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Jリーグの「欧州化」が進んでいる?川崎が目指すべき理想はアタランタ

2021.08.16

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの本音トーク~

毎号ワンテーマを掘り下げる雑誌フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回は、『日本サッカーの日本化』の先にある『Jリーグの欧州化』がなぜ起こりつつあるのかについて考えを巡らせてみたい。

今回のお題:フットボリスタJ
「川崎フロンターレを超えていけ
〜最強軍団が引き上げるJ 戦術進化論〜

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

「バル・フットボリスタ」が本になりました

川端「久しぶり過ぎて、どうやっていたのか忘れてしまったな」

浅野「それは川端さんのせいですよ(笑)。前回はたしか育成特集の回だったので、1月以来ですね」

川端「本を作っていたせいで、妙な感覚もありますね」

浅野「そう。バル・フットボリスタが書籍化した――というか、バル・フットボリスタを下敷きにして、一つのテーマで一冊の本を作ったんですよね」

川端「『2050年W杯 日本代表優勝プラン』」

浅野「バル・フットボリスタは『欧州最先端と日本の現場を繋ぐ』のが大きなコンセプトですが、その目的は何かと言ったら『日本サッカーをより強くするにはどうしたらいいか』ということなんですよね。究極的には、日本代表のW杯制覇のためには何が必要かという話とも言えます。それって日本サッカー協会(JFA)の2005年宣言の話にも繋がってくるなと」

川端「川淵三郎キャプテン(当時)が2050年のW杯を地元で開催し、そこで優勝するという大目標を掲げていたわけです。私の認識が間違っていなければ、これは今も掲げているはずです。残り30年。『2050年のW杯に臨む選手たちの多くはまだ生まれてもいない』ということで、今から改革して間に合うことが山ほどあるよねという話でもあるというのが出発点でした」

浅野「今年生まれた選手が、そのW杯では30歳になるわけだからね。ちなみに、俺の息子は今5歳なので30年後は35歳。若手敏腕コーチになるくらいしか参加の可能性はないかな(笑)」

川端「浅野賀一の息子がコーチになっているより、本田圭佑の息子が日本代表キャプテンだったりする可能性の方がまだあるかな(笑)。つまり、『2050年にW杯優勝を狙えるような日本代表チームを抱えるには、今何をすべきなのか』という本になっております。しかし、今回はこの本の話ではありません!(笑)」

浅野「えっ、この本の話をしないの(笑)」

川端「え、するの?(笑)じゃあ、マスター的に、この本のオススメ箇所はどこでしょう?本屋で立ち読みする時、『ここ読んでみるといいかも!』みたいな」

浅野「個人的なオススメは、新規収録した第1章「『世界の中の日本』の15年」ですね。世界のサッカーと日本のサッカーの歴史やトレンドを比較して、俯瞰した視点で流れを追っていくと両者が交差する部分があったり、離れていく部分があったりして、あらためて新しい発見もあったなと感じました」

川端「ちょっと危険な話もしたような覚えが……」

浅野「そんなのしたっけ(笑)。日本サッカーの日本化、ハリルホジッチと日本化の対立、Jリーグと世界のサッカーは別物問題、森保ジャパンと欧州サッカーの関係などが、ワンテーマのストーリーとして読むことができるので、立ち読みでそこだけでも読んでください(笑)」

パスワークやコンビネーションプレーに傾倒していた日本サッカー界に「デュエル」を持ち込んだ元日本代表監督のハリルホジッチ

川端「僕はラストが結構気に入ってますが、そこだけ読むと意味不明だろうなと思うので立ち読みには向いていません(笑)。そんな爆発的に売れる本でもないと思うので、本屋の店頭から消える前にぜひお立ち読みください」

浅野「日本代表本は売れないと言われているんですよね(苦笑)。日本代表をマイチームにしている人はサッカーファンの中でも減った印象があるし、むしろミーハーでダサいイメージすらついてしまった。でも、あえてそこを正面から論じることで見えてくるものもあるんじゃないかなと。もちろん、日本代表だけではなく、Jリーグ、育成年代含めた『日本サッカー』全体をテーマにした本なので、日本サッカーを強くすることに興味がある人が読者対象と言えるかな」

川端「まあ、浅野さんが挙げた中でも『Jリーグと世界のサッカーは別物なのか』は、本を通しての裏テーマみたいにもなっていますね。欧州最先端をキャッチアップしていくことと、日本化される日本という矛盾するようでいて実は矛盾しないけれど、矛盾もあることについてのお話というか」

浅野「映画や音楽のようなカルチャーの世界もそうだけど、海外に学ぶフェーズが終わった後、ある程度国内市場が成熟した中で日本独自の新しいものを作っていこうというムーブメントが起こっていくよね。コピーは結局劣化コピーでしかない。本気で勝ちたいのならその先に進まなければならないという考え方ですね。『日本サッカーの日本化』はまさにこれに当たると思います。でも、それが進むと次第に考え方が内向きになっていってタコ壺化していくし、海外は海外でまた進化していたりするんですよね。しかも、サッカーの分野では2010年代から欧州サッカーがピッチ内外で劇的に進化してしまった。『日本サッカーの日本化』に邁進していた我々はそのキャッチアップに遅れていたんだけど、2018年のロシアW杯以降、特にJリーグを中心にその流れが変わりつつある」

「日本サッカーの日本化」の先にあるもの

川端「で、今度出た『フットボリスタJ』においても、こうしたテーマがあるわけですよね?」

浅野「はい。まさにそれがメインテーマですね」

川端「そもそもなんでこのJリーグをテーマにした雑誌を、しかもこのタイミングで出すことになったんですか?」

浅野「書籍でも書きましたが、2018年のロシアW杯は『日本サッカーの日本化』の1つの集大成で、あそこで1つの時代が終わった。加えて、様々な事情で若手日本人の欧州移籍が加速して、Jリーグと欧州サッカーの距離が急激に縮まった。そうした中で、Jリーグはピッチ内外で欧州サッカーのキャッチアップが進んでいるように感じています。そういう大きな変化について、Jリーグの関係者たちはどう感じているのかを単純に知りたいなというのが出発点ですね」

川端「その意味で言えば、横浜F・マリノスの優勝は象徴的でしたね」

浅野「川崎フロンターレのサッカーも変わりましたしね。特に2020年シーズン以降に顕著で、今季は[4-3-3]にシステムが変わって、ポジショナルプレーの要素がより入ってきている」

川端「それも横浜FMから受けた刺激が大きかったんじゃないかなと思いますね。そして鬼木達監督が何より素晴らしいのは、現状で止まらずにもっと強くなろうとしているところでしょう。今季を見て特に感じました。他チームからすると『もう十分強いのに、まだ強くなろうとするの!?』という(笑)」

浅野「ただ、東京五輪後に欧州へ旅立つ選手も出てきましたし、やっぱりJリーグ王者といえども選手の入れ替わりを許容しながら強さを維持しなければならない。セリエAのアタランタがまさにそうですね。余談ですが、彼らは今季のセリエAの優勝候補筆頭か二番手だと思いますけど。だからガスペリーニのチームがそうであるように、選手を抜かれるチームは拠りどころとなるサッカースタイル、ゲームモデルがあることが大事になってくるんでしょうね」

2016年の監督就任以降、セリエA順位表の下半分を彷徨っていたアタランタを5季連続で欧州カップ戦出場へ導いているガスペリーニ。中心選手が引き抜かれても代名詞であるサイドアタックとマンツーマンを駆使した攻撃的なスタイルを貫き、戦力を育て上げる好循環を生み出している

川端「そういった若い選手の欧州行きが頻発することによる『Jリーグの空洞化』はフットボリスタJでも、中村憲剛がインタビューで触れていましたね」

浅野「今までは10代の移籍がトレンド、主に高卒選手が欧州クラブのターゲットでした。22歳を過ぎる大卒だと遅いとされていた。でもその傾向も変わってきて、大卒まですぐ抜かれるようになってきているし、選手側の意識も変化も感じる」

川端「もう有力選手は全員が欧州に行くつもりになっていると言っても過言ではないですからね。『興味ないです』と言っていたような選手も、日本代表に行くと海外組のプレーや国際試合で感じるモノに感化されて『欧州行かないとダメだ!』となりますし……。まあ、『もっと上手くなりたい』はプレーヤーとして原初的な欲求で、それができるかもしれないというのは強い誘惑ですね」

浅野「現代サッカーのハイインテンシティを身に付けるには欧州に出ていくのが一番効果的という『ピッチ内での成長』を選手が望んでいるからという面は大きいよね。ただ、もう1つあると思っていて、それは本の中でも何度も指摘した『移籍ゲーム』の側面。JリーグもプロジェクトDNAを立ち上げて、いかに高く売るかを後押ししているし、クラブ側の意識も明らかに変わった」

川端「ここで言う『移籍ゲーム』というのは、若くて安い選手を買って価値を上げて転売するという考え方ですよね。日本はスタートが『買う』感じには余りなってないですが、『売る』意識は出てきたの確かです。まあ、もっと単純に『選手がより高い給料欲しかったら出ていくのが一番』というのもぶっちゃけありますよ(笑)」

浅野「それはもちろんそうだよね。Jリーグとはもらえる年俸の天井がまるで違うわけだから」

川端「やっぱり年俸はプロ選手の名札みたいなところあるし、簡単に譲れるものでもない。だからヴィッセル神戸が大迫勇也に大金出して日本に連れ戻したみたいに、出すモノを出すならJリーグに有力選手を引っ張ってくることは十分に可能とも言える」

浅野「今だとそれもあるね。コロナ禍で欧州でも経営が厳しくなっているクラブが増えていて、話題のパリSGはメッシだけでなく、ドンナルンマ、ワイナルドゥム、セルヒオ・ラモスの大物勢が全部フリー移籍ですからね。もう元所属クラブが選手側が要求する額を払えなくなって、それを払えるのがPSGだけという状況ですね。Jリーグだと神戸が似た立場かな」

川端「浦和にも大物が来たけどね」

浅野「酒井宏樹か!」

川端「『フットボリスタJ』でもリカルド・ロドリゲス監督が期待感を語っていたけど、その言葉通りの価値がある選手だと思う。本人も『帰国して終わりのつもりはない』と言っていたし、彼のサッカーに対する真摯な姿勢自体が浦和の経験の浅い選手たちに良い影響を与えるんじゃないかな。地道な努力で自分を磨いてあのレベルに達した選手だし、五輪代表でも他の選手たちに影響与えまくってたからね、彼は」

二項対立ではなく、「全部」必要な時代

……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。