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死力を尽くした最高峰の激突が迎えた、“たられば”のない結末。CLレアル・マドリー対マンチェスター・シティ分析

2024.04.23

期待に違わぬ、いや期待を上回る素晴らしいゲームとなったCL準々決勝レアル・マドリー対マンチェスター・シティ。世界最高峰と形容するにふさわしい2試合において、ピッチ上ではどんな戦術的駆け引きが繰り広げられていたのか、元東大ア式蹴球部テクニカルスタッフで現在はエリース東京FCのテクニカルコーチを務めるきのけい氏が、主にマドリーの視点から考察する。

 CLの優勝候補筆頭と目されていた2チームが、早くも準々決勝で激突した。2022-2023シーズンの王者マンチェスター・シティと、2021-2022シーズンの王者レアル・マドリーである。

 これで3シーズン連続の対戦となった。過去2シーズンはどちらも準決勝で、ロドリゴの終了間際の劇的2ゴールと延長戦のカリム・ベンゼマ(現アル・イテハド)のゴールでマドリーが決勝進出を決めた試合、ベルナルド・シルバらの躍動で4-0と圧倒し、雪辱を果たしてシティが決勝進出を決めた試合、どちらも記憶に新しい。春の風物詩になりつつある。

 そんな両雄は、今季も世界の期待を裏切ることなくスペクタクルな2試合を繰り広げた。そして、PK戦にまでもつれ込む死闘を制し、準決勝への切符を手にしたのはマドリーであった。

 本稿ではマドリーの目線で、起用やシステム、戦術や戦略がどのように絡み合い、ピッチ上の現象を引き起こしたのかに焦点を当て、この2試合を振り返る。

第1レグ:ロドリゴ左SH起用の背景と機能したハイプレス

 迎えた第1レグ、舞台はサンティアゴ・ベルナベウ。アウェイのシティはネイサン・アケとカイル・ウォーカーを負傷で欠き、ペップ・グアルディオラは左SBにはヨシュコ・グバルディオルを、右SBにはマヌエル・アカンジを起用。復帰したばかりのエデルソン・モラエスと試合前に体調不良を訴えたケビン・デ・ブルイネはスターティングメンバーから外れ、シュテファン・オルテガがGKに、またフィル・フォーデンとともにマテオ・コバチッチがIH(インサイドハーフ)に置かれた。

 一方ホームのマドリーは、シーズンの開幕時にティボ・クルトワとエデル・ミリトン、半ばにダビド・アラバと守備の大黒柱3人を前十字靭帯の断裂で失うという不運に見舞われており、注目が集まったのはアントニオ・リュディガーとCBを組むもう1人をナチョ・フェルナンデスにするのか、アンカーを本職とするオレリアン・チュアメニにするのかという点であった。まずはこの人選からカルロ・アンチェロッティの戦略的意図が読み取れる。

 今季のマドリーは、守備時を主に[4-4-2]あるいは[4-1-4-1]のシステムで戦ってきた。[4-4-2]の場合の中盤の並びは右からフェデリコ・バルベルデ、チュアメニ(あるいはエドゥアルド・カマビンガ)、トニ・クロース、ジュード・ベリンガムとなり、2トップはロドリゴとビニシウス・ジュニオールが務める。[4-1-4-1]の場合はアンカーがクロース、IHはバルベルデとカマビンガ、サイドにロドリゴとビニシウス、そして最前線にベリンガムという並びである。

 注目したいのは、クロースの左のスペースを守る選手である。攻撃において絶対に欠かせないクロースだが、彼は広いスペースをカバーできる選手ではないため、アンチェロッティはこれまで彼の左側をどう守るかに注意しながら守備の設計をしてきた。そして原則的にベリンガム、カマビンガのどちらかがその役割を務めてきた。

 ナチョを先発で使うメリットは、チュアメニを中盤で起用できるため、カマビンガを切り札として途中投入できるという点である。アンチェロッティは特にCLの舞台で、たびたびカマビンガを後半に流れを変えるキーマンとしてピッチに送り出してきた。しかし、この場合はベリンガムが左SHの[4-4-2]で守ることとなる。バランスが良く守備の安定感は増すものの、シティ戦で最も重要になり得るポジティブトランジションの局面において、前線で起点となれるベリンガムの位置が守備に追われることで下がってしまうという大きなデメリットが生じる。

 一方チュアメニをCBで使うと、クロースの左側にIHとしてカマビンガを置く[4-1-4-1]とすることでベリンガムを前線に残しておけるものの、流れを変えられる交代カードの1枚は失われる。加えて、左サイドのビニシウスは守備の計算が立たないため、[4-4-2]と比較してバランスを維持しながら守ることが非常に難しい。つまりはどちらを選んでも一長一短であった。……

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UEFAチャンピオンズリーグマンチェスター・シティレアル・マドリー

Profile

きのけい

本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻所属。3シーズンア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務め、2023シーズンにエリース東京FCのテクニカルコーチに就任。大学院でのサッカーをテーマにした研究活動やコーチ業の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter: @keigo_ashiki

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