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マンチェスター・ユナイテッドの圧倒的商業収入に成績は影響なし?

2019.04.10

築き上げたブランドと近年のデジタル戦略

ファーガソン時代に培った世界的な人気は絶大だ。チームがリーグ優勝から遠ざかっても、売上高ではその約半分を占めるコマーシャル収入で国内ライバル勢を圧倒。「試合の成績は我われのビジネスにほぼ影響がない」と豪語する副会長の手腕が光る。

 1月に発表されたデロイト社の『フットボール・マネーリーグ』で3年ぶりに首位から陥落したとはいえ、マンチェスター・ユナイテッドの経営力に陰りはない。2005年にクラブを買収したグレイザー家は、一部のサポーターの怒りと不安をよそに、世界最大規模のクラブをさらに発展させている。その中核を担っているのが、買収時にアドバイザーを務めた元投資銀行家のエド・ウッドワード副社長である。ウッドワードは数年間でユナイテッドのコマーシャル収入を倍増させた手腕が買われ、2013年にデイビッド・ギルCEOが退任した後、クラブの運営を託された。

新旧のクラブの牽引役、エド・ウッドワード(左)とデイビッド・ギル

 副会長にして実質的なCEOを務めるウッドワードは、「試合の成績は、我われのコマーシャル面のビジネスにほぼ影響がない」と豪語する典型的なビジネスマンである。確かにユナイテッドは、2013年のアレックス・ファーガソン退任以降、リーグ王座を逃し続けているが、それでも売上高はクラブ記録を更新しているのだ。

 これを可能にしているのがユナイテッドの絶大な人気である。SNSのフォロワー数はプレミア勢の中でも群を抜いている。Facebook、Twitter、Instagramを合わせてフォロワー数は1億1700万を超えており、リバプールやマンチェスター・シティの倍以上の数を記録しているのだ。

 数年前、筆者が欧州で開かれた放送局の会議に出席した時、そこで議題に上がったのがSNSの影響力だった。そして例に出されたのが、クラブ記録の移籍金でユナイテッドに戻ってきたポグバだった。現在Instagramで3400万以上のフォロワー数を誇るMFは、ユナイテッドのブランド力をさらに高める格好の広告塔なのだ。とりわけスポンサー契約の交渉時には、明確な数字を示せるフォロワー数は絶大な効力を持つ。事実、昨夏『フォーブス』誌が発表したユニフォームスポンサー収入ランキングでは、バルセロナに次ぐ世界2位に。今季からシャツの袖にもスポンサーが入っており、総合的なスポンサー契約料はすでに世界最高とも言われている。

今季のユニフォームの左袖に刻まれた「KOHLER」の文字。サッカー界でも屈指のSNSフォロワー数を誇るポグバらを通して、世界中に拡散されていく

スマホアプリやクラブTVでさらなる増収を

 ファンからの収入もユナイテッドの強みだ。クラブは2011年の調査をもとに、ファンの数を6億5900万人と発表している。世界の人口の8%がユナイテッドファンという計算になる。どこまで正確な数字か定かではないが、これがユニフォーム売上などでクラブの財源となっているのは確かだ。昨年冬に加入したアレクシス・サンチェスは、ピッチ上では期待された成績を残せていないが、ピアノを演奏する粋な演出の入団発表も相まってか、1月移籍の選手のユニフォーム販売数で新記録を打ち立てた。

 さらにユナイテッドは、2017年に『Yahoo!』の幹部を引き抜いてデジタル戦略にも本腰を入れている。昨年発表したスマホのアプリは、68カ国でスポーツ部門のダウンロード数1位を記録した。これにより、有料のクラブTVの加入者数の増加が見込まれる。英国メディア『インディペンデント』も「6億5900万人の1%が月額1ポンドでも支払えば年間8000万ポンド(約115億円)になる」と皮算用しているほどだ。90年代の栄光で築いた世界的な人気の上にあぐらをかかず、積極的にファンへと手を伸ばしていく。それがユナイテッドの経営戦略なのである。

 そして、それを実現している限りは、グレイザー家にとってウッドワードは極めて優秀なCEOということだ。グレイザー家は買収時に多額の借入をしており、その返済をクラブに強いている。昨季は2400万ポンドが返済に充てられた。それでいて、過去3シーズンで計6500万ポンドという株の配当金まで受け取っている。だからグレイザー家は、財政上の成功が続く限りは、そこまでチーム成績を気にしていないのだ。

 それでも今回の『マネーリーグ』1位陥落は、やはりチーム成績に起因している。そしてCL出場権を逃せば、放映権収入は大幅にダウンする。だからこそのモウリーニョ解任であり、スールシャール監督の下で好転しているとはいえ、長期的な成績安定を期待してクラブ史上初となる「ディレクター・オブ・フットボール」職を新たに設けることにしたのだ(人選は未定)。うまくいく保証はないが、ウッドワードがサッカー面まで管轄するよりははるかに健全だろう。

Photos: Getty Images

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プレミアリーグマンチェスター・ユナイテッド経営

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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