じわじわ上位進出の片野坂トリニータ、2戦連発の野村直輝が輝き出した理由

トリニータ流離譚 第24回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第24回は、今季初の連勝で6位まで浮上してきた片野坂トリニータが取り組んでいる「攻撃のブラッシュアップ」について掘り下げてみたい。
4月29日のJ2第12節・サガン鳥栖戦に1-0で勝利し、大分トリニータは開幕の北海道コンサドーレ札幌戦以来のホーム白星を挙げ、今季初の連勝を遂げた。
4月に行われた5試合で、大分は1試合ごとに大きな変化を見せ続けた。

大宮対策の可変式[3-5-2]がハマる
まずは4月5日、第8節のアウェイ大宮アルディージャ戦。今季は守備を起点とするスタイルの構築を目指し、守備戦術の落とし込みからスタートしたチームはそれまで、5枚のブロックを構えて相手の攻撃を網にかけ、そこからのカウンターで好機を築く戦法を徹底していた。だが、この大宮戦にはリーグ戦では今季初めて、守備ではなく攻撃を起点とした発想で挑む。
大宮は[3-4-2-1]を基本フォーメーションとして攻撃時には左肩上がりでスライドして4バック気味になり、守備時には[5-2-3]で前の3枚が大分の3バックにプレスをかけてくる。それに対し、[3-5-2]の大分は、そのプレスを剥がしながらボールを前進させていく可変システムでの攻撃を準備していた。攻撃時には時計回りにスライドして野嶽惇也と藤原優大が2CBとなり、デルランを左SB、宇津元伸弥を左SHへと押し出す形となる。右サイドにはアンカーの天笠泰輝が出て𠮷田真那斗を高い位置へと押し上げ、野村直輝が組み立てに下り、榊原彗悟が積極的に前に出てフィニッシュワークへと多く関わった。有馬幸太郎と2トップを組む伊佐耕平はボールサイドに流れ、サイドの連係からチャンスを創出。それが前半に多く見られた形だった。
個々のポテンシャルの高い戦力が並ぶ大宮とのミラーゲームを避ける意図での策だったが、その狙いが見事にハマり、前半の大宮は大分を全く捕まえることができなかった。1トップにこれまでの藤井一志ではなくオリオラ・サンデーが起用されていたことも、大宮の組織的守備の精度を低下させていたかもしれない。
試合を優勢に進めると、20分に先制。デルランと野村がつないで榊原のスルーパスを拾った伊佐が持ち上がり、そのグラウンダークロスを有馬が流し込む、美しい一連だった。だが、その1分後にオリオラ・サンデーにゴールキックを収められ、豊川雄太に沈められてあっという間に試合は振り出しに戻る。その後も圧倒的な大分ペースで進み、53分には宇津元の左CKをニアで藤原優大が合わせて再びリードを奪ったのだが、交代カードを切り合ううちに流れは大宮へと傾いて、[5-4-1]のブロックでしのごうとするも90+4分に失点。試合は2-2で終了し、大分はあと一歩というところで勝ち点2を取りこぼした。
修正力が光った徳島戦、地力の差が出た千葉戦
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg