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「ラップ監督は欧州最先端のイメージそのもの」林陵平がJFAプロライセンス海外研修で目撃したドイツ1部のリアル(前編)

2025.04.21

2024年度にJFAプロライセンスを取得した林陵平が、ライセンス講習の海外研修先に選んだのは町野修斗が所属するドイツ1部のホルシュタイン・キールだった。

インタビューの前編では、このクラブを選んだ理由、そして新進気鋭の若手監督であるマルセル・ラップのトレーニング哲学からマネージメント手法まで濃厚な学びを伝えてもらおう。

進化しているJFAプロライセンスでの学び

――たしか林さんは現役時代にB級ライセンスまで取得していましたよね。

 「はい。B級まで取っていて、その後2020年に現役引退して、24年にプロライセンス(旧S級)を取りました」

――早いですよね。引退して4年でプロライセンスを取ったんだと驚きました。

 「現役引退後、最速です(笑)。取得までの流れを説明すると、B級を取ってから1年の実務経験がないとA級に行けないのですが、自分は21年から東大の監督をやっていたので、22年にA級を取れました。A級を取ってからプロライセンスも同じく1年あけなければならないので、23年の年末にトライアルを受けて、24年にプロライセンスを受講したという流れですね」

――プロライセンスの講習会では中村俊輔さんなどと同期ですよね。ライセンス講習は同期とのつながりだったり、コミュニティとしての価値も大きいという話をよく聞きます。

 「横のつながりは大きいですよね。そもそも受講者全員が仲間として一丸にならないと、1年間のライセンス講習は乗り切れないと感じました。4月から始まって最初はけっこう探り探りやっていましたが、終わった時にはいいチームになっていたという感じですね。いろいろ助け合いもしたし、グループでも協力してやってきたので、そこでの絆みたいなものはできますね、やっぱり」

――1年間はけっこう長いですよね。

 「いやもう、めちゃくちゃ長いですよ。声を大にして言いたいのは、受けた人にしかわからないキツさがあるんですよ。監督ライセンスがなくてもいいとか、いろんな意見が出てくるのはわかるんですけど、でも取った人からすると、どれだけ大変なことかというのはありますね」

――昨年、JFA指導者養成ダイレクターの木村康彦さんにインタビューさせていただいたのですが、プロライセンスは大きな方針として「インストラクター」から「チューター」へという方向に変化しているようで、上から教えるのではなく双方向性を重視しているようです。そうした変化は感じましたか?

 「UEFAライセンスとの互換性を目指しているという話もありましたが、プロライセンスはちょうどいろいろと変わっているタイミングみたいですね。教科書的なものではなく、実践的なものになっているとは思いました。僕は母校の明治大学で指導実践をしたのですが、週末の試合に向けて紅白戦をやるタイミングの日、だいたい試合の2日前に行ってトレーニングを担当します。ただ行ってその場で指導するのではなく、あらかじめ明治大学の前の試合を見て分析して映像を作り、そこから課題を抽出してそれを練習のテーマに設定して落とし込みをします。そこからさらに週末の試合を見て、その試合で出た課題を分析して、それを解決するための映像を自分で作るまでがセットですね。そのセットが全部で5回くらいありました」

――けっこうハードですね。しかも林さんは解説業をやりながらですもんね。

 「そうですね、僕の場合は寝る時間がほぼない日もありました。明治の場合、練習開始が朝6時。それに合わせて朝5時半に現地に到着して準備をし、6時からミーティングをしなきゃいけないので。ミーティングのための映像も自分で作って、選手たちに『こういうテーマで、こういうトレーニングをするから』とその映像を見せながら説明する。それから外に出てグラウンドで実際にトレーニングを指導して、それが終わった後にチューターと打ち合わせして、今日の練習についてのフィードバックを受けます。その他にも参加者が2人組になって相手のチームに行って、他の人のやっていることを見て意見交換などもしましたね」

――映像もご自身で作られていたんですか?

 「映像も全部自分で作りました。わかりやすくするために、アニメーションを入れたりとか。プロライセンスの講習は指導だけではなく、映像を作ったりなどの分析の仕事も多いんですよ。『あれ? 僕、分析担当だっけ?』というくらいの量をやるので」

――面白いですね、そうなってきているんですね今は。

 「そうなんですよ。だから、今のプロライセンスはパソコンを使えないと厳しいんじゃないかなと思います」

――ちなみに、ライセンス講習会は基本どんな感じなのでしょう?

 「幕張でみんなが集合した時には大学生相手にテーマを決めてトレーニングを指導したり、午後は座学の講習という感じですね。トレーニングのシチュエーションも具体的に設定されていて、例えばあるJクラブのチームに対して『こういうサッカーをしてくるから、自分のチームはどう戦うか』という何個かの攻守のテーマが設定されて、それに対して具体的な対策を落とし込むとかですね」

――そういう具体的なシチュエーションが設定されていないと、そもそも意味のあるトレーニングができないですからね。そんな中で、林さんが特に勉強になったことは何でしょう?

 「戦術の知識ももちろん大事ですけど、それを選手たちに落とし込めなければ意味がないですよね。自分のマネージメント能力、キャラクターも含めて、どういう形で選手たちに伝わるようにするかを総合的に考えていくことが大事で、そもそも監督の仕事というのは監督1人で成り立つものではないな、というのはすごく感じましたね。……

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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