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戦術的優位か?タレントか?バルセロナでの死闘から見えた「インテルvsヤマル」の図式

2025.05.02

CALCIOおもてうら#42

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、CL準決勝バルセロナ対インテル第1レグの分析と第2レグの展望。3-3の死闘から見えてきたのは「戦術的優位のインテルvsヤマルのタレント」という図式だ。

ファビオ・カペッロの「予言」

 開始20分でインテルが0-2とリードした時、ファビオ・カペッロは「この試合はきっと3-3で終わるだろうね。見ているといい」と、『スカイ・イタリア』のスタジオで一緒に観ていたズボニミール・ボバンに「予言」したのだそうだ。

 かつてミラン、ローマ、ユベントス、レアル・マドリーにリーグ優勝をもたらし、現在は同局でオピニオニストを務める78歳の元名将(93-94のCL決勝ではミランを率いてバルセロナ「ドリームチーム」を4-0と一蹴してもいる)は、試合後の討論番組でその理由をこう説明している。

 「バルセロナは1試合平均3得点を挙げるチームだ。2点目が入るまでにも、ヤマルの仕掛けを見ていればゴールは時間の問題だった。とはいえバルセロナの守備は脆い。インテルもセットプレーなどであと1点は取っておかしくない。3-3くらいが一番ありそうな結末だと思った」

 果たして試合はスペクタクルな展開の末、カペッロ翁の予言通り3-3のドローに終わり、決着は来週火曜日にサンシーロで行なわれる第2レグへと持ち越された。

インテル得意の「誘き出し」と「セットプレー」がハマる

 『MARKSTATS』のデータを見ると、ボール支配率は70.5%対29.5%、フィールドティルト(アタッキングサードの支配率)に至っては84.1%対15.9%という大差。「ボールと地域」に焦点を当てれば、バルセロナが圧倒的に押し込む展開だった。

 しかしその一方で、XG(ゴール期待値)は1.38対1.31、XT(Expected Threat=攻撃危険度指数)は1.58対1.04と、「攻撃の実効性」はボールや地域の支配度と比べればずっと小さな差に留まっている。

 65分に3-3になって以降、バルセロナがほとんど決定機を作り出せなかったのに対し、インテルがムヒタリャンの「つま先オフサイド」による幻のゴール(75分)を含め、少なくも3回は勝ち越しのチャンスを作り出した事実は象徴的だ。

 『バルセロナの理不尽な4ゴールに想う、「起爆剤としてのリスク」を選ぶ者の美しさ』で西部謙司さんが指摘されている通り、今シーズンのバルセロナはチームを敵陣まで押し上げて極端なハイラインで戦う超攻撃的な戦術を貫いている。一方のインテルは、セリエAでこそ後方からのビルドアップによるボール支配で主導権を握る戦い方を選んでいるものの、基本的には相手を「押し込む」のではなく「引き出し」ておいて、その背後のスペースを一気に攻略する縦指向の強い攻撃を武器とするチームだ。

 筆者は、インテルが準々決勝でバイエルンとの接戦を制した後、Xのポストに「バルセロナのハイラインはインテルにとってかなり『おいしい』のではないか」と書いた。バイエルンとの2試合もそうだったが、インテルは「ボールと地域を支配して戦うチーム」を困難に陥れるという点では、欧州トップレベルの中でも際立った存在である。

 それが端的に表れていたのが、開始わずか30秒で挙げた先制ゴール。なにしろキックオフから一度もボールを奪われることなく、いったん自陣深くまで戻してバルセロナのハイプレスを誘ったところから、一気に縦に攻め切ったのだ。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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