横浜FM坪倉進弥ADと考える「激変するU-12の育成」(前編):シティアカデミーの4つの育成方針「Q&A」「フィードバック」「アドバイス」「ノーコーチング」とは?
デジタルネイティブへの最適解はストリートサッカー?
変化するZ世代の育成論#2
近年のバルセロナでは10代でスターダムを駆け上がったペドリ、ガビに続き、ラミン・ヤマルがクラブ史上最年少となる15歳9カ月でトップデビューを飾った。欧州の最前線では明らかに育成の「早回し化」が進んでいる。Z世代の育成論にサイエンスの視点から光を当てると同時に、「今のティーンエージャーは、集中力の持続時間がほとんどゼロに近いところまで下がっている」(アレッサンドロ・フォルミサーノ)というデジタルネイティブ世代に求められる新しい指導アプローチについても考察してみたい。
今回は、U-11のマンチェスター・シティ遠征を通して「シティアカデミーの実態」を見てきた横浜F・マリノスの坪倉進弥アカデミーダイレクターに、U-12年代のスカウティングや育成方針について聞いた。前編ではイングランドのU-11大会で感じた衝撃、そしてシティアカデミーのスカウティングや4つの育成方針について掘り下げてみたい。
U-11のシティ遠征で感じた衝撃
――昨年のU-16に続いて、今年5月に今度はU-11でマンチェスター・シティ遠征に行かれたんですよね?
「シティが開催するU-11の大会に参加いたしました。スケジュール的には7泊8日、5年生の選手が15名、スタッフが4名ですね。3月の中旬頃にインビテーションが届いて、開催が5月中旬、週末の土日を使って2日間の大会でした。マンチェスター・シティをはじめチェルシー、ユベントス、アンデルレヒト、フェイエノールトなど、トータル8チームが参加していました。いずれも育成に長けたクラブで、ヨーロッパでこのようなクラブと対戦したり、交流したりできる機会はなかなかないなと」
――マリノスは招待枠でしょうか?
「はい。招待が届いたのもU-16で遠征した時からのつながりで、うちのことを評価していただき、シティ・フットボール・グループの一員として『まずはF・マリノスを呼びたい』と言っていただきました。シティ側としても子どもたち同士の異文化の触れ合いを求めていましたし、こちら側も低年齢の時に異国に行き、同年代のいろんな国の仲間と試合をするという貴重な経験だなということで参加させてもらいました」
――ちなみに、試合結果はどういう感じだったんですか?
「試合形式は1試合25分、8チームの大会なので総当たりですね。1日目に予選リーグをやって、1位から8位まで順位を決めます。うちは8位でした(苦笑)。翌日はラウンド8ということで1位vs8位、2位vs7位みたいに順位ごとで対戦して、トータルで10試合できました。総合順位は最下位でした」
――プレミアリーグのクラブもそうですし、アンデルレヒトも育成の名門ですからね。みんなU-11の段階から強いんですね。
「多少生まれの時期の違いはありました。日本の早生まれの子は1歳以上の違いがありますし、この年代での半年、1年の差は身体的には大きいので。とはいえ、身体的なフィジカル差だけではなくサッカー的な戦術理解、技術の成熟度、試合運びやゲームコントロールでも大きな違いを感じました。
私自身もベルギーのアンデルレヒトに行っていた時期にこの年代の子たちの試合を多く見てきました。ベルギー国内はもちろん、近隣のフランスやオランダ、ドイツのチームも見てきました。それが7年前ですかね。その時と比べても低年齢での選手の成熟度合い、試合でできることの多さ・幅の広さが明らかに上がっていることを痛感しました」
――日本の子どもたちの反応はいかがでしたか?
「あまりにも点を入れられるので、心が折れかかっている時間帯や試合もありましたけど、『これだけ違うのか』という経験ができました。試合をこなす中で、時間の経過に伴って少しずつ自分たちで工夫をしたり、意識を高めたプレーも出てきたので、非常に良い経験だったと思います」
――いろんな国から育成に長けたクラブが集まるので、指導者同士で情報交換もできますよね。
「そうですね。けっこう話し合いました。特にアンデルレヒトには僕と知り合いのコーチが何名かいました。同じホテルで夜、時間を作って話をしたり、うちのスタッフも呼んで全スタッフ同士でいろいろディスカッションをしたりしました。あと試合会場でもチェルシーのスタッフやユベントスのスタッフなどが日本の子どもたち、今の日本のサッカーにすごく興味を持ってくれて、色々な質問を受けました」
10代前半のスカウティングで何を見るのか?
――前回の坪倉さんのインタビューで印象に残っているのが、マンチェスター・シティのU-21チームであるEDSの約8割がU-12からの昇格組ということでした。そこで今回はシティのU-12段階での選手スカウティング、10代前半からの育成についてぜひお話を聞きたいと思いました。
「私自身もその情報を聞いた時は本当にびっくりしました。トップチームに上がるのは数%程度ですが、8割がU-21まで上がっているのはU-12段階のスカウティングとアカデミーでの育成力の賜物だと思います。もう1つ別の視点として、U-21年代まで選手を抱えることによって、他クラブへ移籍させる際の移籍金やTC(トレーニング・コンペンセーション)の獲得も確実に狙いを持ってやっているのだと思います」
――まずはスカウティングについて聞かせてください。……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。