30年前のファン・ハール発言を想起させるエル・クラシコ。スターシステムの等価交換の原則とは?

新・戦術リストランテ VOL.64
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第64回は、バルセロナ対レアル・マドリーのエル・クラシコを見て感じたスターシステムの等価交換の原則=「守備をしないスター」を使うには「ハードワークのスター」を揃えなければならない、という進化する現代サッカーのジレンマについて考えてみたい。
「ロベルト・バッジョやロマーリオは大嫌い」の意味
コパ・デルレイ決勝、バルセロナ対レアル・マドリーは延長の末に3-2という激戦でした。決勝点は116分のクンデの地を這うようなミドルシュート。
前半はバルセロナが圧倒、1-0とリードしますが、後半にムバッペを投入したレアル・マドリーが盛り返して1-2と逆転。しかしバルセロナは同点に追いついて延長突入。両者譲らずのクラシコらしい展開でした。
どちらも現代を代表するスター選手が並んでいます。バルセロナにはヤマル、ラフィーニャ、ペドリ。レアル・マドリーはビニシウス、ロドリゴ、ベリンガム、そして後半から登場のムバッペ。スペインの両雄らしいアタッカーを擁しています。
バルセロナとレアル・マドリーは世界最高クラスのアタッカーを獲得して並べる手法を1950年代から始めています。1990年代にボスマン判決以降、クラブチームの多国籍化が進んでいった中でも先頭を走ってきました。
この「スターシステム」は賛否あったのですが、それの筆頭であるレアル・マドリーの戦績を見る限り、勝利を求めるなら否定できないものがあるわけです。
急速な多国籍化が始まる直前、欧州サッカーの頂点にいたのはアヤックスでした。ファン・ハール監督に率いられた「マイティ・アヤックス」にはロナルド&フランクのデブール兄弟、ブリント、セードルフ、ダービッツなど下部組織の出身者で構成されていました。3人の外国人枠はフィンランド人のリトマネン、ナイジェリア人のフィニディ・ジョージ、同じくカヌといった当初は無名のアタッカーで、実力者揃いながら特別なスターはいないチームでした。
当時、インタビューに答えてファン・ハール監督が「ロベルト・バッジョやロマーリオは大嫌いだ」と言っていたのが印象的です。
1994年W杯で決勝を戦ったバッジョとロマーリオはイタリアとブラジルのエースです。図抜けたテクニックと得点力の大スター。この2人を名指しで「大嫌い」と言っていたのは、ファン・ハール監督がスターシステムに否定的だったからです。
アヤックスは個人に依存しすぎないプレースタイルで成功を収めましたが、その後の多国籍化の流れの中で選手を引き抜かれる立場となって頂点から転落します。一方、スターシステムは加速してイングランド、スペインのビッグクラブが強大化していきました。
しかし、このところスターシステムの弊害が目立ち始めているように感じます。スター揃いのエル・クラシコをその観点から振り返ってみます。
「守備をしないスター」のプラスとマイナス
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。