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サッカーを革新したチェスの概念。ポジショナルプレーという配置論

2017.10.12

3つの優位性でポジションを「再定義」する

TACTICAL FRONTIER

サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか?すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

 アメリカが生んだ歴史的チェスプレーヤー、ボビー・フィッシャーは「ポジションにおける優位性から、戦術というものが生まれる」と語った。興味深いことにチェスの世界では、「ポジショナルプレー」という単語が以前から使われており、局面における駒の配置から生まれる優位性がゲームの結果を決定するとされている。

 リヌス・ミケルスとヨハン・クライフによって提唱されたトータルフットボールが、ポジションの概念を抽象化させたのは疑いようのない事実だ。ペップ・グアルディオラが、ポジショナルプレーの「解釈」において他を圧倒するという評価を受けているように、現代フットボールを語る上でこのポジショナルプレーという概念を無視することは難しい。また、ポジショナルプレーはスペイン的な概念だと誤解されがちだが、それも異なる。実際、グアルディオラは「チェルシーを率いるアントニオ・コンテは、私とは異なるスタイルでポジショナルプレーを使う」と述べている。

 ポジショナルプレーの解釈には諸説あり、その解釈方法がチームのスタイルを定義する。同じポジショナルプレーとはいっても、チェルシーとマンチェスター・シティのスタイルが異なるように。しかし、原則だけを取り出せば、決して複雑なものではない。その原則とは、「優位性を保てる状態でボールを受けるプレー」だ。その優位性には量的優位性、質的優位性、位置的優位性の3つがあり、それを生み出せる状態で味方からのパスを受けることができるポジションを取ること。これこそがポジショナルプレーの原則となる。

 量的優位性とは、単純に「数的有利を作り出せるポジション」のこと。例えば、グアルディオラが得意とする偽9番は「中盤に数的有利を作り出す」プレーであり、アンカーがDFラインへ下がることは「最終ラインに数的有利を作り出す」メカニズムである。

 2つ目の質的優位性とは、「選手の特性に依存する優位性」だ。具体的にはマッチアップする相手に対して能力的に上回ることを意味する。例えばスピードを武器とする選手であればドリブルで優位性を生み出すことが可能で、身長の高い選手であればヘディングで優位性を生み出せる。

 最後の位置的優位性、これは例えば2人のDFの間でボールを受けたり、死角でボールを受けることだ。2人の迷いを生むポジションでボールを受けることは、別のスペースで量的優位性を生み出すことにも繋がる。

 得点を奪い、失点を防ぐという最終目的に向かう上で、ポジショナルプレーという原則が目指すのは「得点しやすく、失点しづらい陣形を組むこと」。自分たちがボールを保有することは、能動的に陣形を最適化することに繋がる。グアルディオラのフットボールは「陣形を最適化するためにボールを保有する」のであって、実のところ「パス」は手段でしかない。グアルディオラのフットボールを正しく解釈し切れないことが多いのは、ポジショナルプレーを理解し切れていないことにも密接に関連している。ボールを保有することを目的と捉えてしまうと、本質からは遠ざかっていくのだ。

 ポジショナルプレーの原則に照らし合わせれば、ポジションとは単なるフォーメーション図に従った配置ではなく、3つの優位性を生む手段となる。同じ位置で受けたとしても、受ける選手が変われば意味は異なる。また、同じ選手であっても体の向きが変わればプレーの選択肢は大きく異なるのだ。グアルディオラがバイエルン時代に、前を向ける場面でバックパスを選んだビダルに怒った場面はその好例と言えるだろう。

 繰り返しになるが、周りとの関係性によって優位性を生み出せる位置取りは変わってくる。ゆえに、優位性を作り出すことさえできればもともとのポジションに縛られる必要は皆無。バルセロナのコーチとして活躍したパコ・セイルーロは「すべての1対1は同じ価値ではない」と主張した。一つひとつの状況で優位を得られているか否かを細かく評価して、チーム全体として認識を共有する。ディテールへのこだわりこそが、ポジショナルプレーを読み解き、ポジションを再定義する鍵になる。

Photos: Getty Images

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ポジショナルプレー戦術

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。