SPECIAL

革命的だったRBグループの新たな育成理念。フォルミサーノと考える育成の未来(前編)

2024.03.06

【対談】アレッサンドロ・フォルミサーノ(ペルージャ監督)×片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)

情報のグローバリゼーションによって、育成の現場でも最先端のアプローチが全世界で共有され、同時にクラブごと、国ごとの特徴や独自性は薄まっているとアレッサンドロ・フォルミサーノは言う。その現代において、違いを生む要因となる育成の理念、それに基づくシステムやメソッドから「5年前のやり方すら通用しない」今のティーンエージャーたちがピッチ上にもたらす変化まで。イタリアでカルト的な人気を誇る新世代監督が自身の野望とともにお馴染みの片野道郎氏に語ってくれた『フットボリスタ第100号』掲載の対談を前後編に分けてお届けする。

欧州トップレベルの育成戦略の現状。タレントの「形成」「開発」に重要なもの

片野「ひと口に育成と言っても、語るべき切り口は多岐にわたりますが、ここではとりわけ、ヨーロッパのトップレベル、5大リーグの上位クラブで活躍するようなタレントをどのように発掘し育てていくかという切り口にポイントを絞って、スカウティングや育成プロセス、組織やメソッドなど異なる角度から現状と展望について話ができればと思います。まず最も大きく、クラブとして育成にどう取り組むかという理念と戦略について見ると、いくつかのタイプに分けられるのではないでしょうか。

 最もベーシックなのは、地元のテリトリーでスカウトした選手を育成年代前期(14歳以下)から最低でも5~6年間、一貫して育てていくという、アマチュアからプロクラブまでに共通したアプローチです。プロクラブでもある程度以上のレベルになると、地元の枠を超えて国内全域にスカウティングの範囲を広げ、14~15歳のタレントを発掘し、育成年代後期(15~18歳)のプログラムに組み込んでいくというアプローチも並行して行われるようになりますよね。そして資金力もあるビッグクラブとなると、それに加えてさらに、スカウティングの範囲を国外にまで広げ、すでにセカンドチームやトップチームでプレーできる育成年代後期、16~17歳の有望なタレントをある程度のコストをかけて獲得し、トップチームの戦力候補として育成の仕上げを行うというアプローチも加わってくる。CLやELで戦うレベルのエリートクラブだと、そのどこに力を入れるかによって育成戦略に違いが出てくるという感じではないかと思います」

フォルミサーノ「育成に関してクラブが取る戦略を大きく分けると、すでにある程度でき上がった10代後半のタレントをスカウトしてくるか、10代前半からクラブの育成プロセスに沿って育てていくかという2つになると思います。前者の場合、スカウティングの対象は国内外の16~17歳になるので、いわゆるゴールデンエイジから15~16歳までの育成で最も重要なプロセスは、そのクラブとは関係ないところで済まされている。したがってスカウティングにおいては、どのような環境とプロセスの中で育ってきたのか、プロレベルの戦力として通用するレベルまで成長できるかが評価基準になってきます。スカウティングの範囲も国外まで広がるので、最初のスクリーニングの段階はデータに頼る部分が、近年はとりわけ大きくなってきています。そこで重要なのは、スクリーニングのためにどういうアルゴリズムを設定するか。そのフィルターを通して絞られた候補をビデオやライブで観察・評価して、最終的に獲得を決めるというプロセスは、育成年代でもトップチームでも同じです。

 この年代の選手は獲得するにも一定のコストがかかるので、クラブにとってはすでに資産です。したがって獲得の時点ですでに、その後どのように育てていくかという数年単位のプロジェクトが立てられることになる。これも大きく2つの道があって、1つはトップチームの戦力となることを計算して育てるプロジェクト、もう1つは数年後の売却を前提として育てるプロジェクトです。ほとんどのプロクラブは前者が基本になっているわけですが、トップチームがヨーロッパの頂点を争うようなレベルのクラブになると、そこで通用するレベルまで育つ選手が出てくるのは稀であり、むしろ後者を中心に据えながら、そこから運良く傑出した選手を輩出できた場合はトップチームに組み込むというアプローチが取られています」

片野 「レアル・マドリーやチェルシー、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマンなどは明らかにそうですよね。イタリアでもユベントス、インテル、ミランはその色彩が強い。ユベントスは近年、財政的な事情もあって少し方針転換していますが」

フォルミサーノ「ユベントスはBチームを創設することでポスト育成年代(19~22歳)の選手開発によるトップチームへのルートを強化してきました。最近はアタランタもそちら側に傾斜しつつあります。バストーニ(現インテル)、スカルビーニ、ルッジェーリなどを育成年代前期から育て上げる一方で、クルセフスキ(現トッテナム)、アマド・ディアロ、ホイルンド(ともに現マンチェスター・ユナイテッド)らは10代後半で外国から獲得してきて『完成させた』選手です。

昨夏、7200万ポンド(約130億円)もの移籍金を置き土産にマンチェスター・ユナイテッドへと羽ばたいたホイルンド

 いずれも獲得コストとは比べ物にならない高額での売却に成功しています。こちらをタレントの『開発』(sviluppo = development)と呼ぶとすれば、もう1つの10代前半から時間をかけて選手を育てていくアプローチはタレントの『形成』( costruzione=construction)です。こちらはクラブが育成の組織、人材、施設に投資を行い、環境を整えた上で、クラブとしての明確な理念に基づいて選手たちに10代前半からの育成プロセス、成長のためのプログラムを提供していくという取り組みが必要になってくる。

 アヤックスやベンフィカ、バルセロナやレアル・マドリーは20~30年前から非常に充実した育成部門のトレーニングセンターを持っていますし、マンチェスター・シティやチェルシーといったプレミアリーグのトップクラブなども、アカデミーの施設充実に大きな投資を行ってきています。イタリアでは大部分のクラブでこの点がないがしろにされてきましたが、この2023年にはフィオレンティーナが、トップチームからスクールまで全セクションが集約された最新鋭のトレーニングセンター『ビオラパーク』を完成させました。10年後にはここから少なくないタレントが輩出されることになるだろうと思います。施設の充実は育成にとってそのくらい重要な側面です」

インテンシティと勇気で限界を超える。ラングニックの何が革命的だったのか

片野 「タレントの『開発』は、育成年代後期からポスト育成年代におけるプロ選手としての『仕上げ』に関わる部分が大きいのに対して、タレントの『形成』は、育成の中核部分、アカデミーにおける育成システムの確立と実践に関わってくるわけですよね」

フォルミサーノ 「現代、というかここ十数年において、タレントの形成について最も大きなインパクトをもたらしたのは、ラルフ・ラングニックが2012年からレッドブル・グループに導入した、新たな育成の理念です。これは革命的なものでした。……

残り:4,057文字/全文:7,056文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

関連記事

RANKING

関連記事