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イタリア代表分析官が明かす「アナリストとは何か」(前編)。FIGC講座で伝える「イロハ」とは?

2024.04.24

日本と世界、プロとアマチュア…
ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線
#5

日本代表のアジアカップ分析に動員され注目を集めた学生アナリスト。クラブの分析担当でもJリーグに国内外の大学から人材が流入する一方で、欧州では“戦術おたく”も抜擢されている今、ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線に迫る。

第5回はスパレッティ率いるイタリア代表のマッチアナリストを務め、イタリアサッカー連盟(FIGC)のマッチアナリシス講座で長年講師を務めてきたレナート・バルディが「アナリストとは何か」を語り尽くす。前編ではこの職業の歴史的変遷を含めてFIGCの講座で伝えている「イロハ」を明かす。

アナリストは大きく2種類に分けられる

――今回は、トップレベルのクラブにおいてマッチアナリストがどういう機能を担っているか、そして実際にどのように仕事をしているかについて、具体的に掘り下げていければと思っています。レナートは、故ミハイロビッチ監督のスタッフとしてサンプドリア、ミラン、トリノ、ボローニャという4つのセリエAクラブで仕事をして、昨夏からはスパレッティ監督のスタッフとしてイタリア代表のマッチアナリストを務めているだけでなく、FIGC(イタリアサッカー連盟)のマッチアナリスト講座で講師もしていますよね。その講義の内容などもぜひ知りたいところです。まず、マッチアナリストという仕事がクラブの中でどう位置づけられているかというところから入りましょうか。

 「プロのマッチアナリストとして仕事をする場合、その立場は大きく2通りに分かれます。1つは、監督付きのテクニカルスタッフ、もう1つはクラブ付きのアナリストです。以前は前者がほとんどでしたが、近年はクラブが自前のパフォーマンス分析部門を持つようになってきており、その一員として仕事をする形態も増えてきました」

――メディカルスタッフやリハビリ担当のフィジカルコーチなどは、以前からクラブ付きのスタッフとして仕事をすることが多かったですが、それがアナリストにまで拡がってきているということですね。

 「はい。ビデオアナリシスなどデータ分析に最もリソースを投入しているのはイングランドだと思いますが、プレミアリーグのクラブはどこも、パフォーマンス部門に少なくとも6~7人のマッチアナリストを雇用しています。ただ、マッチアナリシスは最終的にはトップチームの監督をサポートするための仕事なので、監督付きのチーフアナリストが、テクニカルスタッフとパフォーマンス部門のアナリストを統括し、分析チームの仕事全体をコーディネートするのが基本的な運営の仕方だと思います。

 私自身は、アナリストとしてのキャリアをスタートしてからずっと、監督付きのスタッフとして仕事をしてきました。最初はセリエBでガウティエーリと2年間、その後セリエAでミハイロビッチと10年間、そして去年の9月からスパレッティのスタッフに加わりました。なので、クラブ側のスタッフとして仕事をしたことはありません。ただ、昨年末に私のボスだったミハイロビッチが亡くなってフリーになった後、セリエAのあるクラブにパフォーマンス部門の設置を提案したことがあります。その内容は、マッチアナリシスに加えてスカウティングと育成までを1つの部門に統括して、トップチームのサポートはもちろんクラブの強化戦略ともリンクする形で運用していくというものでした。対戦相手の研究と対策、自チームのパフォーマンス分析だけでなく、スカウティングや育成にもマッチアナリシスのメソッドが寄与できることは少なくありません。それを統合的に取り扱うパフォーマンス部門の設置は、クラブにとって重要なリソースになると私は考えています。残念ながら、提案したクラブはその考えそのものは評価してくれたものの、採用してくれるには至りませんでした」

トレーニンググラウンド上でミーティングを行うスパレッティ監督。2023年9月に就任した新指揮官率いるイタリア代表コーチングスタッフの一員として、バルディはマッチアナリストを任されている

――イタリアではまだそうした取り組みを行ってくるクラブは少ないですから、実現すれば面白かったですね。

 「はい。そうした分野への投資に価値を見出しているクラブオーナーはまだ少ないのが現状です。セリエAで複数のクラブ付きアナリストを抱える独立した部門を持っているのは今のところユベントス、ミラン、インテル、ローマくらいですね。アナリストの立場に話を戻すと、監督付きのテクニカルスタッフとして仕事をする場合、監督が解任されたり契約切れでフリーになった場合には仕事がなくなるので、そういう雇用上のリスクは背負うことになります。仕事に関しては、目先の結果をはじめ現場で日々起こることに対応していかなければならないので、ストレスやプレッシャーはどうしても大きくなります。しかしその分やりがいは大きいですし、監督との意志疎通や相互理解が進めば進むほど、監督のメソッドに最適化した仕事の仕方が固まっていくので、自分の裁量で仕事に取り組める領域が拡がって行きます。

 その点クラブ付きのアナリストは、分析チームの一員として決められたルーティンをこなすのが仕事であり、目先の結果に対するプレッシャーやストレスはそれほど大きくありません。ただ、監督が代わればメソッドや与えられるタスクも変わってくるので、そのたびにルーティンを再構築しなければならず、また自分の裁量で仕事に取り組める部分もそれほど多くはないという側面があります。よりフレキシブルな対応が必要になってくる」

――クラブ付きのアナリストには、トップチームのサポートだけでなく、クラブとしてチームや選手のパフォーマンスを分析して情報として蓄積し、強化部門のリソースとするという仕事もあるのではないかと思います。それはそれで、監督が変わっても一定のプロトコルの下に進める必要がありますよね。

 「はい。私が某クラブに出したパフォーマンス部門設立の提案も、強化、スカウティング、育成それぞれの観点からチームと選手のパフォーマンスを評価するためのプロトコルやKPIを確立し、それぞれの分野で活かしていくというものでした。ただ、それはそれで継続的に行っていくべき仕事ではありますが、クラブ付きのアナリストであっても、最も重要なのはトップチーム監督のサポートです。監督付きのアナリストが統括する分析チームの一員として、その監督のメソッド、それに基づくプロトコルに従って仕事をした上で、クラブとしての作業も並行して行うという形が現実的だと思っています」

10年での大きな変化、変わらない軸とは?

――レナートがプロのマッチアナリストとして仕事を始めてから10年以上過ぎたわけですが、その間にこの仕事にどんな変化が起こったかを聞かせてください。……

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。