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「アンダーステートメント」な名将シモーネ・インザーギに学ぶ、現代に求められる監督の資質とは?

2024.04.26

CALCIOおもてうら#13

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、インテルに20度目のスクデットをもたらしたシモーネ・インザーギ監督をフォーカス。UEFA PROライセンスの卒論も「チームマネジメント」という集団の環境を整えて選手を気持ちよくプレーさせることに心血を注ぐ「アンダーステートメント」な名将は、現代サッカーに必要な監督としての資質を体現する存在だ。

 「セリエAダービー月間」の締めくくりとなった月曜日のミラノダービーは、この日アウェイの首位インテルが終始主導権を握って2-1で完勝。シーズン終了まで5試合を残して通算20回目の優勝を決めた。

 これでインテルは、昨年1月にサウジアラビアのリヤドで行われたスーペルコッパ・イタリアーナ(3-0)以来、22-23春(1-0)、22-23CL準決勝(1-0/2-0)、そして今シーズン秋(5-1)に続いてミラノダービー6連勝。しかもこの勝利には、優勝19回で並んでいた宿敵とそのサポーターをその眼前で出し抜く形で「スクデット・デッラ・セコンダ・ステッラ(2つ目の星のスクデット※)」を達成するという大きなおまけまでついた。試合終了後のサンシーロ、そしてインテリスタ数千人が参集した深夜のドゥオーモ広場は、優勝チームにはおなじみの「カンピオーネ、カンピオーネ、Ole Ole Ole!」、そして「ミラーノ・シアーモ・ノイ!(俺たちがミラノだ)」という定番チャントの誇らしげな大合唱で満たされた。

※注:セリエA優勝10回につき星を1つ、シャツの胸に飾ることができる。

 昨シーズンのナポリに続き、シーズン半ば過ぎの2月には春を待たずに独走体制を固めての圧倒的な優勝。そのナポリが監督交代の失敗で凋落し、ユベントスは先週の当コラムで取り上げた通りの「ゼロ年」、そしてミランも故障者続出と不安定なパフォーマンスで早々に息切れと、ライバルがそれぞれの事情で困難に直面する中、就任3年目のシモーネ・インザーギ監督の下で正常進化を遂げ完成度を高めたチームが、高水準のパフォーマンスを安定して発揮し続けた。

卒論は「監督とチーム間のダイナミクス」

 そのサッカーについては、3月初めの当コラムで詳しく掘り下げた通り。高い流動性と攻守のバランスを両立させながらスペクタクルなサッカーを見せ、受動的な堅守速攻向けの古くさいシステムと見られがちな[3-5-2]のモダンな新解釈を提示したインザーギ監督は、この独走優勝をもたらした最大の功労者と言っていいだろう。

 インザーギは、いわゆる「戦術家」と呼ばれる監督たちとは、明らかにタイプが異なっている。試合後のインタビューや会見で戦術談義に喜んで応じる監督が多い中、彼はむしろ話をそらして避けようとするし、戦術的なディテールに注意を払うよりは、グループとして結束したチームが気持ちよくプレーできる環境を整え、持てる力を最大限に引き出すことに力を注ぐタイプ。

 彼が監督という仕事をどう捉えているかを象徴的に示しているのが、ラツィオのプリマヴェーラ(U-19)を率いていた2014年、UEFA PROライセンス取得時に提出した「卒論」だ。戦術メカニズムやトレーニングメソッド/メニューなど、ピッチ上に題材を求める監督が大半を占める中、彼がスポーツ心理学者を指導教官に選んで書いた論文は「監督とチーム間のダイナミクス」というタイトル。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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