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“先手を取る”プレー原則の浸透に見る双方向型のゲームモデル運用。レアル・マドリー好調の要因をポジショナルプレーの観点から紐解く

2024.02.20

シーズンを通して、主力が一堂に会したことはただの一度もない。それでもなお結果を残しているレアル・マドリー。好調の主たる要因となっているのは、チームのメカニズム面だ。元東大ア式蹴球部テクニカルスタッフで現在はエリース東京FCのテクニカルコーチを務めるきのけい氏が、ハイパフォーマンスの源泉を詳らかにする。

 3シーズン目に突入したカルロ・アンチェロッティ率いるレアル・マドリーの快進撃が続いている。今季はカリム・ベンゼマの後釜となるストライカーの獲得を見送り、シーズン開幕時にはティボ・クルトワとエデル・ミリトンが、12月にはダビド・アラバが前十字靭帯断裂の重傷を負った。他にもオレリアン・チュアメニエドゥアルド・カマビンガビニシウス・ジュニオールらが数カ月の離脱を経験するなど、ここ数シーズンのレアル・マドリーを支えてきた中心選手がそろわない非常にやりくりの厳しいシーズンを過ごしている。それにもかかわらず、アトレティコ・マドリーとバルセロナを打ち負かしてスーペルコパ・デ・エスパーニャのタイトルを獲得すると、ラ・リーガでは2位に勝ち点6差をつけて首位を走り、CLでもGS+ラウンド16第1レグの7戦を全勝で勝ち進んでいる。アトレティコ・マドリーとの再戦となったコパ・デルレイは延長戦の末敗れる結果となったが、それでも公式戦36試合を終えた現時点での29勝という数字は、クラブ史上最高クラスの成績となっている。

 好調の要因について考えると、真っ先に挙げられるのは失点の少なさだろう。ラ・リーガでの失点数は25試合を消化した時点で16。GKとCBの絶対的な主力が不在ということを踏まえると、良い意味でにわかには信じがたい数字である。

 20歳にして世界屈指のMFジュード・ベリンガムを迎え入れ、彼をトップ下に置く[4-3-1-2]システムでスタートした今季は、ブロック守備主体から、よりアグレッシブにボールを奪いに行くハイプレス主体のボール非保持の戦術に移行することを試みた。しかし、ラ・リーガ第5節、第6節でソシエダ、アトレティコ・マドリーという力のある相手と対戦すると、3人が並ぶMFラインの脇(特に左のトニ・クロースの脇)のスペースを利用されてサイドを崩されるという弱点を露呈した。これをきっかけに、第8節ジローナ戦以降はベリンガムが左SHに入る[4-4-2] (ボール保持時はビニシウスが大外レーンに開く)システムに変更。ハイプレスに行く機会は減ったもののスペースを均等に埋めることが可能となり、バランスは明らかに向上した。

ラ・リーガ第8節ジローナ戦のボール非保持
ラ・リーガ第8節ジローナ戦のボール保持

 しかし筆者は、ボール非保持のシステムの変更以上に、ボール保持の改善が失点の少なさ、そして今季の好調に繋がっていると考えている。具体的には、ビルドアップ〜崩しにかけての再現性の向上と、それに伴うネガティブトランジションの安定である。本稿では、ポジショナルプレーの一般的な考え方をもとにレアル・マドリーのボール保持の特異性およびそれを実現するプレー原則を掘り下げ、さらにゲームモデルの運用法について考察したい。

“引きつけてリリース”に潜む罠

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レアル・マドリー

Profile

きのけい

本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻所属。3シーズンア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務め、2023シーズンにエリース東京FCのテクニカルコーチに就任。大学院でのサッカーをテーマにした研究活動やコーチ業の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter: @keigo_ashiki

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