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なぜJリーガーではなく、YouTuberが選ばれる?前FC琉球社長・三上昴の提言

2021.11.04

三上昴 (前FC琉球代表取締役社長) インタビュー後編

ゴールドマン・サックス出身でJリーグ史上最年少の31歳でFC琉球の社長に就任、現在はそこでの経験をもとにクラブ経営の外部コンサルを行っている三上昴のTwitterが面白い。Jリーグ、そして日本のスポーツ界への斬新な提言を続ける男にツイートの背後にある真意を語ってもらった。

後編では、「Jリーガーからサッカー系のYouTuberへスパイクの提供先が変わっている」「ホームタウンの概念が定義的に変わったとしても、地域に対しての覚悟が変わらなければ何も問題はない」といったJリーグへの問題提起の意図を聞いた。

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表現者としての価値は「YouTuber>Jリーガー」

――FC琉球を辞めた後は、HUMAN DEVELOPMENT ACADEMYという活動を行っていますよね。それについて教えていただいてもよろしいでしょうか?

 「業務としては、主にクラブ経営のコンサルティングです。沖縄での経験を通して地域のアイデンティティを表現していくことの魅力を教えてもらったので、今も声をかけていただいたクラブと一緒にいろんなものを作るお手伝いをしています。そういう取り組みをしながら、僕自身もいろいろな経験から学びや知見を蓄えています。ただ、クラブコンサルは外部として関わる立場なので、いつかはリスクを冒して自分たちの考えを表現したいという思いはありますね。今はいち表現者として、日本サッカーに少しでも役立つことができればと考えています」

――その表現者として、三上さんのツイートが非常に面白いなと感じています。ここからは具体的なツイートを拝見しつつ、それを掘り下げていきたいと思います。1つ目が、非常に話題になったこちらのツイートについて、改めてお聞きしてもよろしいでしょうか?

 「なぜ一部のJリーガーたちがスパイク提供を打ち切られているのかを考えた時に、YouTuberの方が再生回数や登録者数がわかりやすいとか、費用対効果がいいというコメントが結構あったんですけど、僕は違う意見を持っています。YouTuberたちを見ていて、彼らはサッカーを通して何を表現したいかがはっきりしているんです。

 僕の沖縄の社会人サッカーのチームメイトに、REGATEドリブル塾というYouTuberのお二人がいます。彼らはチャンネルの登録者数は25万人くらいいて、実際にadidasの案件などをスパイク提供を受ける形でやっているんです。彼らはプロの選手でもなんでもないし、サッカーの技術だってプロと比べれば程遠いものでしょう。だけど、『サッカーを子供たちに楽しんでほしい』という思いがめちゃくちゃ強いんです。確かに自分たちはサッカーをやる上でチャレンジして苦労したけど、子供たちにはサッカーの楽しさだけは忘れないでほしい。そしてドリブルがそのきっかけになればいいという思いで、YouTubeとスクールをやっているんです。そうした活動の動機が見る側にもきちんと伝わっているから、表現者として世の中に認められていると感じます」

adidas協力の下、REGATEドリブル塾と名波浩氏(現・松本山雅監督)がコラボした動画

――再生回数や費用対効果のような表層的なこと以前に、自分たちが何をしたいのか、社会に対して何を訴えたいのかといった表現者としての根本の部分が見られる時代になってきていますよね。

 「そうですね。一方でプロとしてサッカーをしているJリーガーたちは、サッカーで何を表現しているのかという部分についてあまり考えることがないんじゃないでしょうか。プロ選手って、サッカーがうまいからクラブからオファーが来て、そこでプレーして別のところからオファーがあたら移籍するという生活です。だから、彼らはサッカーで何を表現したくてピッチに立っているのか? サッカーを通して何を伝えたいと考えているのか? このような問いかけに対して、おそらく無意識的には『自分のため』という答えが出てくる選手が多いように感じます。でも、社会人として自分のためにサッカーをしている人はお金をもらえないんですよ、普通。サッカーをすることが社会的価値になって経済的価値に繋がって、そこで初めてお金がもらえる。そこにまだなんとなく気づいてないのかな、と感じます。だからスポンサーのイベント参加もめんどくさいと言ってしまう。実際は自分のプレーをお金に変えてくれる事業部のスタッフがいて、経済的価値があると評価してくれるスポンサーの方がいる。だけど選手自身がまだ、自分の何が評価されてお金になっているのかという部分の意識がすごく低いです。

 逆にYouTuberが表現者として豊かなのは、価値を自分で生み出し発信していく術がないとお金にならない状態が常に隣り合わせだからです。結果として、彼らの表現したいものやその価値が世間に認められて、たくさんの登録者数やスパイク提供に繋がっています。引退したサッカー界のレジェンドたちにしても知名度だけで勝負していたら、たぶん登録者数は2~3万人あたりが限界なんじゃないでしょうか。社会に対して何を表現したいのかを出せるかどうかが違いになってくると思います。そういう点では、内田篤人さんや中村憲剛さんは自分の表現があって、感情と伝えたいことがちゃんとある人だと感じます。だからポジションを取っていけるし、多くの人に受け入れられているのかなと」

セカンドキャリア問題の本質とは?

――中村憲剛さんは現役の時から川崎の人を笑顔にしたいという思いでずっと活動してきたからこそ彼を支えてきた人がいるし、彼の行動をポジティブに見ている人が川崎の外にも多いように感じます。

 「レジェンドの人たちは日本サッカーを背負ってきた存在です。W杯にまだ出たことがない時代や、そもそもプロ自体がなかった時代に未知の世界を切り開いてきた。みんなはそのストーリーに共感したり感動してきたんですよね。でも、これからは別の何かが必要です。単に日本サッカーに貢献したいではなく、どう貢献するのかを突き詰めなければなりません。そこが空白で、ただサッカー界でいいポジションを得たいという『自分のため』に見られてしまうと厳しいです。例えば、中田英寿さんみたいな誰もやっていなかったことを突き詰められる人は、どんどん高みまで行っちゃうわけじゃないですか。ああいう人が少ないのは、たぶん意図的に社会に対して自分の考えを発信していくのをやってこなかったからでしょうね」

――確かに、日本文化の魅力を国内外に発信している中田さんは活動のテーマが非常にはっきりしていますよね。

 「だから彼は表現者としてずっと君臨しているんだろうな、と思います。今だったら大坂なおみさんは、スポーツ選手以上の表現者としてのポジションにいるわけじゃないですか。だから、世界中のスポンサーがそれを評価して集まってきている。Jリーグでもその問いかけが必要なんだと思います。今のままだと、なぜサッカーをしているのか? なぜJリーガーとしてプレーしているのか? という問いを突きつけられた時に、きちんとした答えが出てくる選手が少ないんじゃないかなと」

「スポーツ界のアカデミー賞」と称されるローレウス世界スポーツ賞で、2021年の年間最優秀女子選手賞を受賞しているプロテニス選手の大坂なおみ

――ただ日本では、大坂なおみさんに対する反応もそうですけど、スポーツ選手が表現者になることを良しとしない世論があります。そこがまた状況を難しくしていますよね。……

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Jリーグ文化経営

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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