現状、ローマはユベントスを追いかける唯一のチームとなっており、当然ラツィオには現在勝ち点で大差を付けている。しかし、そんな力関係など関係なくなるのがダービーというものだ。しかもラツィオは、ペトコビッチの辞任を受けて1月から就任したレーヤ監督がうまくチームを掌握しており、1月は無敗で順位を浮上させている。実際、試合は拮抗。ローマダービーならではの激しい削り合いに加え、攻守も頻繁に入れ替わる緊迫したゲームとなった。
主にボールをキープするのはローマだった。デ・ロッシにストロートマン、そして圧倒的な技術を誇りながら守備もさぼらないピャニッチで構成される中盤は鮮やかに相手のプレスをかわし、ジェルビーニョやマイコンにパスを展開してサイドを攻め立てる。しかしラツィオは、それを覚悟で非常にコンパクトな守備組織を敷いた。ペトコビッチが残した[4-1-4-1]を継承する形で、ゴール前では中央にもサイドにもしっかり人数をかけてスペースを消す。もちろん球際の競り合いも容赦はなく、ボールホルダーを素早く取り囲み、ファウルすれすれの激しい当たりで潰した。
そして奪った後は、得意のスピーディなカウンターを展開。時にはロングボールを使うことにも躊躇(ちゅうちょ)せず、カンドレーバに縦を破らせクローゼに裏を狙わせる。しかし今季のローマも守備は堅い。裏を狙ってきた相手にはベナティア、レアンドロ・カスタン、そしてトロシディスが着実にカバー、そして中盤の戻りも早いのだ。ボックスからボックスへ、激しく攻守が入れ替わりながら、両チームともにフィニッシュワークは許さなかった。
拮抗した流れを変えるには、双方ともにベンチワークが鍵となる。最初に修正を施したのはローマ。ピャニッチをトップ下に置き攻撃に集中させる[4-2-3-1]へとシステムを変更する。これに対してレーヤ監督もすぐに手を打ち、八百長事件からの処分が解けたマウリをピッチへ送り、トップ下へと据え中央の圧力を増した。双方に細かい修正が刻々と入り、時間が経てば経つほど試合は拮抗する。それにしても、感服すべきは集中力が乱れないラツィオの最終ライン。何度となくローマの攻撃にさらされながら、決してゴールエリアをがら空きにすることがなかった。
しかし、激しいインテンシティ(プレー強度)は最後まで続かず、足の止まる時間が出てくる。そこで多くの決定機を作り出したのが、冬のメルカートで獲得した左利きのミシェル・バストスを投入したローマだった。その彼の突破から何度もクロスを供給したが、ことごとく中央には合わず、フィニッシュワークが雑になる。一方でラツィオもカウンターから相手DFと2対2、あるいは2対1になるというビッグチャンスも築くが、こちらもまたラストパスが雑でチャンスを生かせなかった。
結局試合は、スコアレスドローで終了。拙攻が目立つというよりは、守備における双方の集中力が際立った印象だ。もっとも、このドローで多くの収穫を得たのは、好調のローマと五分の試合を演じられるまで復調したラツィオの方か。ローマは執ように攻めながら1点が挙げられず、エラス・ベローナがユーベとドローに持ち込んだという一報を聞いた直後にゲームセット。優勝争いを考えれば手痛いドローだった。
(文/神尾光臣)
<監督コメント>
エドゥアルド・レーヤ(ラツィオ)
「前半は良いスタートを切ることができたが、後半は個々の技術で優るローマにボールを支配された。ただ、我われも違う意味で良い試合はできていたと思う。カウンターで2対1となった場面でオナジがラストパスをミスしなければ、リードを奪えていたのは我われだった。前監督と何が違う? 私にはわからないが、とにかく我われは失ったアイデンティティを取り戻しつつある」
ルディ・ガルシア(ローマ)
「勝利を得るためにはラストパス、あるいはその一つ前のパスの精度を常に高める必要がある。アウェイで勝ち点1と考えれば悪い結果ではないが、ただ攻撃をして満足するだけではなく、やはりゴール前でもう少し決断力に満ちたプレーが欲しかった。ユーベのドロー? 今の時点で順位表を気にするのは間違いだ。順延となったパルマ戦だって勝てるかどうかはわからないのだから」