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フィリップ・ラーム、引退後を語る。 「しばらくはサッカーと距離を置く」

2017.12.04

現役復帰はあり得ない。1、2年の間に解説者になることもない

Interview with
PHILIPP LAHM
フィリップ・ラーム

(元バイエルン/ 元ドイツ代表)

W杯王者に輝き、CLも制覇。さらに獲得し得るすべての国内タイトルを手中に収め、惜しまれながら33歳の若さでスパイクを脱いだフィリップ・ラーム。そのキャリアの最後に、また一つ新たな勲章が加わった。ドイツサッカー界のマン・オブ・ザ・イヤー受賞を果たしたのだ。肩の荷を下ろしたレジェンドに、心境を聞いた。

走り抜いた15年間

ベストのシーズンを選ぶのは難しい

──まずは偉大な賞の獲得、おめでとうございます。キャリアを終えた直後にプレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたというのはどんな気分か、教えてもらえますか?

 「素晴らしい気分だ。これは本当に大きな賞だからもの凄くうれしいよ。個人的には、(昨季は)キャリアで最高のシーズンを過ごせたかというとちょっと疑問に感じていて、それでも受賞できたというのは、ジャーナリストのみなさんが僕のキャリアをリスペクトしてくれたのかなと思っている。こんな栄誉ある評価を受けられて、本当に喜んでいるよ」

──ではあなたのキャリアを振り返った時、どのシーズンがこの賞にふさわしいと思いますか? 3冠を達成した12-13でしょうか?

 「それを挙げるのは難しいな。キャリアのどの時期にもそれぞれに特別な想いがあるから。例えば、プロとしての最初のシーズンだって、僕にとっては本当にセンセーショナルなものだったんだ」

──バイエルンからシュツットガルトにレンタルされた03-04のことですね。

 「そう。その前は3部のセカンドチームでプレーしていた。それが突然1部で主力としてプレーするようになって、すぐにCLでマンチェスター・ユナイテッドと対戦したしチェルシーとも戦った。ニューカマーとしての1年目は、とても良いものだったんじゃないかな。それがあって、以降さらに成長し続けていろんなタイトルを獲得できたからね。そういう意味では、シュツットガルトでの1年はベストなシーズンでないことは間違いないけど、でも特別なことには変わりない。評価っていうのは常に相対的なものであって、全体を見渡して下さないといけない。だから、その中の1年だけを取り出すのは難しいね。これだけ長いキャリアの中で、ケガをはじめとしたトラブルも少なく、どのクラブでもずっとコンスタントにプレーし続けることができたのは、本当に珍しいし特別なことだと思う。こんなキャリアを歩むことができて満足しているよ」

1部とそしてCLの舞台を踏んだシュツットガルト時代(左はファン・ニステルローイ)

──仕切り直してキャリアを振り返りたいのですが、まずはカムバックの時期から話しましょうか?

 「(笑)。いや、その質問は飛ばしていいよ。現役復帰はあり得ないから。少なくとも、プロのトップレベルでプレーすることは確実にない」

──でも、この夏もボールを蹴ったんじゃないですか?

 「蹴ったよ。とはいっても、息子と自宅の庭でボールを蹴るのがほとんど。あと、僕の昔のクラブであるFTゲルンで一度だけプレーしたんだ」

──あなたは、チームスポーツであるサッカーでワールドカップやCLなど多くのトロフィーを獲得しました。その中で、今回のような個人の賞というのはどのような意味を持ちますか?

 「それは素晴らしいものだよ。僕の個人的なパフォーマンスを評価してもらって、とても名誉なことだと思っている。ただ、僕のプレーを見たことがある人なら誰でも、僕がサッカーをチームスポーツとしてプレーしていたことはわかってくれると思うんだ。あなたが質問の中で強調してくれたようにね。チームとしての成功が何よりも重要で、僕個人の成功よりも優先し続けてきた。もちろん、常に良いプレーをしたいとは思っていたよ。でも、何より大事なのはチームなんだ」

──あなたは10年以上にもわたって世界で最高レベルのパフォーマンスを見せ続け、有名にもなりました。にもかかわらず、プレーヤー・オブ・ザ・イヤーになるには長い時間がかかりました。なぜでしょうか? ポジションが関係すると思いますか?

 「ポジションの影響はあっただろうね。過去を振り返っても、攻撃的な選手がシーズンの大部分で活躍して前面に出てくることが多かったから。それは普通のことだよ。たくさんのゴールを決めたりアシストしたり、あるいはまばゆいばかりのスーパーセーブでチームを救うGKを見ればわかるように、彼らの活躍はとても目立つし、(受賞に)ふさわしいプレーをしてもいた。これまでこの賞と縁がなかったからといって、別に問題があったわけでもないしね」

──ここ数年、12-13に3冠を達成したバイエルンや14年に世界王者となったドイツ代表からプレーヤー・オブ・ザ・イヤーが選ばれています。シュバインシュタイガー、ノイアー、イェロメ・ボアテンク、そしてあなた。彼ら同世代の選手たちについて詳しく話してくれますか?

 「一人ずつ見ていこうか。シュバインシュタイガーはチームのために、常に自分を犠牲にできる献身的な選手だと言わなければならないね。そして、あなたが言った2つの成功を代表する顔の一人だ。ノイアーはもう長いこと世界最高のGKで……」

ドイツ史上初の3冠を達成した12-13シーズン

――彼はバイエルンに来る前、すでにシャルケでもプレーヤー・オブ・ザ・イヤーになっていますね。

 「……そうだったね! だから、彼にはそれを受賞する資格がある。ボアテンクは、身体的にも技術的にも信じられないほど優れているよね。3冠やワールドカップ制覇は3人抜きには語れない。彼らはこのドイツサッカーの成功に満ちた世代の象徴だ」

サッカーのない生活

信じられないほど静か。今はこの時間を堪能しているよ

──あなたもその一人ですよ。とはいえ、大きな違いもあります。彼らのサッカー人生は続いていきますが、あなたは新たな人生の船出に向けて準備を始めたところです。サッカーやバイエルンなしの時間はいかかですか?

 「信じられないほど静かだよ(笑)。この時期、徐々に高まっていく緊張感が今年は欠けているからね。新しい監督や選手がやって来るプレシーズンは緊張することが多かった。開幕戦が近づくにつれて、それが大きくなっていったんだ。とはいえ、家族のために時間を自由に使えるというのも良いものだね。今はこの静かな時間を堪能しているよ(笑)」

妻のクラウディアさん、息子のユリアン君と

──プレーヤー・オブ・ザ・イヤー受賞の報を届けた時、そんな平穏なあなたの生活の邪魔をしてしまいましたがあの時は何をしていたのでしょうか?

 「あの電話の時はちょうど、僕の財団の経営者会議の途中だったんだ。僕らは、この夏のキャンプや新しく始まる学校訪問ツアーの計画について話し合っていた。でも、邪魔になったなんてことはなかったよ。プレーヤー・オブ・ザ・イヤー受賞なんて知らせだったら、喜んで電話に出るからね(笑)」

──この知らせを受けて、周りの人たちの反応はいかがでしたか?

 「当然、最初は秘密にしていたけど、本当に喜んでくれたよ」

──そういえば、コーチ・オブ・ザ・イヤーはユリアン・ナーゲルスマンでした。とても興味深い人物ですね。あなたはこれまで偉大な監督とともに仕事をしてきましたが、彼のような新世代の監督と仕事をできなかったのは心残りですか?

 「彼は絶対的に素晴らしい才能を秘めた監督だね。今回ピッチの外で彼と知り合うことができたよ。ホッフェンハイムの試合を見たり対戦したりすれば、彼が明確なマッチプランを持っているのがよくわかる。そして、しっかりとした規律を持っていることもね。それはなんとくそうなっているんじゃなく、監督によるものなんだ。彼はポジティブな雰囲気を持っていて、うまく振る舞えるタイプだと思う。どこまで成長していくのか、本当にワクワクするよ。まだとても若いし、彼の発展を追い続けていくのも面白いだろうね。彼の下でプレーできなかったことが残念かって? 僕はほぼすべてのタイプの監督と仕事をしたと思うよ。ドイツ国内で信じられないほどの成功を収めた監督もいれば、国際的にトップレベルの監督も、若い監督もベテラン監督もいた。僕が一緒に働いた監督たちにはとても満足しているよ」

──それでは、“次”について聞きます。あなたはこの賞を受け取るまでに長い時間がかかりました。次は誰が受け取ってほしいと思いますか?

 「受賞者のリストを見ていたんだ。1960年のウーベ・ゼーラーから始まって現代までね。受賞者は、本当にもらうに値するだけの人たちがそろっている。そしてこのリストは、どんな選手たちがそれぞれの時代を築いてきたのかも示している。来年、誰がこの賞をもらうかなんて誰にもわからないよ。僕の場合は本当に例外だと思う。さっきも言ったように、僕のキャリア全体への評価だと思うから。だから、来年は単純に素晴らしいプレーをしたと評価された選手が受賞するんじゃないかな。そして、その受賞者は誰が見てもそれに値する活躍を見せているに違いないね」

第二の人生プラン

新しい分野で仕事ができることを楽しみにしている

──あなたの新しい人生は、どんなものになるのでしょうか? あれだけの成功に満ちたバイエルンでの活躍の後では、人々はいまだにあなたがバイエルンの一員であると感じているようです。今では、ファンの一人ですか?

 「そうだね、ファンだとは言えるよ」

──例えば、ハメスの加入が決まった時にあなたのスマートフォンが鳴って、他のファンたちと同じように「なんてことだ、ハメスを獲得するのか!?」なんて驚いたりといった具合に、クラブの動向を追っているのでしょうか?

 「もちろん、メディアを通じて耳には入ってくるよ。だけど、それほどアクティブに情報を集めているわけではないかな。バイエルンがわざわざ僕にメッセージを送ってくるなんてこともないしね。素晴らしいことに、ドイツではサッカーが最も人気があるスポーツだから、それぞれのクラブのニュースがどんどん届く。別にバイエルンだけを追いかけているわけじゃなくて、サッカー界全体を追っているよ。サッカーには多くのことで感謝しなきゃならないし、常に情熱をもって接してきたんだ。そう簡単に忘れることなんてできないよ。なにより、サッカーというチームスポーツが持つ基本的な考え方、共同体、協力、そしてフェアプレーの精神といったものは本当に素晴らしく、重要なものであり続けている。こうしたものは、今後も僕の財団や会社の中でも重要な位置を占め続けると思うよ」

──私たちジャーナリストは、開幕前に理想のスタメンを予想します。チームを離れた今、今季のバイエルンの理想的な11人を挙げることはできますか? 元キャプテンとして、そういったことも気になりますか?

 「僕は今まで選手として、あなたたちの反対側にいたから、開幕からシーズン終了まで特定の11人が同じように並ぶことがあり得ないことだと身をもって知っている。たくさんの選手がいて、試合数も多い。代表選手たちは9月から12月にかけて、ずっと中3日の試合が続く。シーズンが進むにつれて、重要な試合があるタイミングに合わせてその都度ベストなメンバーが決まっていくものなんだ。だからそのメンバーがうまくハマるかどうか、それがどのような顔ぶれになるかなんて、今の段階では誰にもわからないよ」

──代表チームと同様に、これからのバイエルンはあなたがいないことに慣れなければなりません。元キャプテンとして、今後の両者がどうなっていくか予想できますか?

 「この2つはドイツのスポーツ界の中でも非常に大きな組織で、どちらも経済的にしっかりしている。もちろん、ドイツのサッカー界自体のインフラも素晴らしい。最新の設備がそろえられたスタジアムは満員で、クラブの育成機関も充実している。こうした点を考えると、今後も素晴らしい時代が続くと思うよ。バイエルンは常に投資できる状態になる。国内には、長期的に見て同じ規模で競争できるクラブはない。時には他のクラブがリーグ優勝することはあり得るだろうけど、長期にわたってトップレベルでプレーし続けられるのはバイエルンだけだ。バイエルンは、ドイツでも別次元のリーグでプレーしているようなものだからね」

──代表チームはタイトルホルダーです。

 「それはつまり連盟をはじめ、各クラブが素晴らしいシステムを構築しているということ。まだ寮にいるような育成カテゴリーの若い選手たちも、各年代の国際大会で優勝を争えるだけの才能を備えているしね」

ブラジルの地で悲願のW杯制覇。この一戦を最後にひと足早く代表から退いた

──新シーズン、アリアンツ・アレナであなたを見かけることはできますか?

 「(サッカーとは)少し距離を置くってずっと言ってきたからね。ホームゲームでスタジアムに足を運ぶのは、今はちょっと考えられないかな。それがいつになるのかは様子を見てみないとね。少なくとも、シーズン初めのうちは間違いなくスタジアムにはいないよ」

──なぜそれほどまでに距離を取るのですか?

 「単純に、もう毎週行く必要がなくなったからだよ。今までは、幸運にも毎週スタジアムにいられたからね。若い頃はボールボーイとして、プロになってからはピッチ上、ベンチ、あるいはスタンドにも入れた。本当に毎週あそこにいたんだ。だから今は、とにかく家にいることを楽しみたい。家族が土曜日にどんな過ごし方をしているのか、僕はまったく知らなかったんだから。それにサッカーとはまったく関係ない、新しい分野で仕事ができることを楽しみにしているんだ。長いキャリアの後では、こうやって視点を変えてみることも重要だと思うから。でも、こうやって距離を置いた状態がどれだけ続くのか、いつまたスタジアムに行きたくなってしまうのか、ハラハラしている自分もいるんだけどね(笑)」

──イェンス・イェレミースのように、スタジアムのVIPボックスを買うこともできますよね。そうすれば、元選手では2人目の購入者になりますよ。

 「そうだね。彼の席で(試合を)見たことがあるんだけど、上からの眺めは素晴らしかったよ」

──スタジアムでないとすれば、解説者としてTV画面越しに見るというのはありますか?

 「まずは落ち着いた生活がしたい、家族のためにもっと時間を割きたいんだ。公の場に姿を現す時間も減らしたいから、この1、2年の間に解説者になることもないよ。サッカーから距離を置くのが正解だって確信しているんだ。その後でどうなるか見てみよう。いずれにせよ、もう少し時間が経ってからの話だよ」

──ただ、最後にどうしても「開かれている扉」のことは聞いておかなければなりません。スポーツディレクター、あるいはスポーツマネージャーについてです。ウリ・ヘーネス会長はあなたのための「ドアは常に開かれている」と言っていましたね。あなたの側からも、その可能性は開かれていますか?

 「オープンなのは僕の将来だよ。サッカー以外のことをやりたいし、実際にそうする。この考えは変わらないよ。まだ若いうちに多くのことを試すことができて、新しいことに触れられるのは素晴らしいね。でも、これも常に言い続けていることだけど、僕はいつまでもバイエルンと繋がっているつもりだよ。1995年からバイエルンに所属して、こんなに多くの年月を過ごしたんだから。それでも、現時点ではクラブへの復帰はテーマにならない。将来どうなるかわからないけど、今のところ僕の仕事はバイエルンとは関係ないところで動いているからね」

■プロフィール
Philipp LAHM
フィリップ・ラーム

(元バイエルン/元ドイツ代表)
1983.11.11(34歳)GERMANY

PLAYING CAREER
2002-03 Bayern
2003-05 Stuttgart on loan
2005-17 Bayern

ミュンヘン出身で、地元の名門バイエルンには12歳の時に加入した。セカンドチーム(3部)で2季プレーした後、レンタルされたシュツットガルトでブンデス1部デビュー。すぐさまレギュラーを奪うだけにとどまらず、04年にはドイツ代表に選出されEURO2004では全試合に出場した。05年の復帰以降はバイエルン一筋。クラブレベルでは12シーズンで8度のブンデス制覇をはじめ、3冠を達成した12-13のCLなど国内外で21タイトルを獲得。代表でも2014年にW杯優勝を成し遂げた。SBとして磨いた走力と、グアルディオラ監督時代の中盤コンバートにも難なく適応してみせた技術とインテリジェンス、さらにクラブ、代表の両方で主将を務めた求心力を兼備。パフォーマンスの衰えは見られなかったが、16-17を最後に現役生活に別れを告げた。現在は07年に設立した「フィリップ・ラーム財団」の活動に力を入れている。

Interview: Jean Julian Beer
Translation: Tatsuro Suzuki
Photos: Bongarts/Getty Images

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1920年創刊。週2回、月曜日と木曜日に発行される。総合スポーツ誌ではあるが誌面の大半をサッカーに割き、1部だけでなく下部リーグまで充実した情報を届ける。

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