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交錯するレアル・マドリーとバルセロナ。明暗分かれたクラシコが示した皮肉な現実

2022.10.19

サンティアゴ・ベルナベウに宿敵バルセロナを迎えたレアル・マドリーに軍配が上がった2022-23最初のクラシコ。文字通り首位決戦となった注目の一戦の戦術的ポイントを、東大ア式蹴球部のきのけい氏が分析する。

 ラ・リーガ第9節、互いに7勝1分0敗の同勝ち点22で迎えた伝統の一戦エル・クラシコ。結果は3-1でホームのレアル・マドリーが勝利し、奇策に出て大敗を喫した前回対戦(●0-4)から一転、スコア以上に内容の差が顕著な試合となった。

 カルロ・アンチェロッティ率いるレアル・マドリーは正しい道を歩んでいるように見える。バロンドールを獲得したカリム・ベンゼマ、衰える気配のないルカ・モドリッチ、トニ・クロースらベテランは依然としてビッグゲームではスターティングメンバーに名を連ねるが、今季は一部ローテーションに組み込まれ、ラ・リーガ、CLを制した昨季と比べても彼らへの依存度が低くなっている。ビニシウス・ジュニールに続きフェデリコ・バルベルデ、ロドリゴ・ゴエスの2人の若手が”覚醒”にふさわしい活躍を見せており、クラシコでも抜群の存在感を発揮してゴールを記録した。内容・結果ともに文句なしのシーズンスタートを切り、クラシコを勝利で終えたここまでは公式戦14試合で12勝2分の無敗だ。

 一方のシャビ・エルナンデス率いるバルセロナは今夏、未来の資産を手放すことによってドラスティックな補強を実現し、ロベルト・レバンドフスキ、ハフィーニャ、ジュール・クンデら一線級の選手をかき集め、今季に懸ける覚悟を示した。しかし蓋を開けてみれば国内での取りこぼしは減ったものの、欧州の舞台ではバイエルン、インテルといった互角以上の相手に負け越し、CLグループステージ敗退が濃厚となるショックを抱えて臨んだクラシコでも明るい未来を感じさせることはできなかった。公式戦13試合で8勝2分3敗というスタートとなった。

 現代フットボールに革命的な影響を与えたペップ・グアルディオラの作り上げたチームは、バルセロナというクラブを世界最高峰の地位まで押し上げ、そのアイデンティティを確固たるものにした。しかし誤解を恐れずに言うと、現在その伝説的なチームにどちらがより近い存在かと問われれば、私はレアル・マドリーと答えるかもしれない。

 確かにそのアプローチの仕方や戦術面で言えば両者には大きな違いがある。まったく別のチームであるのに比較などするなと怒号を浴びせられるかもしれない。しかし選手が集団の中の相互作用で個性を発揮し、同時に周りを活かしながら1つの生き物のごとく試合を支配するという点において、現在のレアル・マドリーは最高レベルの完成度に到達している。本稿ではクラシコにおける両チームの意図とプレーを比較しながら、最後にこの部分に対する考察を述べる。

「持てそうなら持ちたいレアル・マドリー」vs「持ちたいバルセロナ」

 まず、レアル・マドリーもバルセロナも基本的にボールを保持したいチームだ。

 大きく異なるのはボール非保持時の考え方で、レアル・マドリーは自陣に撤退し、ローブロックを構築することを優先する。モドリッチ、クロースのプレス耐性とベンゼマの技術を活かしたポストプレー、ビニシウスのスピードはロングカウンター時に最も発揮される。ハイプレスに出る場面は限定的だが行くか行かないかのチームとしての判断は向上しており、試合状況によっては右ウイングのバルベルデを中盤に移したり、エドゥアルド・カマビンガ、ロドリゴらを投入したりすることによって高強度のハイプレスを連続的に繰り出し、クローズドからオープンな試合展開に持ち込む手札を持っている。

 一方のバルセロナはリバプールやマンチェスター・シティ、バイエルンなど近年欧州トップレベルと見なされている強豪と同様に、ハイラインのハイプレスを主体として相手からボールを取り上げようと試みる。シャビ・バルサの大きな武器と言っていいのが、インサイドハーフ(IH)ガビの走力やCBロナルド・アラウホの守備範囲の広さを活かしたこのプレス強度の高さだ。中盤から1人を押し出してCFとプレスラインを形成する[4-4-2]の陣形でボールをサイドへ追いやり圧縮。中盤も前へと人を捕まえに行き選択肢を消しにかかる。

 この両チームの思惑、すなわちボールを「持てそうなら持ちたいレアル・マドリー」vs「持ちたいバルセロナ」の構図は、プレス回避vsハイプレス、ブロック守備vs崩しという2つの局面としてピッチ上に反映された。

レアル・マドリー:動的なボール保持を機能させるミクロな個人戦術

 主にペップ・バルサの成功によってサッカーにおける配置の重要性が(再)発見され、ポジショナルプレーという概念が普及した現代サッカーだが、逆に言えば強豪が標準装備していることは当たり前となった。よって刻一刻と変化する環境の中で22人が異なる意思決定を行うサッカーを戦術的な観点から分析するには、マクロな「静的配置」だけでなく「動的構造」およびミクロな「個人戦術」まで考慮する必要がある。

 レアル・マドリーはチームとして常に正しい「静的配置」をとり続けることはできないが、リアルタイムで相手をよく見て、後出しジャンケン的に「動的構造」を引き起こすことに長けており、それを実現するための「個人戦術」の質が群を抜いている。一般にまずは正しい「静的配置」を実装することが優先される(難易度が低い)現代において、これがレアル・マドリーのボール保持が異端に映る理由である。すでに完成された選手やトップクラスの才能を持つ選手を補強して組み合わせ、彼らに自由を与えて自然な自己組織化を促すクラブ哲学がピッチ上に反映されていると言えるのかもしれない。

 その観点からチームの最も強力な武器となっているのが、今シーズンのレアル・マドリー分析記事で指摘した通りプレス回避だ。カセミロの退団によって出場機会を得たアンカーのオレリアン・チュアメニを含む中盤3人が流動的なポジションチェンジを行い、バックパスを使って何度もやり直し、生み出した中央のスペースに適切なタイミングで選択肢を用意し利用することによって、先ほど名前を挙げたガビ、そしてアラウホ(負傷)を欠くアウェイチームのハイプレスを空転させていった。

 ピックアップしたいのが17分のシーンである。左CBのダビド・アラバからパスを受けた左SBのフェルラン・メンディがGKアンドリー・ルニン(負傷のティボ・クルトワの代役として出場)に下げると、右CBエデル・ミリトンへとボールを動かす。さらにタッチライン際の右SBダニエル・カルバハルへとボールを流し、そのままミリトンがこの日ファーストラインを形成しているIHペドリを引きつけ、CB間に落ちた左IHクロースへと再びバックパスが渡る。この時CBが前方に上がり、中盤3人は縦1列に並ぶような歪な配置となっているが、クロースは相手アンカーのセルヒオ・ブスケッツの脇にスペースを見つけた右IHモドリッチへと中距離の縦パスを通し、難なくプレス回避に成功している。

レアル・マドリーのプレス回避vsバルセロナのハイプレス(17分)

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Profile

きのけい

本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻所属。3シーズンア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務め、2023シーズンにエリース東京FCのテクニカルコーチに就任。大学院でのサッカーをテーマにした研究活動やコーチ業の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter: @keigo_ashiki

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