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未来を売ったバルサの費用対効果とシャビがこだわる「後の先」。その先に“美しさ”はあるのか

2022.09.07

ケシエ、クリステンセン、ラフィーニャ、レバンドフスキ、クンデ、ベジェリン、マルコス・アロンソ……。大勝負に出た夏を経て、バルセロナはリーガ開幕4戦を3勝1分・11得点1失点と好発進した。昨年11月の就任から初のフルシーズン、結果が出なければ大変なことになるシャビ体制の現状を、おなじみのぶんた(@bunradio1)さんが分析する。

 「史上空前の夏」という言葉がふさわしいバルサの移籍マーケットの振る舞いだった。ビジネスとしてのブランド力維持と競技としての競争力を担保し「強いバルサ」を取り戻す。いや取り戻さないといけないと退路を断ち、未来の資産を売って現金化し「現在(いま)」に全BETしたフロント陣。失敗は絶対に許されないある種、賭けのシーズンとなる。

 ポジショナルプレーが当たり前化した現在では、バルサは特殊なフットボールだから新戦力が馴染むのに時間がかかるなんていうこともなく、すぐにフィットするようになった。なので大量に補強された戦力の能力値が上がった分、チーム力がそのまま向上した感じだ。リーガ第2節では難敵ラ・レアル(ソシエダ)を60分以降に矢継ぎ早に打てる持ち駒の厚みで押し切るなど(○1-4)、未来を売った費用対効果はプラスに働いている。

 新戦力の中でも特にレバンドフスキの効力は絶大である。あまりにも早く代えの利かない選手になったので、あとで特集します。まずはシャビの戦い方から。

ペップの動的構造とシャビの静的配置

 強いメンタルで“己の道”を進むシャビは、良くも悪くもブレない人である。

 昨シーズンにメッシ中毒の症状を克服し、基本を叩き直した。シャビにとって真のスタートを切ったわけだが、今シーズンこれまでの戦い方を見る限り、昨シーズンとほぼ変わっていない。ボール保持と敵陣でのハイプレスでボールと試合を支配する原則は変わりようがなく、オープンであればスペースを素早く利用する判断。3人目の動きに見える縦の動きのメカニズム。ウイング(WG)の積極活用など、昨シーズンやってきたことに新たな肉づけをして変化を加えるというよりは、やってきたことをコアに極める方向性であることがわかる。

 ここにペップとシャビのチーム強化のアプローチの違いが表れ、表現されるフットボールの違いにもなってきている。

8月24日にカンプノウで開催されたチャリティマッチ、バルセロナ対マンチェスター・シティ(3-3)で再会した両監督

 ペップのフットボールを端的に言うと、相手を見て移動を繰り返し、相手を惑わすフットボール。アメーバのようなつかみにくいポジションチェンジによる動的構造がある。しかしシャビのフットボールは、相手を見てタイミングを合わせて、相手を剥がすフットボール。無駄な動きはせず、選手たちが思考をシンクロさせるフットボールをやっている。

 シャビのポジショナルプレーの概念は、もはやクラシックと言っていいほど配置に忠実で静的だ。シャビ自身が選手時代にやっていた複雑な移動で相手を惑わしたり、大胆なポジションチェンジでキープレーヤーに時間と空間を与えたりすることをチームに求めているようには見えない。

 というか、あえて省いているという表現の方が正しいくらいに動的構造がない。ポジショナルプレー封じとも言える位置的優位を与えない組織的守備に対して、移動の連鎖という遠回りなことをせず、シャビは実直に配置の真理を突く。

 相手を誘い出し、正しい場所に、正しいタイミングで、正しく体の向きが合えば、必ずボールは前進できる。

 シャビはこの3つそろえたタイミングを徹底的に鍛えているように見える。相手が先に打ち込む動きを読んで動作を起こし、応じ技を決める。武術で言う「後の先」をチーム全体で全方位から仕掛けるフットボール。そのタイミングか噛み合えば相互作用で自己組織化され、自ずと動的構造が派生するといった感じである。

場所、タイミング、体の向き

 ボール前進のスタートとなるビルドアップに「後の先」の思想がモロに表れている。……

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シャビ・エルナンデスバルセロナ

Profile

ぶんた

戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」

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