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英、独、西に次ぐ世界4位のリーグ メキシコ・リーガMX隆盛の理由

2018.02.26

売上高も観客数も世界上位クラス


欧州の6、7位レベルと売上高で肩を並べ、世界トップクラスの観客動員数を記録するなど、“北米最強リーグ”として君臨するリーガMX。中南米勢をはじめ各国の有力選手が集うメキシコサッカー界、その活況のワケを探った。


人気があり、それなりにレベルも高く、選手は大金を稼げて、クラブや協賛企業にも多くのビジネスチャンスがある。現在のメキシコサッカー界は理想的な環境を作り出している。これだけの成功を収められている理由は、いったいどこにあるのだろうか。

親会社がデカい、スポンサー数が凄い

まず、サッカーが国民的スポーツであるという点が大前提としてある。メキシコでは野球やボクシング、ルチャ・リブレ(メキシカンプロレス)、モータースポーツなども人気だが、サッカーには及ばない。テレビや新聞、雑誌など、各メディアへの露出度を見ればそれは明らかだ。
そして、各クラブは国内の有力企業が経営母体となっている。例えばクラブ・アメリカを経営する『テレビサ』は、ラテンアメリカ地域最大手のテレビ局。あまり知られていないことだが、メキシコサッカー界の“聖地”であるエスタディオ・アステカも同社の所有物だ。その十分なバックアップを受け、潤沢な資金を有するクラブは、ライバル勢から有力選手を引き抜く手法でチームを強化し、数多くのタイトルを獲得。そのバックボーンやチームの在り方から、日本では読売ジャイアンツとも比較される。親会社からの手厚いサポートにより、他球団からFA選手を高額年俸で引き抜く巨人軍の様子を見れば、クラブ・アメリカがどんなクラブなのかイメージしやすいはずだ。

2016年シーズンのNFLインターナショナルシリーズで、ヒューストン・テキサンズ対オークランド・レイダーズの試合が11月21日にエスタディオ・アステカで行われた。ちなみにアメリカ国外で史上初の“マンデーナイトフットボール”(月曜開催)だった

本田圭佑を獲得したパチューカの経営母体『グルーポ・パチューカ』も、多角的に事業を展開する企業グループであり、実はパチューカだけでなくレオンも所有している。ちなみに、今年7月までは『グルーポ・カルソ』も両クラブの経営に携わっていた。グルーポ・カルソと聞いてもピンとこないかもしれないが、2010年から4年連続で世界長者番付1位になった実業家のカルロス・スリム氏が率いるグループだと説明すれば、どのような存在なのか理解していただけるのではないか。日本で知られていないからと言って、小さな企業が経営していると思ったら大間違い。メキシコの各クラブを所有するのは、国内外で絶大な影響力を誇る大企業ばかりなのである。
各クラブのスポンサーを務める企業の数も非常に多い。Jリーグ勢の場合、そのユニフォームにロゴが掲出されるスポンサーの数は、シャツとパンツを合わせて3社から5社程度だろう。しかしメキシコ勢の大半のユニフォームは、数々の企業のロゴで彩られている。17-18シーズンのユニフォーム掲出ロゴの数は、リーガMXの18チームで延べ141個、89種類にも上る。1チームあたり7.8個という多さだ。チーバスのように2つしか入っていないクラブもあるが、例えばレオンは13社、ティフアナは12社、ネカクサは11社のロゴを掲出。企業にとって、露出度が高いサッカークラブのユニフォームはそれだけ利用価値の高い“広告塔”なのだ。

賑やかなユニフォームもリーガMXの特徴。2月25日のクラウスーラ(後期)第9節、パチューカが“ロゴ掲出No.1”レオン相手に本田のPKで勝利した

アメリカからも高額テレビ放映権料

人気があるので、スタジアムの観客席が埋まる可能性も高くなる。クラブW杯でもおなじみのモンテレイは、もともとエスタディオ・テクノロヒコという約3万6000人収容の陸上競技場を本拠としていたが、スタンドは常に満員で、なかなかチケットが取れないことで有名だった。2015年8月には約5万2000人を収容するエスタディオBBVAバンコメールに移転し、16-17シーズンは平均で4万8000人超を記録と相変わらず高い集客率を誇っている。もちろん入場料収入は、クラブにとっての大きな財源だ。

また、テレビ放映権料も大きな収入源となる。メキシコではクラブがそれぞれ放映権を持ち、国内では『テレビサ』や『テレビ・アステカ』といった大手の中継局と放送契約を締結。さらに各クラブは、『ユニビジョン』や『ESPN』などアメリカのテレビ局にも放映権を販売している。メキシコ系移民が3500万人以上暮らすと言われるアメリカも重要なマーケットであり、チーバスの年間1600万ドル(約17億6000万円)、クラブ・アメリカの1500万ドルなど、高額の放映権契約を結んでいるクラブもあるほどだ。

クラブが潤えば、選手の年俸も高くなる。2016年のデータで恐縮だが、年俸ランキング1位はティグレスのフランス代表FWアンドレ・ピエール・ジニャックで420万ドル(約4億6200万円)。クラブ・アメリカのメキシコ代表FWオリベ・ペラルタがメキシコ人最高額の250万ドルでこれに続き、彼のチームメイトである元コロンビア代表FWダルウィン・キンテーロも180万ドルを受け取っている。17-18シーズンは、年俸400万ドルの本田がジニャックに次ぐ2位にランクインすることになるだろう。中南米諸国の代表クラスの選手であれば、100万ドルを超える年俸を得られる可能性が高いのがメキシコリーグの特徴であり、それゆえに中南米諸国でもリーガMXに対する注目度は高まっている。
娯楽の一つであるサッカーだが、その人気の高さゆえにクラブの経営母体、スポンサー企業、メディアなど多くの企業が絡み、巨大な金額が動く。その資金を元手に優秀な選手や指導者が集まり、リーグ全体のレベルが上がる。質の高いプレーを見るためにスタジアムにファンが集まり、会場に行くことが難しいファンはテレビ観戦をするために中継局と視聴契約を結ぶ。そして、さらに人気が高まり、リーグがますます盛り上がっていく。リーガMXは現在、そのような好循環の中にある。もちろんヨーロッパの上位リーグのように世界中がマーケットになっているわけではないが、南北アメリカ大陸では絶大な影響力を持ったリーグなのだ。

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Photo: Getty Images

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マキシコリーガMX本田圭佑

Profile

池田 敏明

長野県生まれ、埼玉県育ち。大学院でインカ帝国史を研究し、博士前期課程修了後に海外サッカー専門誌の編集者に。その後、独立してフリーランスのライター、エディター、スペイン語の翻訳家等として活動し、現在に至る。

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