それにプラスして、今のフットボリスタの方針でもあるんですが、欧州サッカーの現場でどういう取り組みがされているのか、というケガに関する最先端の情報を伝える意図ですね」

川端「ケガは本当に理不尽ですよね。俺が記者をやっていて一番きついなと思うのは、選手がケガをする場面に立ち会っちゃうこと。その選手がピッチに立つためにどれだけの情熱を注ぎ込んでいたかが見えているから、もうね……」

浅野「スポーツに限らないですが、現実は理不尽なことが多いじゃないですか。だからこそスーパースターの成功の秘密よりも重要なことがあるんじゃないかなと思います」

川端「いやいや、ケガによる挫折から立ち直って輝いているスーパースターは、より最高のシンボルだよ。ホンモノのスーパースターになる」

浅野「そういう人は本当に凄いと思うよね。今回の特集をやってさらにその思いは強くなりました」

川端「今号では日本人選手だと宮市亮についても出てくるけど、彼のように理不尽に折られても折られても立ち上がって挑戦し続ける姿勢は本当にリスペクトの念しかない。復帰してからのゴールを見た時とか、本当に感動したから。その宮市にしても、まだ26歳じゃん。まだ選手としての『時間』は十分残っているわけで、そういう意味でも『これから』に期待したい」

浅野「宮市のように前十字靭帯は片方やったらバランスを崩していて逆足もやっちゃうケースがあって、ナポリのミリクも厳しいリハビリから復帰してすぐに逆足の前十字靭帯をやっちゃって、ベティスのカナーレスなんて3回も断裂しているからね。そんな2人が今では大活躍だからね。宮市もこれからだよ」

3度の大ケガを乗り越え、28歳にしてスペイン代表デビューも果たしたカナーレス(右)

川端「物凄い精神力の強さだと思う。俺だったら100%折れてる(笑)」

浅野「大きなケガをして絶望的な気持ちになっているアマチュア選手にもぜひ読んでほしい号ですね。あと、これはそんな選手を周りで支えているスタッフの話でもあります」

川端「ロッベンのインタビューでもその辺りは強調していましたね。支えなくしては無理、という」

浅野「すごく重要な仕事なので、そこにも光を当てたいなと。あとロッベンみたいな頻繁にケガする選手は『復帰を果たした時のとてつもない喜び』をエネルギーにしているんだなというのもわかりました」


「強化」と「予防」の矛盾

川端「ケガ人の復活劇は本当にドラマなので治療やリハビリにはよくスポットライトが当たりますけど、『予防』も知りたいところですよね。『一番の予防策は、そもそもサッカーをしないことさ』とかいう皮肉もあるそうですが(笑)」

浅野「そのくらいサッカーというスポーツはケガと向き合うしかないところがありますね。当たり前だけど、実は『予防』が一番重要だとも思います。接触による外傷は防ぎようがない部分も大きいし、生まれ持った体質もあるでしょうが、疲労や負荷のかかり過ぎによる『スポーツ障害』はかなりの部分で予防可能です。実際にちゃんとやっているクラブは、肉離れなど『ほぼゼロだ』と胸を張っていますからね。知識さえあれば防げるケガはいっぱいある気がします」

川端「『肉離れは防げる』というのはよく言いますよね。オシムさんも『ウサギが肉離れしますか?』と言っていましたけど(笑)。ただ、こういうケガを防ぐことから逆算してトレーニングをするのが本当に正解なのかは何とも言えない部分もありませんか。Jリーグでもそうですけれど、ゲーム中心のトレーニングを重ねるタイプのチームは負荷のコントロールが難しくて、どうしても肉離れとかが増えます。ただ、そういうトレーニングがチームパフォーマンスの向上に繋がっているなら、スポーツの文脈で間違いとは言えないでしょう」

浅野「『パフォーマンスの向上』と『ケガをしないトレーニング』に矛盾する部分があるんじゃないかということですよね。そこはそうとも言えるし、そうじゃないとも言えるかな」

川端「予防についてはやっぱり個別で対応していくのが理想なんだと思います。頑丈な選手もいれば、脆い選手もいる。これは個人の努力とはちょっと違う次元の話だと思いますし、そこはハッキリさせた方がいいかな、と。頻繁にケガをする選手が批判の対象になってしまうのも、ちょっと違うかなと思います。もちろん、毎日夜遊びを繰り返していた選手が肉離れしましたとか、そういうケースは別ですが(笑)」

浅野「逆に毎日遊んでいるはずなのにケガしないし、試合に出れば活躍するような頑丈な選手もいたけどね(笑)」

川端ロマーリオさんですね。わかります。でも本当に、ケガってそのくらい個体差がある話なのだと思います。今号だと、その意味で相良浩平さんの話は興味深かったですね。個別的に弱い箇所を筋トレするとか、トレーニングメニューを『弱い選手』だけちょっとカットするとか」

浅野「そういう工夫で、全体としてのトレーニング強度を削ることなくケガを減らせるんだと思うよ。相良さんはインディビジュアルなピリオダイゼーションという言い方をしていましたが、トレーニングの個別化はこれから必要になっていくと思います」

川端「ただ、監督はやっぱり一体感を出すためにも同じトレーニングを同じ量やらせたくなるものですよね。仲間がキツいトレーニングをやっている時に、『よし、浅野、一人だけもう上がっていいぞ。お前は弱いからな』というのはなかなか本人の心理的にもやりづらい」

浅野「今はGPSで負荷の数値化が可能になったので、客観的な数字ときちんとした説明があれば、みんな納得するのかなと思うけど。普段の取り組み次第じゃない?」

川端「そうそう、そっちは簡単なんですよ。『お前は一人だけ90分ゲームに出ていて、12km走ったから休もう』というのは。例えば年代別日本代表が大会に参加する時には、そういうマネージメントはしていますよね。ただ、普通のトレーニングでみんなが同じような試合・練習をこなしている流れの中でとなると、結構難しいと思いますよ。あと逆に『あいつ7kmしか走ってないのに、12km走った俺より楽勝なメニューやん』という見え方をしちゃいかねないので」

浅野「そこは選手の意識から変えていくしかないですよね。特に育成を終えたプロのレベルは器を大きくしていくより、一定のコンディションにチューニングしていく世界になってきているので。その話の流れで、『強化』と『ケガを防ぐトレーニング』をどうバランスさせるかという問題もあります。僕の考えを言うと、プロのトップチームの場合は『ケガの予防』を優先させるべきかなと。そもそも過密日程ですし、ケガをした時のダメージが大き過ぎる。ただ、育成年代だと話が違ってきますよね」

川端「育成年代は文字通りの肉体的な『成長期』も入ってくるから余計に難しいし、個人差もより大きいですよね」

浅野「オランダの育成年代で問題になったのがそれじゃないですか。ケガはしないようなトレーニングができるようになったけれど、成長もしていないんじゃ……という」

川端「アヤックスの白井さんのインタビューで、今アヤックスの育成年代は2部練習をやっていて、しかも午前は個人強化特化で練習しているんだという話がありましたもんね。ああしたやり方の先駆けはベルギーですよね。あっちはクラブというか国としてやったわけですが。去年の夏に僕らは彼らがそうやって積み上げてきた効果を体感させられてしまいましたね(笑)」

浅野「あの話は面白かったですね」


トレーニングの「個別化」は可能なのか?

川端「日本の育成年代もリーグ戦が主体になってきているので、現場サイドで『リーグに向けた調整みたいな練習が増え過ぎているんじゃないか?』という話は出てきていますね。『今週末は試合があるから、ちょっと練習は抑えておこう』となる。リーグ戦で良いパフォーマンスを出すことを考えるなら間違っていないんだけれど、それは個人の成長を犠牲にしているのでは?という」

浅野「例えば『こいつの将来を考えたら、ここで個人練習しっかりやるべきだから、試合の出場時間は60分にしよう』の方が健全なんじゃないか?とかいう議論もあるかもしれない」

川端「ただ、『個人を鍛える』という視点で言っても、『90分試合に出るからこそ学べることもある』のも間違いないので」

浅野「だからって一律に高負荷のトレーニングをすると潰れてしまう子も出てくるから難しいんですよね。昔はそっちの発想で生き残ったのがいい選手だという考え方もあったんだと思うんですけれど、潰れちゃった子の中にも育て方によっては大成した才能もいたはずなんですよ。だからこそ個別化が大事なんですが、どうやって、どういう方法でやるかですよね」

川端「いや、難しい。青森山田高校なんかは『いやいや、どっちもやるんだよ!』って感じのテンションですよね。個人を鍛えること、チームとして調整して毎試合を戦うこと。矛盾するようで、矛盾しない、と。実際、そういう路線のチームの方が『シーズン終盤に強くなる』傾向もあると思います。リーグ戦の結果はシーズンのアベレージなので順位には比例しないですけどね」

浅野「このアヤックスの記事に戻ると、ちょっと誤解されると嫌だなと思ったのが、『個か?組織か?』みたいな議論ってあったじゃないですか。ただ、これって対立軸になっていなくて、むしろこの2つはリンクしています。アヤックスは固有のゲームモデルがあるから、それを通じてアヤックスのゲームモデルに沿った個を育てていて、20歳前後でレアル・マドリー相手に堂々と渡り合っているわけです」

川端「いや、それはそもそも、組織の中で生きる、生かされる能力も『個』なんだと思いますよ。よく『サッカーを知っている』とか『戦術理解力』みたいなワードがありますけど、あれも『個の能力』でしょう。別に身体能力に特化した話じゃないです。だから『個を鍛える』という意味では試合の映像を見せてディスカッションするとか、そういうのまで含めてなのかなと思います。個人的にはオフ・ザ・ピッチで自分を律して行動できるのも『個の力』だと思っていますが(笑)。サッカーは宿命的に集団的なスポーツですから」

浅野「結局そうなんだよね」

川端「あと、よく『現代サッカーはマラドーナの時代とは違う』みたいな言い方もされますが、『いやいやマラドーナの時代だって、マラドーナ一人でサッカーしてたわけじゃねーだろ』と思います(笑)。サッカーはずっと11人でやるスポーツであるわけで」

浅野「だから、個を鍛えるためにチーム戦術を設定しないというのはナンセンスだなと」

川端「チーム戦術を設定しないのがナンセンスなのはその通りなんですが、チーム戦術を固定化して考えるのもナンセンスかなと思います。去年、U-19オランダ代表がいつものオランダシステムじゃないサッカーもしていて、監督は『俺たちも変わっているんだよ!』と言っていたそうですが」

浅野「そもそも変化の激しい時代なので、いろいろなゲームモデルに適応できる選手であることは凄く重要だと思います。育成年代では特に。トッテナムのアカデミーは完全にその路線らしいですね」

様々なゲームモデルに適応できる選手育成を方針として掲げているというトッテナムのユースチーム。今季のUEFAユースリーグではラウンド16まで進出した

川端「各国リーグで息長く生き残っていくような選手も、大体がいろいろなやり方に適応できるタイプですよね」

浅野「ですね。もちろん、特化型みたいな選手もいますけど(笑)」


日本人はなぜ休まない?

川端「だいぶケガの話から離れてきた気がしてきました」

浅野「戻しましょう(笑)。あとトレーニングの個別化についていうと、GPSの数値だったり、ケガの既往歴が判断材料になりますが、育成年代だとさらに骨年齢なども絡んできて複雑になりますよね、いわきFCは遺伝子まで調べているみたいですが」

川端「筋肉の種類を調べるやつですよね? あれは面白いアプローチですが、結構ギリギリ感もありますね。遺伝子情報って、究極のプライバシーなので」

浅野「やっぱり、どうしても日本ではハードトレーニング信仰があるじゃないですか。休みなく練習すればするほどうまくなるという。もちろん、強化とケガをしないトレーニングは難しい問題でもあるんですが、日本の、特に育成年代の状況はそれ以前の問題も多いのかな、と。実際、ケガをしていても無理をしてプレーを続けて大人になった後に後遺症に悩む人もいますし、指導者も選手もケガに対する知識をつけてもらいたいという思いはあります」

川端「努力して自分を高めようというマインド自体は尊いものだし、選手の将来にも繋がるところだから、これもバランスですよね。個人的には『やりたがる選手とブレーキを踏む指導者』といったバランスのある組み合わせがうまくいくのだと思いますが、現実はダブル・アクセルになりがちです」

浅野「そうそう、ダブル・アクセルで、むしろ指導者の方がフルスロットルというか。だからブレーキが壊れた車になって、故障するまで止まらないという」

川端「個人的に、一番ダメだなと思うパターンは親も加えたトリプル・アクセルですね(笑)。小学生とかで多いですが、複数のスクールと所属チームの練習と、お父さんとの『個人練習』を掛け持ちしていたりして、こうなるともう指導者が管理するのは絶対に無理です」

浅野「そりゃそうだよね。子供はいつ休んでいるのかな?」

川端「これに塾とかお稽古事まで付いてくると……。脳が疲労してしまいますね、確実に。個人的には特に小学生時代って『遊びも学び』の年代だと思いますが」

浅野「欧州サッカーは大人も子供も同じように夏は休みじゃないですか。ただ、日本の育成年代は1年中練習しています。本当に1年中練習した方が強くなるなら、生活が懸かったプロだってそうしていますよね。ただ、休まないと1年持たないのは誰でも知っています。じゃあ、育成年代だけなぜ? っていう話ですよね」

川端「それは月謝文化もあるよね……」

浅野「休んじゃうと月謝がもらえなくなっちゃうからね」

川端「クラブチームで『じゃあ、8月は休みです』となったら『わかりました。8月の月謝はなしですね?』となる。そもそも親がアクセルなので、チームが休みにしても、スクールに通わせるでしょうし、そういうビジネスが流行りますよ。『オフ期間は是非当スクールへ』とね」

浅野「そもそも、親はむしろ休み中に子どもを預かってほしいんですよ」

川端「ただ、それでも一昔前より意識的な『オフ』を設けるチームは格段に増えましたよ。高校サッカー部も、週1のオフ日を設けるのも強豪校のスタンダードみたいになってますからね。サッカー部の影響で他の運動部がオフを作るようになったなんて話もあります。この時点で、俺らの時代を思うと、すでに考えられない(笑)」

浅野「徐々に変わってきていますよね。学校のサッカー部では顧問のブラック部活問題もありますし、制度的にも物理的にも毎日練習は難しくなっていくでしょうね」

川端「そこは少子高齢化、日本経済の沈滞に伴うお金不足ともワンセットですしからね。サッカー界だけで対策できない部分がある。あと、ヤンキー不良文化がすっかり衰退して街の治安もどんどん良くなって、安心して子どもに休みを与えられる時代になったとも言えます」

浅野「昔はヤンキーを疲れさせて悪ささせないように部活でしごいていた面がありましたからね(笑)」

川端「今も学校によってはそういう機能を負っているところもあると思います。ただ、日本も昭和と比べると随分と平和になりましたし、子どもの気質や行動も変わったと思います。『日本人は変わらない』みたいなことを言う方もいますが、そこはファンタジーだと思いますよ」

浅野「つまり、今の子どもの環境や日本人の気質に合わせてシステムも変えていかないとね」

川端「先日、あるJリーグのユースチームの監督だった人に話を聞いたんですが、自分たちの選手時代は消灯後にこっそり抜け出して夜遊びに繰り出すとか当たり前だったので、『当然そういうことがあるに違いない』と思っていたらしいんですよ。だから夜はその警戒に当たるんだけれど、誰一人として脱走しない(笑)。選手に聞いたら『は? 夜は寝るものでしょ』という感じでルールを破る発想自体がない、と。時代が違って本当に子どもの気質が変わっているんだな、と。自分が選手の頃は監督が地域の人やお店の人に土下座して謝るような場面がしばしばあったので、ユースの監督を命じられた時に『俺もあれをやるんだな。子どものためになら当然土下座もするぜ!』と意気込んでいたんだけれど、そういう場面はまるでなかった、と(笑)」

浅野「規範を守る、守らせるみたいな意識はすごく強まりましたよね。監視社会化みたいな面もありますが」

川端「昔はルールを破るやつがカッコイイみたいな風潮でしたからね。西野朗さんが技術委員長で年代別日本代表の遠征視察に来た時に話を聞いたら、『自分がユース代表監督だった時とまるで違うね』と言っていました。『自分の時は、まず海外で悪さをしでかすやつがいないか、そこが最大の懸案だった。でも今の監督は試合に集中していていいね』と(笑)」


経験則の罠。「科学」を取り入れる意味

浅野「おもしろいんだけど、もう一度ケガに話を戻させて(笑)。学校スポーツの文脈が強い日本に対して、欧州サッカーは純粋なサッカークラブがベースになっているので、科学的なトレーニングだったりエビデンスに基づくトレーニングがされています。彼らの考えを知ることで、目先を変えるきっかけになればいいなと。一番の願いはケガ人が減ってほしいというものなんですが」

川端「いや、日本の場合、保護者からお金をもらって運営しているクラブチームの方が経営を考えなければいけないので難しいところもあります。学校の方が簡単な部分も大きいですよ。監督が『オフを増やそう』『トレーニングの負荷を考えよう』と言えば、そうなりますから。それこそわっきーさんが監督の粉河高校は監督が『よしこうやろう』となったところであれだけ尖った方向へ変わっていけるんですから」

浅野「学校の方がやりやすいのは皮肉な現象ですね……」

川端「そもそも、こういうオフを取ろうとか、そういう話も結局『可哀想』みたいな感情論が押し出されちゃいますよね。『そっちの方が成長するじゃん。成功の確率上がるやん』という話ができないのがキツい。理科が暗記科目なのが諸悪の根源なのかなと思います。科学を憎んでいる人が多い(笑)」

浅野「ブラック部活問題の議論で違和感があるのがそこですよね。弱くなることは前提で、生徒を取るか教師を取るかの二択になっている。むしろ、欧州サッカーでは練習させ過ぎるとマイナスになるという考え方が完全に主流なので、そのギャップはすごく感じますね。あともう1つ重要なのは、サッカーの進化ですね。これは相良さんが言っていたのですが、今のサッカーは昔に比べてインテンシティが上がってきているので、昔の経験則が通用しなくなっていると。そこが監督とのコミュニケーションで難しいところで、『俺の時は違ったぞ』となる。ただ、最新のエビデンスに基づく科学的な根拠から言っているので、そこに理解がない監督はこれから厳しいのかな、と」

川端「結局、人間は自分自身の経験から判断と行動をする生き物なので。『科学的な根拠に基づいて指導したら上手くいった』という成功経験を経ると、そういう指導者も自然と変わるんだと思いますよ」

浅野「なぜ監督に科学的な知見が求められるのかを、もう一歩踏み込んで言うと、メディカルスタッフは基本クラブ付きで、フィジカルコーチを含めたテクニカルスタッフは監督とチームになって動くことが多い。GPSで負荷を綿密にコントロールできるようになったこれからは、サッカーのトレーニングはリハビリを含めた同じ思想で統一していく必要があって、メディカルとテクニカルの考えを揃えなければいけない。今まではそこが分離していたから、ある意味監督は『知らなくても何とかなった』んですが、これからはそこの知識がない監督は致命的になるなと」

川端「メディカルとテクニカルの一体化は間違いないですね。ただ、GPSで負荷コントロールという考え方に寄り過ぎるのも危険ですよ。今回の特集でもボローニャのコーチが言っていましたが、『GPSで測定できるのは二次元の動きだが、サッカーは三次元のスポーツ』というのはまさに然りで、大きく消耗し、筋肉や靭帯を損耗するリスクの高い『ジャンプ』の動きは測定されていないわけです。接触プレーの頻度も然りですね。GPS根拠に『10kmしか走ってないから疲れてないはず』みたいな見え方をしちゃうのは危ないですね」

浅野「トレーニングで着るタイプのGPS測定器は心拍も計れますし、そうしたデータ以外にも選手の疲労度のアンケートなりで補完しているクラブが多いですね」

川端「日本でもリオ五輪代表が唾液から疲労度を測るみたいなことやっていましたね。手倉森誠さんはダジャレのイメージが強過ぎますが、そういうデータとか科学的なアプローチにも興味津々でアクティブな人でしたね。あと主観的なアンケート手法は代表でもやっていますが、アマチュアのチームでも簡単に導入できますね。『疲労』って主観によるところが大きいので」

今シーズンからV・ファーレン長崎の指揮を執る手倉森誠監督

浅野「何にせよ、そうした科学的なアプローチは現代サッカーで勝つための有力な手段となってきているのは間違いない、と」

川端「今は西が丘のナショナルトレーニングセンターができたおかげで、そういう科学的な知見が競技を超えて共有されるようになってきているのは物凄く大きな変化なんですよね。リオ五輪で日本勢が好調だった要因の一つがそこにあったのは確かです。言葉悪く言うと、人体実験の結果をシェアしているというか(笑)。トップアスリートの競技力向上に有効か?は、結局試してみないとわからないですからね。今号で相良さんも言っていましたけれど」


浅野「では、まとめましょうか」

川端「任せました(笑)」

浅野「丸投げ(苦笑)……フィジオセラピストの相良さんもそうですが、今回ケガに関わるサッカー関係者をリサーチしたんですが、鍼灸師とかスプリントコーチとかシェフとかまで出てきて、ケガの予防の取り組みは本当に多岐にわたるな、と。ただ、鍼灸師の黒川さんはフランクフルトで高い評価を得ていて、長友の専属シェフの加藤さんもインテルの選手に呼ばれたりしているみたいです。こういう面では日本人のきめ細かさは武器になると思うので、むしろそこが日本の強みになっていけるように期待したいですね」

川端「スポーツ医科学後進国と言われて久しいですが、そのせいで逆にPT(フィジオセラピスト)やトレーナーに幅広い知識・能力を蓄えた人が出てきているのかなという気もします。黒川さんの話もそんな感じでしたよね。ドイツ人のフィジオは自分の専門分野以外はノータッチだけど、黒川さんは日本時代の延長線上で、専門の外側までカバーして隙間を埋める仕事ができることが評価されている、と。これは一概に『良いこと』とは言えない気もしますが」

浅野「いやいや、シームレスに各分野を横断することが求められてきている時代なので、そこもプラスにとらえましょう。実際、相良さんはフィジオセラピスト兼フィジカルコーチの仕事をしていて、だからこそ話が立体的で面白いんですよね。黒川さんの言うように、ドイツ人PTとはまったく違うタイプだと思います」

川端「ドイツは職人文化だからというのもあるのかな。そういやドイツ代表も日本人トレーナーいましたよね。ハードワークできる強みみたいな話もありましたね。向こうの人は労働時間にうるさいけど、日本人トレーナーは選手に言われればいつでも対応するから評判いい、とか。ブラック文化の成果……!?」

浅野「コミットメントが高いのは日本人のいいことでもありますよね。それこそペップとか世界の超一流はワーカーホリックですから」

川端「会社にやらされる労働とはまた違いますからね。……って、ぜんぜんまとまってないじゃないですか(笑)」

浅野「最後に広げたのは川端さんだよ(笑)」

川端「まあ、欧州で評価されるトレーナーやPT、ドクターはもっと育ってきてほしいし、そういう人が外で得た知見を日本に還元するような流れもできればいいですよねって感じかな」

浅野「それはありますね。オープンに還元していってほしいし、そういう場が生まれてくればいい。フットボリスタも、及ばずながらそのお手伝いができればいいなと思っています!」

川端「強い気持ちで」

●バル・フットボリスタ過去記事

Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。