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内容は一方的、結果は合わせて7ゴール。マンチェスター・シティ対レアル・マドリー、第1レグの死闘を分析する

2022.04.30

両チーム合わせて7ゴールが飛び交う激闘となった、マンチェスター・シティ対レアル・マドリーのCL準決勝第1レグ。ピッチ上で起こった現象とその背景について、東大ア式蹴球部分析官のきのけい氏が詳らかにする。

 ラウンド16では圧倒的な強さでスポルティングを寄せつけず、準々決勝ではアトレティコ・マドリーの決死の抵抗に遭いながらも完成度の高さを見せつけて準決勝まで勝ち上がってきたマンチェスター・シティ。対するは、ラウンド16でパリ・サンジェルマンを、準々決勝で昨年王者のチェルシーをいずれも劇的な大逆転という形で下したレアル・マドリー。マンチェスター・シティのホーム、エディハド・スタジアムで行われた世界屈指のビッグクラブ同士の注目の一戦は、壮絶な撃ち合いの末に4-3でマンチェスター・シティが先勝した。

 両者は一昨シーズンのラウンド16でも相まみえており、この時は第1レグ、第2レグともにマンチェスター・シティが2-1で勝利して勝ち上がっている。レアル・マドリーは監督がジネディーヌ・ジダンからカルロ・アンチェロッティへと変わっているものの、ペップ・グアルディオラとは言わば対極的なマネジメントを志向する点では変わらず、両指揮官の作り上げてきたチームがどのような試合展開を見せるかに注目が集まった。

 結論から言ってしまえば、マンチェスター・シティがすべての局面でレアル・マドリーを上回っていた。まずはそれが際立った理由を分析していく。

カセミロ不在がもたらした守備メカニズム変更による影響

 今シーズンのレアル・マドリーは、ハイプレスを軸に試合を支配するスタイルを目指しながら継続性に欠け徐々に機能不全に陥り、従来の戦い方に戻すということを何度か繰り返してきた。ハイプレスをことごとく空転させられ大敗したエル・クラシコを機に、再び試合の大半はローブロックで待ち構え、一点集中的にハイプレスを繰り出すというスタイルへの変更を強いられている。

 特にCLという舞台でそうした戦い方をするには、CL3連覇時代の絶対的レギュラーであり、今もなお高いレベルを維持しているカセミロ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロースの3人が中盤を構成し、同じく主戦場は中盤だが強烈なダイナミズムを武器とするフェデリコ・バルベルデを右ウイング(WG)に据える布陣が最もうまくいっていた。チェルシー戦の記事でも述べたが、5レーンを埋めて配置で相手を押し込み、ハーフスペースを起点に質の高い攻撃を繰り出すチェルシーやマンチェスター・シティといったチームへの対策として、あらかじめハーフスペースに人を配置し守備の基準点を明確にする5バックを採用するチームが増えている。レアル・マドリーも例に漏れず、走力に優れるバルベルデを最終ラインの右大外に吸収させ、実質的に5バックになるブロック守備を構築するやり方で一定の成果を見せていた。

 そんな中、レアル・マドリーは負傷で直近の試合を欠場していたカセミロが間に合わず。エドゥアルド・カマビンガを代役として起用するプランもあったはずだが、アンチェロッティはチェルシー戦第2レグで反撃の狼煙を上げるゴールを奪っただけでなく、直後のラ・リーガ優勝を占う第32節セビージャ戦でも1ゴール1アシストと活躍を見せていたロドリゴ・ゴエスをスタメンに抜擢した。これによりバルベルデは本来の右インサイドハーフ(IH)に置かれ、カセミロの位置にはクロースが入った。

 一方のマンチェスター・シティは、アトレティコ・マドリー戦第2レグでイエローカードを提示され累積により出場停止となったジョアン・カンセロ、負傷で離脱のカイル・ウォーカーと、両レギュラーSBを欠く難しい状況。右には同じくケガで出場が危ぶまれていたジョン・ストーンズが、左にはオレクサンドル・ジンチェンコが起用された。

 前線には様々な組み合わせが考えられるマンチェスター・シティだが、この日は直近のプレミアリーグ第34節ワトフォード戦で4ゴールと大暴れし絶好調のガブリエウ・ジェズスをトップに置き、右にリヤド・マレズ、左にフィル・フォーデンという並び。マンチェスター・シティが押し込む展開は容易に想像できる中、レアル・マドリーの弱点となるのはバルベルデが最終ラインに吸収される分カバーし切れなくなるブロック手前および右IHモドリッチの右脇のスペースである。右の逆足WGマレズが起点となって相手を引きつけ、そこから素早く中央を経由して左ハーフスペースにボールを持っていきたいという意図があったはずだ。それは、そこ(左IH)に崩しの絶対的な存在であるケビン・デ・ブルイネを置いていることにも表れている。

シティの攻撃の要デ・ブルイネ。写真の先制ゴールだけでなく、試合を通してレアル・マドリー守備陣の脅威となり続けた

 しかし実際には、レアル・マドリーが守備のメカニズムに微調整を加えてきたためやや異なる現象が起きることとなった。そしてそれはすぐさま、開始2分のホームチームの先制点という形で表れる。

 レアル・マドリーは、右WGのロドリゴを最終ラインには落とさず基本的に4バックで試合に臨んだ。もちろん彼が攻撃的な選手で、バルベルデほどの走力と守備強度を備えていないというのも1つの理由だろう。その分、非常に難しいタスクを与えられたのがバルベルデである。彼はミドルサードではボールホルダーにプレッシャーをかけながらも、ディフェンシブサードでは相手に後ろからマークについた。つまり、ライン間に侵入してくる選手を背中で消すのではなく、必要に応じてマンツーマン気味に捕まえることで右SBダニエル・カルバハル、右CBエデル・ミリトンの間をケアすることを試みたのだ。

 しかし立ち上がりの失点シーンでは、2列目からトップスピードで飛び出してきたデ・ブルイネをマークし切れず。4バックの泣きどころであるチャンネルのぽっかりと空いたスペースで、ベルギー代表MFがマレズのカットインからのドンピシャのクロスをダイビングヘッドで合わせてGKティボ・クルトワの守るゴールを破った。左CBダビド・アラバを釣り出して相手最終ラインを広げつつ、マレズがカットインするスペースを生み出したベルナルド・シウバのフリーランも無視できない。ただ、仮にカセミロが起用可能であれば大外のフォーデンはバルベルデが、そして走り込むデ・ブルイネには絞ったカルバハルが対応していたことだろう。カセミロ不在の影響が回り回って間接的に表れたシーンと言える。今シーズンのマンチェスター・シティは同サイドの”ポケット”以外にも崩しの目的地がより多彩に進化しており、そのクオリティの高さが際立つ素晴らしいゴールであった。

マンチェスター・シティの先制ゴールの図解

混乱を引き起こした左サイドの流動性

……

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UEFAチャンピオンズリーグマンチェスター・シティレアル・マドリー

Profile

きのけい

本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻所属。3シーズンア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務め、2023シーズンにエリース東京FCのテクニカルコーチに就任。大学院でのサッカーをテーマにした研究活動やコーチ業の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter: @keigo_ashiki

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