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「あのゲームは何回も見直した」 2024年J1昇格PO敗退の分析と2025年の展望【山形・渡邉晋監督インタビュー後編】

2025.02.14

昨季のモンテディオ山形は序盤戦こそつまづいたが徐々に巻き返し、シーズン終盤には怒涛の9連勝でJ1昇格プレーオフ進出を掴んだ。だが3週間ほどの中断を経て迎えたプレーオフではファジアーノ岡山に0-3で敗退。敗退した理由やゲーム分析から今季の戦いに活かせる考えとは何か。前編から続く渡邉晋監督へのインタビューを通じ、後編では今季の戦いぶりを展望する。

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プレーオフ岡山戦はなぜあのような事態に陥ったのか?

――色々な要因があって序盤につまづき、色々な改善と補強を経て、後半戦はチームがフィットして勢いに乗りました。ただ、9連勝というクラブ記録を打ち立てた後のプレーオフでは、岡山に0-3で敗れてしまったわけですが、そろそろこの話を。プレーオフは全体的にハイプレスがキーワードになりましたが、あの岡山戦をどう振り返りますか?

 「いや、起こり得る事態ですよね。ハイプレスが得意な岡山と、それを外して出て行こうとする山形の構図で、どちらが上回るか。ボールを奪われてしまえば、ああいう結果になるし、一つ二つ外しさえすれば、違う結果になったと思います。

 なぜそういう結果になったかというと、リーグ最終戦から3週間も空いて、勢いが削がれたでしょ? と言われるんですけど、それはお互い様だから。僕はそこまで感じてはいなかったです。ただまあ、やっぱり、硬かった(苦笑)」

――硬かった?

 「本来は4位で終えて、史上初となるホームでプレーオフを戦える山形が、地の利を活かせるという状況でしたけど、いつものホームスタジアムとは、ちょっと空気感が違いました。僕は一発勝負とは言っても、本当に緊張して硬くなるのはプレーオフの決勝だろうと思っていたので、ホームの準決勝はこれまで通り、一戦必勝の目の前のゲーム。そう言い続けてきたので、その続きですよ、というアプローチをしてきました。でもまあ、硬かったですね。ロッカーを出て行くときの表情が、本当に強張っていて、『今こうなってしまったか……』というのは、本当に最大の誤算、いや、誤算なんて言葉では言い表せないんだけど、それくらいの難しさがありました。そうなると、やっぱりボールを持っているほうが不利になっちゃうじゃないですか。

 一般的にサッカーにおける一番わかりやすいミスって、ボールを失うことですよね。もちろん、ポジショニングのミスとか、守備のミスがあって裏を取られたりすることもあるけど、一般的にサッカーにおけるミスと言えば、ボールを取られることをイメージすると思うんです。まさにそれが起きやすいメンタル状態と、スタジアム全体の空気感になってしまった。もちろん、岡山さんの勢いも素晴らしかったけど、ミスを誘う側からすると格好のシチュエーションになっていたんだろうと思います」

――なるほど。確かにハイプレス側も寄せ方とかポジショニングとか、戦術的なミスをするけど、それは一部の人にしかわからないし、ピッチ上でも全員はわかっていないかもしれない。そうなると、スタジアムの空気を変えるまでには至らないですよね。でもボールを奪われたときの技術的なミスって、スタジアムにいる全員に見えてしまうから空気も変わるし、それが選手に伝染して、感情が不安になるのは理解できます。ただ、そうやってミスを恐れ始めると、やろうとしたことがうまくいかなくなってしまう。

 「そう。本当に仰るとおり。まさに恐れです。それが連鎖してしまうと、とんでもない事態になってしまいます」

――みんながわかるから、連鎖もしやすい。ボールと共にプレーする攻撃的なチームにとっては、難しい要素ですね。

 「岡山さんのプレスの強さはあったけど、我々にはそれを外してやろうという明確な準備があったので、それを出せなかった一番の要因はメンタルだったと思っています。我々も色々な対策をして、ひっくり返す準備もして、実際に手応えもあったので、その準備に関して、もっとこうしておけば良かったというのはあまりないです。唯一、メンタルの部分で、決勝よりも一つ早く、この硬さが来るのなら、もう今までの一戦必勝とは違うぞ、と。もっと過緊張になることを想定させる準備が、チーム全体にとって必要だったのかなと。そこは僕のマネジメントの力不足と、今は解釈しています」

奇策を打つことも考えたがそれでは「つまらない」

――岡山も勝つしかないので、前半の最初からとんでもないハイプレスを仕掛けてきましたね。普段のリーグ戦なら、あんな入り方で、あんなにも続けない、というようなエネルギーの使い方をするのが、まさにプレーオフだなと思いましたが、それは完全に想定内ですか?

 「もちろんです。岡山さんのエンジンのかかり方、勝たなきゃいけない状況は、逆に一昨年までの僕らのプレーオフと同じ状況ですから。我々も6位や5位で出場していたので、充分理解していたし、我々としてはその相手の勢いを利用するだけ。来てくれるんだったら、ひっくり返そうと。メンタルと戦術的な準備については、相手を想定してやっていたところです。

 もちろん、一発勝負だから何が起きるかはわからなくて、実際に蓋を開けてみれば、『これちょっとまずいぞ』という事態が起きたとき、他に何ができるかと言えば、たとえば僕が、『もう岡山にボール渡せ』と、ビルドアップを捨てる」

――おお。

 「逆に俺たちがプレスかけようぜ、というふうにしたら、おそらく相手も泡を食っただろうし、一発勝負にかける山形が奇策を打った、ということでひっくり返す可能性はあったと思います。もちろん、それは僕の頭にもよぎった。戦前にね。

 ハイプレスをしたいチームが何をしたいかと言うと、相手にボールを持ってほしい。でも逆にボールを渡されてしまったら、どうするんだろう、というのは、僕も監督が長いので実際に何回かはJリーグでやったことがあります。

 でも……ね。つまんないですよね(笑)」

――(爆笑)。

 「つまんない(笑)」

――そりゃもう、突っ込んでくる相手をかわして裏取って、点を取るのに比べたら、全然つまんないです(笑)。

 「戦略としてはきっと出せたんだろうけど、それをもし本当にやるとしたら、プレーオフ決勝。最後の決勝では可能性があったかもしれないけど、準決勝のところでは……。頭の片隅にはあったけど、とてもじゃないけど、その引き出しを開ける気にはならなかった」

――なるほど。まあ山形が先制して、試合の流れとして自然とそうなって行けば、一番良いんでしょうけど。

 「そうですね。ほんとそう」

――実際にプレーオフ決勝は、岡山と仙台が戦ったけど、どちらも似たハイプレスチームで、岡山が先制したら、仙台がボールを持たされて追い込まれて行きましたから。先制点は大きいですね。あと、それ以外では試合中のアクシデントも非常に大きかったのでは? 山形はピンチもあったけど、前半30分くらいまでは無失点で耐えていたし、その後に2失点したけど、追いつけばOKのレギュレーションを考えると、後半に岡山の疲労が濃くなる中で、山形が勝利を得る流れも充分あり得たと思います。しかし、ディサロ選手が負傷したり、イサカ・ゼイン選手もハーフタイムで負傷交代したり、後半は川井歩選手の一発退場もあった。痛かったですね。

 「そもそも前半に連続失点で0-2にされたところですけど、シーズン序盤はセットプレーの守備がすごく脆弱で、たくさん失点していたところからオーガナイズも微調整し、最後の連勝中はセットプレーの失点は無しで来ていたんですよね。逆に僕らがセットプレーで点を取り、ゲームを優位に進める試合が多かった。そこに自信があった中で、連続失点の2失点目がセットプレーでやられてしまって、そこで我々が持っていた自信が少しずつ失われていく感覚があったのは事実だと思います。我々のチームに負傷者が連続し、流れが岡山さんに持っていかれる状況になってしまった。もちろん退場の行為は猛省しなければいけないですが、実は我々はJ2でフェアプレー賞を頂いているんですよ。反則ポイントはJ2で一番少なく、クリーンだった。数字上はね。そこは本当に誇りにしていいチームだったにもかかわらず、あの状況で起きてしまったというのは、選手にも色々なプレッシャーがかかっていたし、バタバタせざるを得ない状況になってしまったと思います」

――プレーオフに関しては、そういうメンタリティーの部分を踏まえて次に生かすべく、反省含みで捉えているんですか?

 「いや、もうプレーオフはやらないですよ(笑)」

――ストレートイン。

 「はい。もうそれに越したことはないです」

プレーオフの戦いは何度も見直して整理した

――間違いないです(笑)。目標は明確に自動昇格と見据えた中で、今年のキャンプはどんな考え方で臨んでいるんですか?

 「まずはプレーオフの岡山戦をしっかりと分析し、そこから何を紐解くか。それが2025年の自分たちの勝ち点につながると思ったので、あのゲームを何回も見直して、ああいうハイプレスを上回るためにはどうすればいいか、徹底的に整理しました。……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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