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ウルティモ・ウオモ戦術用語辞典#6「ダイアゴナル」

2018.02.16

基本的用語から新語まで。現代サッカーの戦術的キーワードを総ざらい

イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』がモダンサッカーで誕生した新用語を解説する人気連載コーナー。戦術をめぐる議論においては、バーティカルな(縦方向への)プレー、ホリゾンタルな(横方向への)プレー、という言い方がしばしば使われる。しかし、ダイアゴナルな(斜め方向への)プレーもまたそれらと変わらぬ重要性を持っている。

 ボールを斜め方向に動かすことを指す「ダイアゴナル」という概念は、イタリアサッカーではまだほとんど知られていない。それは、縦方向、横方向に動かすのとは明確に異なる意味を持つ。ドイツではしばしば話題になり、特にトーマス・トゥヘル(前ドルトムント監督)はこのコンセプトに繰り返し言及してきた。しかしイタリアにおける戦術論議では、ほとんど話題に上ることがない。以下、ダイアゴナルなドリブルとパスについて、それが攻撃側にもたらすメリットという観点から掘り下げてみよう。

斜め方向へのパス
Passare diagonale

 トゥヘルは、マインツを指揮していた当時あるカンファレンスで、彼のサッカー観にとって「ダイアゴナル」という概念がいかに重要かを次のように説明している。

 「私がマインツに着任した時、チームは常にサイドから縦方向のパスを使って攻撃しようとしていた。しかし私にとっては、これは絶対に避けるべきやり方だった。我われの狙いはむしろ、相手にサイドでグラウンダーの縦パスを使って攻撃を組み立てるよう強いることにある。それがプレッシングを仕掛ける絶好の状況だからだ。サイドでグラウンダーの縦パスを使うというのは最も簡単なやり方だが、常に斜め方向にグラウンダーのパスを繋いでアタッキングサードまで攻め込むやり方を身につけるのと比べると、ずっと効果が低い。これは今も、私のチームにとって非常に重要な原則だ」

 トゥヘルのサッカーにおける「ダイアゴナル」の重要性を理解するためには、一見すると非常にありふれた質問を出発点にする必要がある。「パスは何の役に立つのか?」。それは、得点の可能性をより高めるため、すなわちより「敵のゴールに近づく」ためだ。これは、より「ゴールラインに近づく」こととは明らかに異なっている。守備においては、敵の攻撃をできるだけサイドに誘導しようとする戦略が一般的だ。これは、サイドに追い込まれた攻撃側は、統計上最も効率の悪い武器の一つであるクロスを使わざるを得なくなるためだ。一方「敵のゴールに近づく」というのは、中央の深いゾーンに接近することを意味する。そこには縦パス、横パス、そしてダイアゴナルパスのいずれによっても到達することが可能だ。この3タイプのパスには、それぞれの長所と短所がある。そしてその中で「ダイアゴナル」がとりわけ興味深いのは、縦へのプレーと横へのプレーの長所を「いいとこ取り」できるからだ。

 最初のポイントはパスの角度だ。裏のスペースに送り込まれる場合を除き、縦パスの受け手は敵ゴールに背を向けることになる。これは、パスを受けた選手が敵ゴールに向かってプレーを続けるためにはターンして前を向くか、あるいは一度よりいいポジションにいる味方にパスを戻さなければならないということだ。ゴールに背を向けている以上、背後で何が起こっているか、敵味方がどう配置されているかを把握するのは難しい。

 縦パスが前進するために役立つことは確かだ。マルコ・ジャンパオロ(現サンプドリア監督)が率いるチームや、パウロ・ソウザ1年目のフィオレンティーナは、素早くボールを縦に展開し、それをダイレクトで後ろに戻す「2歩進んで1歩下がる」プレーの有効性を示す好例だ。しかしそれよりも斜めのパスの方が、角度的に有利だ。受け手は前方への視野をより確保しやすく、ターンも角度が小さくて済むため速い。そのためより多くの選択肢を手にしてスピーディーに攻撃を展開することができる。

 ダイアゴナルパスはゴールに向かって、つまりサイドから中央に送ることも、逆にゴールから離れる方向に送ることもできる。前者がより効果的であることは明らかだ。とりわけボールがサイドにある時には、ダイアゴナルパスで中央に戻すことが重要になる。それは、よりゴールに近づけるというだけでなく、中央のゾーンはよりゲームをコントロールしやすく、ピッチ上の他のゾーンへの展開もたやすいからだ。一方、サイドでのプレーは常にタッチラインによって制約を受ける。

 後方からのビルドアップにおいては、中央からサイドへのパスも有効だ。ビルドアップの狙いは、中央のゾーンを支配することにある。いったん外に開いてサイドを使うのも、そこに到達する効果的な手段になり得る。サイドからの方が中央へと前進するのは簡単だからだ。いったんサイドに展開すれば、敵もそちらに向かって移動することになる。その動きの半ばでサイドから中央にダイアゴナルパスが送られると、それに反応するのは簡単ではない。

 縦パスは敵陣の高い位置に進出する上で大きなアドバンテージを持っている。それに対して横パスはよりスペースを得やすいゾーンにボールを動かすことを可能にする。ダイアゴナルパスはこの2つの特徴を同時に生かすことができる。敵陣の高い位置に進出しつつ、しかもプレーゾーンを横にずらすわけだ。それに対応する相手は、ボールを基準としてポジションを修正するためにより多くの移動量とエネルギー消費を強いられる。

 縦パスの欠点は、同じ縦レーンの中で、すなわち敵の密度が高くスペースが少ないゾーンでボールを動かすところにある。このゾーンに対して守備側は大きな注意を払っており、また多くの場合、敵味方の距離もより近い。通常ドリブルで敵をかわした後にはサイドを変える必要が生じることが多いが、その場合もダイアゴナルパスを使えばさらに前進できるので、横パスよりも有効だ。

ダイアゴナルを重要視しているトーマス・トゥヘル。09-10から5シーズン指揮したマインツでは、10-11にクラブを史上最高となる5位に躍進させた

 トゥヘルがサイドでのグラウンダーの縦パスを嫌う理由もそこにある。簡単だが効果が薄いソリューションなのだ。縦方向のプレーも中央のゾーンならば意味がある。しかしこちらは難易度がぐっと高くなる。ピッチ上で最も重要なゾーンである中央で陣地を稼ぐためには、サイドやハーフスペースからのダイアゴナルパスを使う方が難易度が低い。その理由は簡単だ。ボールが中央にあれば敵もそこに集まる。ボールがサイドやハーフスペースにある時には中央の密度は相対的に下がる。理由はもう一つある。ピッチの形、そしてオフサイドルールによって、守備側は水平方向に布陣することを強いられている。そこから縦あるいは横方向にブロックを移動させるわけだが、そこでDFかMFがラインから飛び出してボールホルダーに寄せる時には、多くの場合 ――特に重心を下げて守る[4-1-4-1]などのシステムにおいては―― 正面からアプローチすることになる。それによって縦パスのコースは切れるが、斜めのパスコースは空くことになる。

斜め方向へのドリブル
Dribblare in diagonale

 ダイアゴナルパスがもたらすアドバンテージの多くは、ドリブルにおいても同じように当てはまる。斜め方向にドリブルすることで、多くの状況において敵ゴールに近づくか、そうでなくともボールを中央のゾーンに持ち込むことができる。この場合も、縦方向のプレーと横方向のプレー、それぞれのメリットを「いいとこ取り」することが可能だ。守備側は後退するだけでなく横方向にも陣形を整え直すことを強いられる。

 縦方向へのドリブルは陣地を大きく稼ぐことが可能だが、プレーの難易度は高い。横方向へのドリブルは個のレベルではより簡単で(周囲と連係することは難しいが)、いくつかの興味深いアドバンテージをもたらす。敵を直接抜くことはできないが、ボールをライン間のスペースを活用する上で有利なゾーンに運ぶことができる。

 縦方向へのドリブルはボールが同じレーン上にとどまるため、守備側からすれば誰が前に出てボールに寄せるかはほぼ自動的に決まる。しかし斜め方向へのドリブルは異なるレーンにまたがるため、守備側に自分が飛び出すべきかどうかという迷いを作り出す。守備者はラインを崩して自分のポジションを離れることを強いられ、しかもどれだけの間そうしなければならないかはわからない。

ダイアゴナルなドリブルに対処する守備側の困難

 左の2つの図は、ダイアゴナルなドリブルが作り出す困難を示すものだ。ボールに最も近いDFが飛び出す場合、タイミングが遅れて簡単に抜かれるケースが少なくない。遠い方のDFがドリブルのコースを遮るために飛び出せば、その背後に絶好のパスコースを与えることになる。

 ボールホルダーが敵の動きと反対方向にドリブルを始めれば、このアドバンテージがさらに増幅される。ウイングがサイドチェンジのパスを受けた時に、守備側はその方向に動きながらポジションを修正しなければならない。その動きの最中に斜め方向にドリブルを仕掛けられた時、それに対応して効果的にプレッシャーをかけることは極めて難しい。縦方向のスペースを閉じようとする動きの逆を突くドリブルに、素早い方向転換で対応しなければならないからだ。

 サイドから中央へのダイアゴナルなドリブルは、開いたポジションからの広い視野を生かして、敵最終ラインと中盤の間にスペースを作り出すことにも役立つ。もう一つの例は、SBによる斜めのドリブル。ブルーノ・ペレス(ローマ)、マリオ・ルイ(ナポリ)、ポル・リロラ(サッスオーロ)といったスペシャリストの得意技だ。通常SBはそのポジションの特性上、サイドに開いたポジションを保ちタッチラインに沿ったレールの上を往復する直線的なプレースタイルを持つ。それゆえ、ダイアゴナルなドリブルは守備側の対応を混乱させる意外性を持っており、攻撃側に新たな複数の選択肢を作り出す。

 ダイアゴナルというコンセプトは、ドリブルとパス以外にも異なる状況に適用することができる。オフ・ザ・ボールの動きやクロスはその一例だ。いずれにしても、基本的な考え方は常に変わらない。斜め方向にボールを動かすことで、縦方向と横方向のアドバンテージを「いいとこ取り」できるだけでなく、プレーヤーにより有利な角度でプレーする可能性を与える。ダイアゴナルというコンセプトはイタリアの戦術論議で語られることはないが、ピッチ上ではセリエAの多くのチームがそれを実践している。しかし、とりわけトレーニングや試合の準備において、他の国々ほどこのコンセプトに注意が払われていないこともまた事実ではある。


■ウルティモ・ウオモ戦術用語辞典
#1「ハーフスペース」
#2「マンツーマンとゾーン」
#3「トランジション」
#4「スイーパー=キーパー」
#5「サリーダ・ラボルピアーナ」
#6「ダイアゴナル」

#7「ポジショナルプレー」

■知られざる北中南米戦術トレンド
「アシンメトリー」
「メディア・ルーナ」
「タッチダウンパス」
「プラネット・サークル」

Photos: Getty Images

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ウルティモ・ウオモダイアゴナル戦術

Profile

ウルティモ ウオモ

ダニエーレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。