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15度目の欧州制覇は、論理的な采配に導かれて。両雄が披露した戦略と駆け引きの機微を紐解く【CL決勝ドルトムント対レアル・マドリー分析】

2024.06.04

2023-24シーズンのCL決勝は、2年ぶりのファイナル進出となったレアル・マドリーがドルトムントを2-0で下し、自身が持つCL最多優勝記録を15に更新した。結果的には下馬評通りの結末となったものの、前半にはドルトムントが何度も得点に迫るなど決勝にふさわしい攻防が繰り広げられた一戦を、らいかーると氏が分析する。

 一昨シーズンは奇跡のような試合の連続で、世界中のサッカーファンをある意味で困惑させるような優勝を成し遂げたレアル・マドリー。奇跡は何度も続かないから奇跡なのだと告げるように、昨季はマンチェスター・シティに敗れ去る運命となった。

 ベリンガムを加えた今季のレアル・マドリーは、スタメンのCBが2人ともに長期離脱となってしまったにもかかわらず、無敗を継続したレバークーゼンの影に隠れながらも敗戦をほとんど経験しないシーズンとなっている。もはや恒例行事になりつつあるマンチェスター・シティとの激戦をPKで制すと、レアル・マドリーらしい後半の逆転劇でバイエルンを下し、決勝戦に駒を進めてきた。

 国内ではぱっとしないシーズンを過ごしたものの、ジェイドン・サンチョとイアン・マートセンを獲得した冬の移籍市場での振る舞いからチームに勢いが生まれたドルトムント。ドイツらしい突然のロングボールによる速攻からのゲーゲンプレッシングと、マートセンの偽SBを活用した可変式によるボール保持攻撃で身につけた戦術の幅で、曲者のアトレティコ・マドリー、影の優勝候補のパリ・サンジェルマンを下して決勝戦にたどり着いた。

 下馬評ではレアル・マドリーが優勢になることは明らかであった。一方でここまで勝ち残ったドルトムントにも力があることは明白で、彼らがどのような抵抗から勝ち筋を見つけようとするのかがこの決勝戦の注目点であった。

ボール保持局面でレアル・マドリーの良さを消そうとするドルトムント

 キックオフからロングボールを蹴らずにCBとエムレ・ジャンでボールを繋ぐドルトムント。レアル・マドリーのプレッシングを観察しながらも、ショートパスもロングパスもこの試合では行う決意表明のような立ち上がりとなった。PSG戦でも見せたように、ボールを保持する時はしっかりとボールを保持することで試合の主導権を渡さない振る舞いができるところにドルトムントの良さが現れている。

 レアル・マドリーはロドリゴとヴィニシウス・ジュニオールを前線に配置する[4-4-2]のミドルプレッシングでスタートし、ドルトムントのCBのバックパスやお互いのパス交換をきっかけにハイプレッシングへ移行する日常のやり方を採用してきた。ロドリゴを左サイドに配置し、ヴィニシウスをトップに置く“発明”をファイナルでも披露するかと思いきや、ベリンガムの初期配置を左サイドとする道をアンチェロッティは選択した。……

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UEFAチャンピオンズリーグドルトムントレアル・マドリー

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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