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「フットボールそのものだ」。戦術を、バルサを超えるメッシ

2019.04.19

リオネル・メッシ

バルセロナ加入を決めた際、クラブの生き字引であるカルレス・レシャックに「彼こそがフットボール」と言わしめたリオネル・メッシ。史上最高に推す声も数多くある傑物は、戦術の進歩が目覚ましい現代サッカーにあって、たった一人でチームの戦い方、方針を変えてしまうほどの影響力を誇っている。戦術が高度化する今だらこそいっそう際立つその超越性を、西部謙司氏が紐解く。

ゲームモデルを超えた存在

 バルセロナのスローガンは「クラブ以上の存在」(mes que un club)である。いちスポーツクラブという枠を超えたカタルーニャの象徴という使命感を持っている。皮肉のつもりはないのだが、リオネル・メッシはそのバルセロナというクラブ以上の存在になっているかもしれない。

 メッシを発見したのはバルセロナだ。身長が伸びない病気のため、母国アルゼンチンのクラブには受け入れられず。藁にもすがる思いでスペインへ渡ったのだが、当時育成の統括責任者だったカルレス・レシャックは契約を即決している、加えて、治療費負担も約束した。カンテラで育ったメッシは、やがて数え切れない勝利をもたらして恩に報いた。メッシはバルサの庇護の下、バルサが誇るフットボールのロジックを刷り込まれて成人したプレーヤーだ。しかし一方で、レシャックが「紙ナプキンでもいいからサインさせろ」と言った時、メッシはすでにメッシだった。つまり、その日からバルサとメッシの互いに依存しながら反発する関係が始まったわけだ。

18歳の頃のメッシがインタビューに応える動画

 昨今流行の「ゲームモデル」を最も早い段階から、精緻かつ強固に築いたのがバルセロナだ。もとはオランダのアヤックスからの輸入だが、ヨハン・クライフ監督の時代にいわばバルサの原典ができている。マイナーチェンジは日々行われているが、原典そのものに手を入れるのは許されないに等しい。また、変更する理由もなかった。

 様子が変わってきたのは、ペップ・グアルディオラ監督がメッシを“偽9番”に据えたあたりからだ。ここからメッシとバルサの黄金時代が始まるのだが、以降のバルサは「メッシをバルサのゲームモデルの中でどう使うか」ではなく、「偉大なメッシといかに共存していくか」を探ることになる。もはやメッシは、バルセロナのロジックに収まる存在ではなくなっていたからだ。

2010年、バロンドール授賞式でのメッシとグアルディオラ

メッシ・システム

 メッシの使い方はとても簡単で、それ自体を間違える人はたぶんいない。右側のハーフスペースで前向きにボールを持たせること、守備負担をできるだけ軽くすること。この2つを守ればいいだけだ。

 最初、メッシは7番(右ウイング)だった。ペップがそれを9番(CF)に移し、ルイス・エンリケはまた7番に戻しているが、メッシ自身のプレーはほとんど変わらない。右のハーフスペースを中心にボールを受けてドリブルで突破し、パスワークを主導し、得点とアシストを量産する。やっていることはずっと同じなのだ。メッシはメッシであり、7番にも9番にも10番にも収まらない。収めてしまうのが愚策なのも明白だった。

 バルサのロジックで育ったメッシなので、バルサに合わないわけではない。ただ、バルサのロジックを超えてしまった。メッシに能力を発揮させれば、得点が入り試合にも勝てるのはわかっている。しかし、そのためにはバルサのロジックを壊す必要がある。スーパースターを生み出したために、バルサはアイデンティティの危機に直面することになった。

 メッシを9番に起用すると、7番と11番は敵のDFラインを固定するために何もしないで立っていることも余儀なくされる。かつて所属したアレクシス・サンチェス(現マンチェスター・ユナイテッド)もダビド・ビージャ(現ヴィッセル神戸)も、バルサでその才能のすべてを発揮できたわけではない。メッシが7番なら、右サイドに張り出す役を2番(右SB)が担うことになり、2番の負担は過剰になる。2番が前に出るなら、8番(右インサイドハーフ)はリスクを考えて後方に残る。すると過重労働の2番は疲弊し、8番はバルサ本来の8番ではなくなる。

 メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールを並べた“MSN”は、当初こそ三つ叉の矛として機能した。だが、やがてメッシの巨大な才能の前にスアレスとネイマールは引き立て役に甘んじている。自分のプレーより、まずメッシを探すこと。誰も強制していないと思うが、普段の練習からあの能力を見せつけられ続けた結果だろう。

 かくしてバルサは、メッシを毀損しないためにメッシ・システムを作る。しかも、定期的にリニューアルしなければならない。メッシ・システムは歪で、どこか別の場所に無理を強いるために、長く続けていると金属疲労が生じるからだ。そのままにしておくと、メッシにも影響が及んでとも倒れになってしまう。そこでチームのどこに負荷をかけるかを微妙に調整して、1、2シーズンをやり過ごしてきた。現在のエルネスト・バルベルデ監督は、ついに[4-4-2]を導入している。それはメッシを生かすには最もシンプルな解だが、バルサの伝統を覆すものでもあった。

I can’t live with or without you.

 [4-4-2] の導入は、バルサの原典からの逸脱と言っていい。ポジショニング、判断の優先順位など、プレーの作法という最も大事な伝統は受け継がれている。ただ、それもこの先どうなるかわからなくなってきた。すでにパウリーニョやアルトゥーロ・ビダルといった、バルサの8番像とは異質なプレーヤーを受け入れている。メッシ・システムによってバルサのロジックが変形し、ポジションに求められるものが変容していることの表れと言える。

 世界有数のカンテラはメッシだけでなく、シャビ、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツらを輩出してきた。独特のスタイルを持つトップチームにぴったりの人材を外部から補強するのは簡単ではなく、自前で育てなければならない。トップとカンテラが同じ哲学とロジックで強く結びついているのもクラブの伝統だった。ところが、肝心のトップチームが変容してしまった。カンテラが生み出した、いかにもバルサらしい選手たちは、現実的に行き場をなくしている。これもアイデンティティの危機である。

 カタルーニャの伝統芸能であるかのように、そのスタイルを育んできた。それが今、メッシ1人によって崩壊の兆しが見え始めている。もちろんメッシが悪いわけではない。メッシなしではバルサの強さを維持できないのだ。しかし、メッシがいるために土台が崩れ始めているのも事実。メッシがいなければ現在のバルサはない。一方で、メッシがいるためにバルサはバルサでなくなるかもしれない。

伝統と知恵

 ロジックは言語だ。ただ、言葉は全体を表せない。「足」という言葉が、膝から下なのか腰から下なのかはともかく、「足」が体全体を表していないのは明らかだ。ところが、切り離された足は足として機能しない。足が足となるためには、体の他の部分と繋がっていなければならないのだが、それではどこからどこまでが足なのかよくわからない。つまり、言葉には物事を切り離す性質があるわけだ。

 選手、監督、育成部長など、バルサとともに歩んできたレシャックは生き字引であり、バルサそのものと言っていい人物だが、そのレシャックが「フットボールそのものだ」と感嘆してメッシを受け入れている。バルサのロジックより上にあるものを認めている。

 バルサの原典を作ったヨハン・クライフは彼の時代のメッシだった。利き足が逆なので左のハーフスペースにいたが、その時に言わば現在のコウチーニョの役割を果たしていたのがレシャックだ。時代のスーパースターを擁してきたのもバルサの伝統で、クバラ、クライフ、マラドーナ、ロマーリオ、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョらがプレーしてきたクラブなのだ。メッシはその中でも別格かもしれないが、例外の取り扱いには慣れている。

 フットボールを言語化する作業は大切だ。バルサはそれをしてきたから、彼らの伝統を繋ぐことができた。ただ、ゲームモデルを超える存在があることもよく知っている。バルサのロジックをもってしても説明し切れないものがある。その時に「足」を切り離してしまうような愚は犯さない。ライバルのレアル・マドリーほどではないが、選手ありきのところはあるのだ。どんなロジックも「フットボールそのもの」には勝てない。例えばメッシがリバプールにいたら、リバプールは変わらざるを得ない。リバプールのファンは受け入れたくないだろうが、「フットボールそのもの」には逆らえない。リバプールにとってのフットボールは違っているかもしれないが、メッシを押し込めようとすればメッシのいる意味がなくなる。アルゼンチン代表でのメッシになってしまう。

 バルサは必死に自らのアイデンティティを守りながら、「メッシ」をやり過ごしていくだろう。そうしてメッシ後の時代に備えるだろう。それが知恵というものだ。だが、また性懲りもなく20年に1人の天才を欲しがるだろう、これまでもそうだったように。

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Photos: Getty Images

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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