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“なでしこ”たちはなぜイングランドへ?WSLに13人、求められる日本人の「フットボール・インテリジェンス」

2025.03.10

プレミアリーグでプレーする男子5人に対し、今や世界最強の女子リーグとも言われるウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)では12チーム中8チームに計13人が在籍。観客動員数や放映権料、移籍市場の活況やファンの要求度まで、ますます右肩上がりのイングランド女子サッカー界において、日本勢が存在感を増している。その背景にリーグ、クラブ、選手それぞれの視点から迫ってみたい。

1992年プレミア誕生とも比較される興隆。熊谷はなぜ2部へ?

 今季のウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)には、日本女子代表選手が13人。春から秋にかけて花を咲かせるのがナデシコなら、サッカー界の「なでしこ」は、イングランド女子1部のピッチ上で、その凛とした姿がシーズンを通して見られる状態だ。 

 総じて、外国人即戦力が増えている中での現象ではある。WSLが、ほぼ英国人一色の世界だったのは、2011年初開催当時のような、ひと昔の話だ。今季は、完全なプロリーグとなってからも8シーズン目。去る3月5日の第16節チェルシー・ウィメン対レスター・シティ・ウィメンなどは、フランス人新監督同士の対決でもあった。ピッチに立った両軍合わせて31人には、「なでしこジャパン」のメンバー3人を含む、計10カ国17人の非英国人選手がいた。

なでしこジャパンの2025シービリーブスカップ(2月20〜26日)優勝を祝福するWSL公式Instagramの投稿。この11人(熊谷は2部クラブに所属)に加え、清家貴子(ブライトン・ウィメン)、清水梨沙、大山愛笑(ともにマンチェスター・シティ・ウィメン)が現在イングランドでプレーしている

 国際化をもたらしている第一の理由は、この国における女子サッカー全体の興隆だ。イングランド代表による女子EURO2022優勝と、続く2023年女子W杯での決勝進出が強力な追い風を生んだ。監査を担当するデロイト社の発表によれば、WSLは2022-23シーズンに前年比5割増の収益を上げている。

 大会スポンサーは、英国の大手金融グループ『バークレイズ』。現行契約下のスポンサー料は年間1500万ポンド(約28.5億円)に上る。『BBC』と『スカイスポーツ』からのテレビ放映権収入も、年間約730万ポンド(14億円弱)。両局による中継対象外となるリーグ戦は、今季からYouTubeの専用チャンネルでストリーミング配信されてもいる。

 スタジアムの観衆規模も増大中だ。女子サッカーが、国内でラグビーやモーターレースをしのぐ集客力を持つと報じられた昨季には、WSLとウィメンズ・チャンピオンシップ(2部)を合わせた観客動員総数が100万人を超えた。同シーズンのトップリーグは、1試合当たりの観客数が全12チーム平均で、前シーズンの約5500人から7400人に。今季は平均9000人台への到達が見込まれる。国内リーグの上位2層が、所属クラブで構成される独立団体によって運営されるようになってもいることから、その勢いが、男子サッカー界における1992年のプレミアリーグ誕生と比較されるのもうなずける。

 だからこそ、女子のチャンピオンシップにも、韓国生まれのアメリカ人女性オーナーが買収したロンドン・シティ・ライオネスのように、「WSL最強」への成り上がりを目指すクラブが現れる。そして、熊谷紗希のようなワールドクラスも加入を請われる。今冬の移籍先でホームデビューを果たした2月16日、女子代表キャプテンは、34歳での決断を次のように話していた。

 「1つ上のリーグからのオファーもあったりはしたんですけど、このクラブが本当に1部に上がるために必要としてくれた。そういった気持ちをすごく感じたので。1チームしか上がれない昇格レースのやりがいっていうのは感じたいし、こういうクラブだからこそ、本当に上がったら絶対に人は集まってくると思う」

フランクフルト、リヨン、バイエルン、ローマを経て、今年1月にロンドンを新天地に選んだDF熊谷

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山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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