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「シュートが下手」は過去の話?ビニシウスの覚醒は本物か

2021.09.27

圧倒的なスピードで左サイドを蹂躙し、“あとはシュートだけ”というところで全力で蹴って枠を外す――これが昨季までのビニシウス・ジュニオールのイメージだった。ところが、今シーズンは8試合5ゴールとまるで別人だ。好調レアル・マドリーを牽引する左ウイングの「覚醒」は本物なのか、現地スペイン在住の木村浩嗣氏が分析する。

 ビニシウスは変わった。

 そう、数字が言っている。

 レアル・マドリーで昨季まで公式戦119試合で14ゴールだったのに、今季は同8試合で5ゴール。1点挙げるのに8試合半かかっていたのに、今は1試合半のペースでネットを揺らしている。

 チームメイトもそう、証言している。

 「彼はクラックだ。一緒にプレーするのは大好きだ」とは、9月12日のセルタ戦後のベンゼマの言葉である。この試合ビニシウスとベンゼマは互いのアシストで互いが得点した。

 「あいつは好き勝手する。あいつとはプレーするな。なんてこった。あいつは我われの敵なんだ」とベンゼマが嘆く様子がカメラに収められたのが、昨年10月22日のボルシアMG戦でのことだった。

 1年もたたないうちに評価が180度変わったわけだ。

リーガ第4節、セルタ戦のハイライト動画

「鬼」はもともと凄い、「金棒」は水物?

 得点できなかった選手が急に得点に目覚めることはよくある。昨季で言えば、セビージャのエン・ネシリ(19-20:10ゴール→20-21:24ゴール)がそうだろう。逆に、得点力に急ブレーキがかかることもある。最近では、ベティスのボルハ・イグレシアス(18-19:20ゴール→19-20:6ゴール)がそうだった。同じシーズン内でもゴールが続くこともあるし、ノーゴールが続くこともある。

 その変化の理由としてよく言われるのはメンタルの変化。自信がつけばゴールが入り、自信をなくせば入らなくなるのは当たり前。スペインでも「このFWは今乗っている」という言い方をされる。ビニシウスは今乗っている。それは間違いない。だが「覚醒」、つまり得点力に目覚めて、決して再び眠ることがないかどうかを見極めるには、8試合では少な過ぎる。

 レアル・マドリーの選手だから好調も不調も大袈裟に騒がれる。ゴールを外す姿があまりに知られ過ぎたゆえに、今絶賛されているという面もある。いずれゴールが入らなくなり、その時にビニシウスがどうなるか?「覚醒」であれば再びゴールを量産し始めるはずなのだ。それとビニシウスはゴールゲッターではない。本人もそれを自覚しているし、「決して点取り屋にはなれない」と断言するクラブ関係者もいる。最大の武器は、爆発的なスピードでのドリブル打開力であり、これは世界一に近いレベルにある。ゴールはその打開がもたらす結末の一つに過ぎず、得点が止まっても実は本人は絶好調、ということもあるだろう。本当に心配すべきは打開が止まった時で、こちらは年齢的な衰えや大ケガ以外には起こり得ない。得点もアシストもできれば鬼に金棒だ。だが、「鬼」は今も昔もドリブル打開力である。

リーガ第5節、バレンシア戦でボールを運ぶビニシウス

アンチェロッティの助言で「こねなくなった」

 以上を前提に話を進めたい。

 彼の変化ははっきり目に見えている。

 まずゴール前でボールをこねなくなった。アンチェロッティ新監督のおかげである。……

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ビニシウス・ジュニオールレアル・マドリー戦術

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。