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レアル・マドリーは「未来」なのか(前編)。シティ戦で「ビルドアップvsハイプレス」が存在しなかった意味

2024.04.24

新・戦術リストランテ VOL.12

footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!

第12回は、現代サッカー最高峰とも言えるCLマンチェスター・シティ戦に勝利したレアル・マドリーに感じた、サッカーという競技の「未来」について考察してみたい。

 UEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)もいよいよ準決勝を迎えます。バイエルン、レアル・マドリー、ドルトムント、パリ・サンジェルマンが勝ち残っています。

 準々決勝のレアル・マドリーvsマンチェスター・シティはPK戦による決着でした。事実上の決勝とも言いたくなるようなハイレベルの攻防。W杯もそうですが、CLも準々決勝あたりから試合の雰囲気がかなり変わってきますね。

現代サッカーの定番構図がない!?

 マドリーとシティの2試合は、ある意味で近未来的な試合だったと思います。

 特徴的だったのが序盤の状況。多くの試合で見られるビルドアップvsハイプレスという構図がなかった。

 これは敵陣でプレッシングしても、ほぼボールは奪えないからです。奪えないと前がかりになっている分、一気に運ばれて攻め込まれる状況になりやすい。マドリーもシティもアタッカーが強烈ですから、そのリスクを負ってまでハイプレスはしなかったわけです。

 どちらも基本的にはミドルゾーンに守備ブロックを置く形になっていました。見た目の構図としては、ひと昔前に戻っているような感じなのですが、もちろん時代に逆行しているわけではありません。

 試合開始から20分間程度、ビルドアップvsハイプレスの攻防が常態化しているのはここ数年の傾向です。以前は、自陣の最深部からビルドアップしていくチームはほとんどなく、そのために守備側のハイプレスもなく、互いにミドルゾーンに守備ブロックを置いていました。マドリーvsシティは形の上ではこれに似ていたので、ひと昔感があったわけです。

 その後、ゴールキックからでもビルドアップしていくチームが増え、それに対応して敵陣でのプレッシングも増えた。自陣深くからのビルドアップが多くのチームで行われるようになった背景にはポジショナルプレーへの理解がありました。

「ポジショナルプレーの浸透=守備優位」の皮肉

……

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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