今度こそ本当に「復調」と言っていいのだろうか。インテルは昨年11月3日以来となるアウェイ勝利をフィオレンティーナ相手に挙げたが、それは確かに内容の伴ったものだった。たとえ相手にはコッパ・イタリア準決勝の疲労が残り、加えてジュセッペ・ロッシやボルハ・バレーロが欠場という不利な条件が重なり、おまけに決勝点にはオフサイドの疑惑が騒がれようとも、だ。
2月にラツィオからエルナネスを獲得し、チームのバランスを整え直した効果は早くも表れた。その彼とグアリンにインサイドMFを任せ、アンカーにクズマノビッチを置いた中盤。そしてミリートの復帰に合わせ、純粋な2トップに戻した前線。それは奇しくも、マッツァーリ監督がプレシーズンから練習していたシステムだった。その結果、復活したのは機能的で激しいプレス。フィオレンティーナの最終ライン、中盤、そしてサイドに万遍なくプレスがかかり、インテルは常に先手を取った。
激しいプレスでボールを奪った後は、縦方向に素早くパスを繋ぎつつ、4、5人がゴールへと迫る速攻。前後左右と自由に流れるパラシオ、グアリンやジョナタンの連係による右サイドの攻撃と、最近の試合で死んでいたメカニズムが蘇る。エルナネスも、非常にスムーズに戦術にはまっていた。守っては長友と連動してクアドラードを囲み、攻撃の際はいち早く相手のゾーンの隙間にポジションを取り、的確に味方へパスを展開する。こうした機能性が結実したのが34分の先取点だった。クアドラードが突破するスペースを切り、横パスを出させたところをプレスで刈り取り、ショートパスを繋いでカウンター。両サイドも一気に上がって左右に相手を揺さぶり、フリーのパラシオへ展開しシュートを決めた。
ただ後半開始早々、インテルはセットプレーの流れからクアドラードにミドルシュートを打たれ、リードを帳消しにされてしまう。最近の試合であればここから勝手に調子を崩すところだったが、チームとして明快なサッカーができていたこの日の彼らは自信を失わなかった。一人ひとりが勤勉にプレスをかけ、集中力をキープ。特にマッツァーリ監督が「勝負を分けるポイント」と見ていた長友とクアドラードのマッチアップに関しては、日本代表SBが猛烈なスプリントの反復で対面を押し込み、インテルを有利にした。
押せ押せの展開になったところで、マッツァーリ監督は的確にカードを切った。スピードと得点感覚のあるイカルディの投入だ。最近はすっかりゴシップで有名になってしまった元バルセロナのカンテラーノは、戦術プランを結実させる大仕事をやってのける。65分、足の止まったクアドラードを尻目に長友が左サイドを破ると、DFの前に出てクロスを呼び込む。そして長友の左足から放たれたクロスをダイレクトで合わせ、これが決勝点となった。
長友がクロスを放った瞬間、イカルディはオフサイドラインから若干前に出ており、厳密に言えば“誤審”である。とはいえ試合のすう勢を考えれば、インテルのリードは妥当だった。彼らはその後も、カウンターからビッグチャンスを何度も作っており、もしイカルディのゴールが取り消されたとしても追加点は時間の問題だっただろう。終始ジリ貧のフィオレンティーナは、最後になってマリオ・ゴメスとマトリの2トップに放り込むパワープレーを敢行し、強引に点を取りにくる。しかし後半ロスタイム、マトリがライン際で落としたボールに誰も合わせることができず、そのままインテルに逃げられた。
4位と勝ち点差を5に詰めたインテル。彼らにとって肝心なのは、次節以降に調子を持続できるかどうかだが、戦術の再整備と新戦力の加入、そしてフィジカルコンディションの向上をアピールできたことは自信に繋がるだろう。一方、戦力の整わない中で戦わざるを得なかったフィオレンティーナはいろいろと不運だったが、それでも一度は追い付き、最後まで勝負を捨てなかったことは評価すべきだ。
(文/神尾光臣)
<監督コメント>
ビンチェンツォ・モンテッラ(フィオレンティーナ)
「イカルディのゴールが誤審? 他の選手に視野を遮られることなく、審判にとってもジャッジのしやすい状況だったと思うんだが……。こんな要因で負けるのは残念だが、受け入れるより仕方がない。自分たちは肉体的にもメンタルの上でも疲れていたから、インテルに対して引いて守る戦いしかできなかった。何とか最後まで同点にしようと戦ったが、運がなかった」
ワルテル・マッツァーリ(インテル)
「みんな非常に良くやってくれた。ただリードを奪った後、あれだけチャンスがありながら追加点を奪えず、最後に危うく勝利を失うところだったのは反省点だ。フィオレンティーナはセットプレーも強いが、そんなチーム相手に終盤にファウルやCKを献上してはならない。ともかく、コンディションが整えば、チームは私のやりたいサッカーを実現してくれる。それは証明できた」