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遠藤保仁やピルロの時代は終焉? 「ボランチ=司令塔」はどこへ行く

2017.11.20

喫茶店バル・フットボリスタ ~店主とゲストの蹴球談議~


毎号ワンテーマを掘り下げる月刊フットボリスタ。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のお題:月刊フットボリスタ2017年12月号
「ボランチの危機。ピルロ、シャビのいない世界

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

『ボランチ』は機能?ポジション?

川端「今回のフットボリスタは『ボランチ』がテーマ。編集長、マニアック過ぎませんか?(笑)」

浅野「実はきっかけの一つにU-20W杯が終わった後の川端さんとの会話がありました。ヨーロッパ勢やアフリカ勢はもちろん、南米勢も単純にボランチに足の速い選手を置くようになっている、と。ボランチに頭脳ではなく、アスレティック能力が求められる時代が来ているのかもしれないという話でした」

川端「自分のせいでしたか(笑)。日本でボランチと言えば、足の遅い選手がやるポジションという傾向が少なからずありますが、世界的なトレンドは明らかに違ってきているぞ、と。『ハンドル』じゃなくて『アクセル』になってきていると感じます。しかし、僕らがこうやって何気なく使っているこの『ボランチ』という言葉自体がそもそも厄介ですよね(笑)。エル・ゴラッソの創刊時期もそうでしたが、フットボリスタも揉めたんですよね、この言葉の扱いを」

浅野「今回の特集にあたって『ボランチ』というサッカー用語をどう捉えるかというのはあらためて議論しました。本来のポルトガル語の意味は『ハンドル』や『舵』であって、いわゆる後方からゲームを操る『機能』も含まれるという解釈もある。一方、日本サッカー界は現場もメディアもポジション用語であるセントラルMFの言い換えで使っています。『機能』なのか『ポジション』なのか曖昧なんですね。今回の特集タイトルである『ボランチの危機』は、後方のゲームメイカーを指しているので『機能』の方で使いました」

川端「ボランチという言葉を嫌がる欧州派に対し、創刊時の木村浩嗣編集長が『日本でその言葉が定着しているなら、それでええじゃないか』と認めて、本誌でも使われるようになったと聞きました」

浅野「結局、ごちゃごちゃ言うより『通じること』が大切だからね。だから今回の特集も木村イズムを踏襲しています(笑)」

川端「ただ、そもそも『ボランチというのは後方から操る云々』が、そもそも誤解なんですよね。今回の号でブラジル在住の沢田啓明さんもしっかり指摘されていますが、ブラジルにおいて『ボランチ』にレジスタ的なニュアンスはなく、純粋なポジション名なわけです。『ハンドル』云々は日本で生まれた和製ニュアンス(笑)。ただ今回はまさに『レジスタ』的ニュアンスで、カタカナ日本語としての『ボランチ』を使ったわけですよね?」

浅野「そうです。日本でボランチと聞いてイメージするのは遠藤保仁や中村憲剛ですよね。だから『ボランチの危機』の方がわかりやすいかな、と」

川端「まさに、そういうことですよね。世界ではピルロやシャビが典型例として出てきますが、日本で言えば『遠藤保仁や中村憲剛の後に続く選手はおるんかいな?』ということでもありますね」

浅野「昨シーズンでシャビ・アロンソが引退し、ピルロやシャビもスパイクを脱ぐことを発表しました。アスリート化する欧州サッカーで彼らのようなマエストロが生き残れるのかというのがメインテーマですね」

現代ボランチはブラックなホワイトカラー?

川端「本誌の中でしつこくいろいろな人が言っていて、他ならぬピルロ自身も言っていますけど、“そういう選手”が減っている実感が現場にもあるわけですよね。サッカー自体の変化に伴って」

浅野「もともとサッカーって『小さくても勝てる』スポーツじゃないですか。160cm台のマラドーナが歴代最高の選手候補ですし。過去へのノスタルジーもあるのかもしれませんが、そうしたサッカーの魅力の一端が失われるという抵抗感もあるのかもしれない。昔の『10番論争』も同じかもしれませんが」

川端「そうそう、まさに僕が思い出したのも『10番論争』ですね。サッキ革命以降の流れの中で『10番が死滅してしまう』という話があり、実際にそうなっていきましたよね。10番的な資質を持つ選手の多くはボランチになることで生き残ってきたわけです。ピルロがまさにその歴史の体現者であり、象徴ですが、そしてそこでも居場所がなくなってきている、と。草原で絶滅危惧種になったある動物が林に逃げ込んでそこに適応して生きていたら、林の伐採まで始まってしまった感じですかね」

浅野「その比喩の妥当性はともかく(笑)、これからの司令塔役はもっと下がってCBやSBになるということも言われるようになりましたよね。僕もこの特集をやるにあたってそういう流れは意識していました。ただ、やってみた結論としては別にあったかなと」

川端「それは?」

浅野「結局、最近ピルロのようなレジスタがキツくなってきたなと感じるのは、司令塔機能が一つの選手に集中すると徹底マークされちゃうからなんですよね。ピルロは天才的なターン技術があるので回避する術がありましたが、これだけ組織的な前線プレスが浸透した中で一人のレジスタがすべてを仕切るのは無理がある。だから司令塔機能を分散するしかなくなっている」

川端「なるほど。しかし、だからこそ『CBやSBにその機能が~』ということでは?」

浅野「そう。でも今のサッカーでは、ある特定のCBやSBが司令塔機能を担っても同じように潰されます。だから複数置く必要があるし、相手との噛み合わせによって毎試合、あるいは試合の中でも変えていく必要もある。それくらい駆け引きが高度化しています」

川端「ああ、それはわかります。かつて日本で吉武博文さん(現・FC今治監督)が『全員ボランチ』みたいなサッカーを年代別代表でやろうとしていたのもその流れですよね。誰か一人を潰せばというチームではないポゼッション。ポゼッションを重視するからこそ、柱になる絶対的ボランチはむしろ要らなかった。あと流れと言えば、ポゼッションを重視するからこそ、相手のポゼッションを潰す必要があり、その潰す能力に欠けているエレガント系のボランチ、僕は“貴族系ボランチ”という言葉を使っていましたが、そういう選手が使われなくなっているというのもありますよね。ちなみにガットゥーゾみたいなのを労働者系ボランチ。サッキ革命で『王』たる10番が倒れ、その次に貴族が権勢を失っていく流れですね」

浅野「貴族と労働者もそうなんですが、もっと言えば労働者もAIによって働く場所を奪われているというか……今の欧州トップレベルのサッカーは職人の巧みな技や経験からくる判断よりも、プログラミングされたコードで動くサッカーみたいな感じです。ただし、一つひとつの駒はスーパーな特長、絶対的な武器を持っている」

川端「そうですね。貴族が倒されて労働者の時代が来たわけではなく、『中産階級の勃興』が起きているんですよね。ちゃんと教育を受けて頭脳労働できるんだけれど、同時にハードワーカーにもなれる。求められているのは、頭が良くて、なおかつ24時間戦える猛烈系というか(笑)」

浅野「単純なブルーカラーではなく、ブラックなホワイトカラーというか(笑)、ハードワークできる頭脳労働者ですね。だから本当の司令塔はプログラミングのコードを書く監督なんです。最近はその傾向が加速した気がします。例えばフットボリスタでも取り上げている『5レーン理論』。ピッチを縦に5つのレーンに分ける考え方なんですが、これはとてもわかりやすくて明確な基準だと思います。グアルディオラは攻撃時に5つの縦のレーンをすべて埋めるため[3-2-4-1]のような布陣を組みますし、他もそんなチームばかりになりました。これはもうプログラミングの世界だなと思いました」

川端「ミハイロ・ペトロヴィッチ(浦和レッズ前監督)のサッカーもそういう流れの中ですよね」

浅野「で、こうした布陣を組んだ時のボランチの役割って司令塔じゃないんですよね。前線にパスを供給する役は『4』から下がってきた人がやって、ボランチの『2』はカウンター対応なんですね」

川端「ああ、そうですね。U-17ワールドカップもそういうデザインをしているチームは多かったな」

浅野「チェルシーのカンテ&バカヨコのコンビが典型」

川端「今回の号でU-17W杯について書かせてもらいましたが、最初に浮かんだ原稿のタイトルも『ボランチの未来はカンテ&バカヨコなのか?』でした(笑)。しかし、世界的にも求められてきている『上手いCB』とか『上手いSB』は日本でも出てくる余地があると思いますけれど、『カンテ&バカヨコ』は相当厳しい。カセミロとか『ああいうのが一人いれば』とか憧れますけど……」

浅野「最近は同じデザインのチームが多いよね。もちろん、ボランチにロングパスを出せるレジスタはいた方がいいんですが、優先順位はカウンター対応、ボール奪取、あとはショートパスを正確に繋げることでしょう。中盤はとにかく時間がなくなっているので技術やアイディアを表現すること以上に、シンプルでミスのないプレーが求められている。もう2タッチ以内などのタッチ数制限が当たり前ですからね。短い時間でミスしない判断をできることが重要で、天才的な創造性の優先順位は下がっています」

川端「中盤で色気を出そうとする選手は狙われますよね。それも貴族が廃れた理由だと思います。ボールという財産を独占しようとすると、一揆に遭う。そういう時代ですね。ただ、これも原稿に入れていますが、やっぱりボールを持てて出せる選手が要らないわけじゃない。両軸を備えた選手が求められる時代が来ると思います。だからこそ、チェルシーだって『カンテ+バカヨコ』コンビで固定されているわけじゃなく、テクニカルな選手が優先されることもある。そのあたりは試合ありき、相手ありきだと思いますし、浅野さんが言う『プログラミング』の内容次第になっているんでしょう。良くも悪くも『選手ありき』ではなくなっている部分がある」

深刻なジレンマに悩む日本のボランチ事情

浅野「川端さんの言うように、強くて速いボランチは日本のアキレス腱になるかもしれません。意識して育てていかないといけない。ただ、日本のボランチ像は遠藤や中村憲剛という強烈なロールモデルがいるので、なかなか難しい。単純に世界のトレンドを追うのではなく、むしろ彼らのようなタレントを生かす枠組みを考える手もある」

川端「でも、僕は前から新世代に遠藤や憲剛はいないんだろうなと思っていましたよ」

浅野「最近の日本のボランチはどういうタイプがいるんですか?」

川端「ピルロもそうですけど、彼らは『トップ下としての10番』から下がってボランチになった選手。小野伸二や小笠原満男もそうです。『王』として心理面も含めた超厳しいプレッシャーと相手の厳戒マークにさらされる環境で育成年代を過ごしてきた彼らが大人になってボランチという安住の地を得たわけです。だからこその異能でしょう。今の若いボランチは小さい時からボランチとして育てられているのが専らなので、ああいう研ぎ澄まされた部分は薄くなりますよね。その分、運動量や守備意識といった面は最初から持っていますが」

浅野「日本ではボランチって人気のポジションなのかな?」

川端「よく言われますけど、人気ってそんなに関係ないですよ(笑)。よくも悪くもポジションって選手が希望するものではなく、指導者が押し付ける部分が強いでしょう。『日本ではキャプテン翼が人気あるから、トップ下ばかりになった』とかいう俗説は眉唾ですよね。当時のトップ下で起用されていた選手がFWやGKにされていたら、大成していたのか? これは甚だ怪しいでしょう。日本人にそうした特長を持った選手がもともと多くて、なおかつあの時代に求められる選手像が重なった偶然の産物だと思います。だから『トップレベルのボランチが量産される日本』というイメージは固定的なものではないなと思っています」

浅野「スケールの大きいボランチ、異能ボランチの不在は指導者の責任?」

川端「指導者の責任というか、日本の現状が生み出す必然だとも思います。大型CB・大型FW・大型GKの不足が嘆かれて久しく、大型SBの必要性も叫ばれていますよね。そういうのは現場の指導者も感じていて、大型CBなんて確実に増えてきているとは思います。SBも昔に比べたら着実に大型化しています。ただ、そうやっていくと、ボランチにまで身体能力のある選手が回らないんですよね(笑)。犬も歩けば身体能力の高い選手に当たる……国ではない。これは遺憾ながら動かせない事実です」

浅野「だったらCBからコンバートすればいいんじゃない?」

川端「そうすると、CBがいなくなるでしょう(笑)。元から大型CBがいない、いないと嘆かれて久しいんですから。例えば、先日のU-20日本代表でたとえましょう。CBの冨安健洋は188cmの大型で、ボランチもできる選手です。でも彼を中盤に上げてしまうと、代わりのCBに適材を欠いていたでしょう」

浅野「相方の中山もボランチからのコンバートだしね」

川端「それは『上手いCB』が求められる時代の要請の中での必然ですよね。冨安が後ろに下がったのも同じ。さっきのトップ下からボランチに落ちてきた10番が異能だったように、ボランチとして育成されてきた選手がCBに落ちた場合も異能になれる余地があるのだと思います。マスチェラーノとかがパイオニアかな。日本だと中田浩二にもそういう部分がありましたよね」

浅野「そういえば、日本の年代別代表はどうして[4-4-2]なの?」

川端「手倉森ジャパンは[4-2-3-1]ベースでしたし、吉武ジャパンは[4-3-3]のゼロトップでしたよ。森保ジャパンも[4-4-2]にはならないんじゃないかと予想していますが。まあでも、トレセンとかは[4-4-2]ベースが多いと思います。大分県とかはずっと吉武スタイルですけど」

浅野「直近のU-17やU-20が[4-4-2]だったのは、技術委員会がそういう方針なのかなと?」

川端「確かに[4-4-2]ベースですね。でも戦い方についての方針はあっても、システムについては現場の判断と聞いています。一つは『[4-4-2]でやろう!』と言った時、日本人の選手はまあ大体イメージを共有できるのに対し『[3-4-3]でやろう!』と言って共有できるかは怪しいのはあると思います。何しろ代表は時間がないので」

浅野「なぜ[4-4-2]に疑問かというと、中盤の中央が2センターだとトップレベルで戦うにはボランチ2枚に高い総合力が求められる。そのタレントがいればいいけど、いないなら3センターで特徴を補完した方がいいんじゃないかと。シャビですら2センター時代のバルサでは居場所がなくて、3センターでようやく輝くようになりました」

川端「ただ、3センターを日本でやろうとすると凄く大きくてシリアスなジレンマがあります。ハリルホジッチもW杯レベルの国とやる時に直面すると思いますけど、まあ1トップがいないんですよ、これが」

浅野「その2つはトレードオフの関係ですよね」

川端「日本が代表で[4-3-3]をやれないのは純粋なウイングがいないというのもありましたけどね」

浅野「ただ、ウイング不在問題は最近のチームは攻撃時にウイングが中に入っちゃうので、古典的なウイングは世界的にも少なくなっているけどね。その代わり両SBが前に出て幅を取る」

川端「そう、セカンドトップタイプをウイングに置いてというのなら日本もできると思いますよ。だからこそ[3-4-2-1]はJリーグでもポピュラーになるわけで。セカンドトップが使えますからね。そしてウイングバックの適材はいないこともない。攻撃的SBを前に出すにしても、ドリブラーを頑張らせるにしても。U-18日本代表の影山雅永監督はこのシステムを得意にしている方で、今年もちょっと試していましたけれど、来年以降に本格導入しても驚きはないとは思います。このシステムだと1トップが孤立化しないので。日本はやはり距離感の近いサッカーを志向していて、孤立に耐えられる1トップがいないというのは前提みたいになってますよね。日本の育成年代で[4-3-3]を貫いていた柏レイソルも、トップチームの前線を補強選手で固めちゃうわけじゃないですか」

浅野「J2の1トップも外国人ばかりだしね」

川端「だから代表が相補的な2トップを選ぶのは、結構必然だと思います。その意味で[3-4-2-1]は相補的な3トップという面もあるので、日本人的かもしれません」

浅野「難しい問題だね。俺はU-20W杯を見て、攻撃を組み立てられる市丸は使った方がいいし、それなら守備を考えて中盤センターは3枚かなと思った。久保が入ったら実質[4-2-3-1]だから、純粋な[4-4-2]ではないけど」

川端「久保を入れた場合の問題は守備でしたから、余計に市丸と両立しなかった面はあります。攻撃だけ考えるならこの2人はセットでもいいんですけど。だから内山構想でも、久保は当初スーパーサブだったわけで。小川航基の負傷で狂ってしまったプランですが」

浅野「日本のボランチ話は簡単ではないですね」

川端「簡単だったらもうやっていますよね(笑)。ジレンマだらけ」

浅野「アスリート能力の高い選手をボランチに回せば他のポジションが足りなくなるし、異能ボランチはコンバートから生まれるけど、異能者が生まれていたのは必然ではなくて偶然の要素が強かった」

川端「そしてボランチの数を増やして対応しようとすると、1トップがいない」

「ボランチの海外組がいない」問題

浅野「あらためてU-17W杯のボランチの感想を聞かせてもらいますか?」

川端「U-17のマリとかは『カンテ+バカヨコ時代』でしたね、まさに。総じて『ピルロ+ガットゥーゾ時代』でなくなってきているのは否めない」

浅野「見ていてピルロのようなゲームメイカーはいないなとあらためて思った。あとフィジカルのベースは上がっているよね。日本と戦ったフランスやイングランドを筆頭に『お前ら本当にU-17かよ』という人たちが多かった」

川端「そこはもうホントに間違いない。めっちゃ上がってる(笑)」

浅野「フランスもイングランドも単純にデカいし、強い」

川端「あるいは小さい選手は速い(笑)。まさに『カンテ+バカヨコ時代』。日本もフィジカル鍛えようぜという流れはあって、この年代は結構意識してやってきました。だから露骨な当たり負けは実際少なかったと思いますが、それでもキツかった」

浅野「A代表の話だけど、チリの選手なんて胸板凄いじゃん。あれを見ると、怖気づいて日本人は当たりを避けた方がいいんじゃないと正直思ってしまう(笑)。もちろんそれじゃあ駄目なんだけど」

川端「『チリは小さいからお手本になる』とか言っている人は『何を見ているんだ!?』という感じですよね。厚みが違う(笑)」

浅野「とはいえ、当たり方や最低限の対抗する方法は大事なわけで、それは結構できていると思った」

川端「球際の対応とかやってきた効果はあった。しかし……というところ。でも陸上とかの成果を見ていても、『フィジカルは勝てない』という前提で諦めちゃうのはやっぱり違うなと思います」

浅野「最近の100mは象徴的ですよね。一番純粋なアスリート能力が試される花形競技の100mで日本人が世界トップレベルに近づいている。瞬発力と持久力は違いますし、自分たちの肉体の特性を理解して理論的に鍛えれば日本人の肉体でも十分世界と勝負できる。ということで、サニ・ブラウンとケンブリッジ飛鳥のダブルボランチで解決ですね(笑)」

川端「187cmと180cmの大型高速ボランチコンビ(笑)。でも2人ともサッカーやっていたら、ボランチになっていないでしょうけどね」

浅野「結局、ジレンマの話か~」

川端「あと日本ではそういう身体能力に特段秀でた選手がいても、その選手と競り合う相手の身体能力は凡庸なので、なかなか鍛えられないという一面がありますね」

浅野「それとやっぱり日本人って『ボランチ』好きじゃないですか。その理由は柔よく剛を制すじゃないですけど、体ではなく頭で勝負できるポジションだからだと思うんですよね。その憧れや親近感を捨てるのは難しい」

川端「代表でやったら反発も凄そう。『上手いボランチ』を外すこととワンセットですからね。ハリルホジッチですら凄いアレルギーがあるでしょう。やはり上手さで勝負したいという幻想は絶対的に強い」

浅野「だったらそれを突き詰めたらいいんじゃない?」

川端「それもある。そこもジレンマですけど、個人的には両軸でいくべきかなと思います。弱点を放置しないことと、強みをより強くしていくことは矛盾するようで矛盾しないと思うので。世界の流れは意識した上で、僕ら自身のことも意識する。日本は上手い選手は勝手に生まれてくるイメージ持っているところがあるけれど、身体能力のある選手についてベルギーがやっているみたいな愚直な個人のスキルトレーニングを課していくのもありなのかもしれない」

浅野「いまひとつ夢や希望が持てない流れですね、もう終わりたいのにオチがないから終われない(笑)」

川端「今号を読みながらも思ったんです。現代ボランチ論がつらいのは、俺たち日本人って他のポジションでどうにも勝てない差を感じていたところで、ボランチだけは結構いけている気もあったんですよね。『そこでも勝てそうにないな!』と言われると、つらい。実際、欧州でボランチとしてやれている選手が全然いなくなっていますよね。山口蛍はすぐに帰ってきたし、柴崎岳も前で使われるでしょう。井手口陽介は現代的な流れの中にいる選手ですけれど、やっぱり前で使われるのかなあ?」

浅野「『なぜ、ボランチの海外組はいない?』は重要なテーマだと思います。現代サッカーはさっきも言ったようにより解析が進んだというか、フェーズごとにより細かく組織的に動くようになりました。例えば攻撃はビルドアップのフェーズと崩しのフェーズに分かれていて、ボランチは前者では主役だけど、後者ではもう脇役なんだよね。ボールラインの後ろにいてカンンターに対応する。だから今は『頭』以上に『体』が求められている。その常識を打ち破る選手が出てきてほしいですけどね。晩年のピルロがいたユベントスは無理やりピルロをチーム戦術の中に組み込んでいましたが、それゆえにオリジナルなシステムになっていた。必要は発明の母というか、常識に縛られない発想の先に進化がある」

川端「ピルロがピルロになっていく過程もそうですけど、戦術的な潮流の変化は育ってくるタレント自体を変えますからね」

浅野「まず規格外の凄い選手を育てて、そいつを生かすシステムを考えましょうということで」

川端「その中でここで話したような常識や僕らの固定観念を打ち破る選手が出て来て、それによってまた変化が生まれるんだと思います。どうやら日本にとって難しい時代が来つつあるのは確かですけれど、これももしかすると、日本が弱点を直視して克服していく好機と捉えるべきなのかもしれませんから」

●バル・フットボリスタ過去記事

Photos: Getty Images

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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