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“分析おたく”エメリの手足。アストンビラ躍進を支えるアナリストチームの役割に迫る

2024.04.22

日本と世界、プロとアマチュア…
ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線
#4

日本代表のアジアカップ分析に動員され注目を集めた学生アナリスト。クラブの分析担当でもJリーグに国内外の大学から人材が流入する一方で、欧州では“戦術おたく”も抜擢されている今、ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線に迫る。

第4回では世界最高峰であるプレミアリーグのクラブにおけるケーススタディとして、アストンビラを躍進に導く“分析おたく”ウナイ・エメリのルーティンとそれを支えるアナリストチームの役割を、同クラブのサポーターでもある安洋一郎氏が紹介する。

 ウナイ・エメリが監督を務めるアストンビラが、開幕前から目標に掲げていたCL出場権獲得とECL優勝に向けて着実に歩みを続けている。

 今シーズンの彼らの躍進は欧州サッカーを追っている人であれば記憶に新しいだろう。2023年2月からホームでクラブ史上初の15連勝を達成すると、2023年の1年間でマンチェスター・シティに次ぐ勝ち点85をプレミアリーグで獲得。他にもクラブのシーズン最多勝利記録を19に伸ばし、42年ぶりに欧州カップ戦で準決勝に進出するなど、“分析おたく”として知られる指揮官の下でチームは大幅な強化に成功した。

 チームが強くなる中でエメリ自身も成長している。以前は対強豪に勝てないことで知られていたが、今シーズンはビッグ6戦で最多となる勝ち点15を稼ぐことに成功(第33節終了時点)。12月に行われたマンチェスター・シティ戦では内容で昨年のプレミアリーグ王者を圧倒し、因縁の相手であるジョセップ・グアルディオラから監督キャリアで初の勝利を挙げた。

プレミアリーグ第15節マンチェスターC戦(1-0)の84分、ベイリーが挙げた決勝弾に両拳を突き上げて喜ぶエメリ監督(0:56~)

 こうした目に見えた成果が出ているのは経営陣と現場が一体となっていることに加えて、エメリ監督自身の「分析力」が大きなカギを握っている。

アナリストチームも用意周到。“微調整”に欠かせないルーティン

 エメリのチームは敵陣に攻め込む際に[3-2-5]のシステムになることや独自のハイライン戦術などの大まかな戦い方の枠組みが決まっている。残りの細かい部分は相手の戦い方や自分たちのスカッドに合わせて微調整しており、ここでエメリの分析力の真骨頂が発揮される。

 エメリは一般の人が想像している何倍も“分析”することを好んでいる。彼のおたくぶりがわかるエピソードは数知れない。

 特に有名なのがビジャレアル監督時代にEL決勝マンチェスター・ユナイテッド戦に向けて、合計17試合も見返して研究をした話だ。事前に相手の弱点を把握していたエメリは先手の采配を打って見事勝利を飾り、クラブ史上初の欧州カップ戦タイトルをもたらした。

 アストンビラでの話に戻すと、彼の“分析”は試合が終わった直後のバスの中から始まる。その試合で起きた事象や課題、ポジティブな点を選手とチームの両方の視点から洗い出す。これを8時間から10時間かけて行い、同じことをコーチ陣にも課して彼らの意見と合わせたものを選手たちにミーティングで還元する。

 試合の振り返りが終わると、今度は次の対戦相手についての分析に着手。ここでキーマンとなるのが、エメリ監督がアルメリアを指揮していた2008年に出会い、以降セビージャ、パリ・サンジェルマン、アーセナル、ビジャレアルでもアナリストとして働いていたビクトル・マニャスだ。……

Profile

安 洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。