SPECIAL

日本と欧米で大きく受け取り方が異なった「DAZNとJリーグの新たな放映権契約」。背景にあるDAZNの真の狙いとは?

2020.09.23

8月25日、JリーグがDAZNとの放送権契約を2028年まで2年間延長すると発表した。新型コロナウイルスの影響で経済的ダメージを受けている最中の延長発表を評価する声は多い。この時期に契約延長に至った背景とは何か。また、この新契約に対する、欧米メディアの意外な反応とは。

 新たに2年間、放送権契約を延長するとともに契約モデルの見直しを発表したJリーグとDAZN。この発表の少し前には、DAZNがUEFAチャンピオンズリーグ放映権のアジアマーケットを放棄するのではないかと報じられ、実際に日本でも一時、進行中だった2019-20シーズンの映像がすべて視聴不可となったことで不安が広がっていた。そうした経緯もあり、共同記者会見では双方がパートナーとしての信頼関係を強調。1年あたりの金額は減少するもののDAZN側のコミットが再確認されたことは、極めてポジティブに受け止めて間違いないだろう。

2017~2028年 放映権契約における変更内容

参照元:JリーグとDAZNの新たな放映権契約について(https://www.jleague.jp/news/article/17729

 一方で、DAZNにとって今回の新契約は単に日本市場へのコミットメント、Jリーグとのパートナーシップをアピールするだけに留まらない、彼らの世界戦略上とても重要な思惑があった模様である。そこに自分が気付かされたのは、この発表があった直後から「新契約の内容について詳細を教えてほしい」と、欧米ライツホルダーからの問い合わせがいくつも寄せられたことによる。質問を受けただけではない。「Jリーグはなぜこのような契約を認めてしまったのか?」と、訝しがられもした。彼らにとって、一体何が問題だったのだろうか?

Jリーグとの契約に対する欧米の反応

 DAZNからのプレスリリース(https://media.dazn.com/ja/press-releases-ja/2020/08/25-11/)に目を向けると、日本のメディアでは一切取り上げられていない内容がふんだんに盛り込まれていることに気付く。おそらく、DAZNが今回の発表で強調したかったのは以下の太字部分であろう。

 「プロフィットシェアモデルを基盤とした新しい形でのパートナーシップは Jリーグの未来、そしてDAZNが日本のファンにとって一番のフットボールメディアとなることを支えていきます」

 「今回の合意内容は、延長された期間によってDAZNの単年の固定放映権料平均金額が減額されるなか、JリーグがDAZNの日本における継続的な成長からの恩恵を受けることを可能とするプロフィットシェアモデルとなっています。これは、近年の音楽業界で音楽レーベルとストリーミングサービスが各ステークホルダーに利益をもたらすという成熟した商用モデルにインスパイアされています

 「このパートナーシップに基づいた構造は、権利元とコンテンツ配信業者、双方に成長と進化をもたらす、新しい関係性を築くモデルであるとDAZNは信じており、これは継続して日本サッカーの発展に投資する両社にとってより成長を促進するものと捉えています。よって、この新しいパートナーシップは、固定された放映権料に縛られた往来のモデルではない、革新的なものです」

 「DAZNはさらなる成長に向けて既存のコアマーケットの事業拡大に力を入れており、今年中には200以上の国と地域でグローバル展開をしていく予定です」

 「DAZN Group Acting CEO ジェームズ・ラシュトンは、『今回の合意内容は、目的の達成に向けた近代的な形であり、この革新的でより深いパートナーシップを通してJリーグとの関係をより近いものとします。両社の発展のためにこれまでとは違う形であるリスク・リワードに基づいた提案により、Jリーグとのパートナーシップの延長に至ったことは、今後のスポーツ権利ビジネスに新たな形をもたらし、その先駆者となれることを誇りに思います』」

 「DAZNはグローバル展開に向けて、コアマーケットへの事業注力と、ライブスポーツのみならずオリジナル番組の拡充にも取り組んでまいります

 こうして読み返してみると、契約の内容そのものを報じている日本のメディアと比べ、全体の内容や力点を置いている箇所が大きく異なったリリース文になっていることがわかると思う。

 Jリーグとの契約延長や関係そのものよりも、革新的な契約形態を実現し、これまでの定額ベースから、音楽業界で当たり前となっているレベニューシェアモデルへの転換に成功したことなどに重点を置いたメッセージ、しかもその対象が日本というよりグローバル市場に向けた発信、と読み取ることができるのである。

 このリリースを受けた形で、実際に欧米メディアでは日本とはまったく異なる基調の報道がなされ、しかも遠い日本でのディールにもかかわらず、少なからず注目を集めた。『Sports Pro』は「DAZN hails ‘transformational’ restructure of JA¥223.9bn J.League rights deal」と題し、以下のように報じている。

New contract based on Spotify model; runs through 2028

OTT service to use new contract structure in future rights negotiations

SportsPro understands that DAZN will be using the restructured J.League contract as a template for its future broadcast rights discussions with rights holders

 つまり、DAZNとしてはJリーグの改定契約を用い、主戦場である欧米のライツホルダーに対して、今後の契約交渉に向けた先制パンチを浴びせる意味合いがあったのだと考えられている。これからは固定フィーベースではなく、音楽業界同様レベニューシェアベースでライセンス契約が行われるべきである、と。

  欧米コンテンツホルダーにしてみれば、Jリーグとの契約が確固たる前例とはなってほしくないはずだ。Jリーグ側はそうした背景を知る由はなく、また、もし知っていたとしても欧米ライツホルダーへ義理立てする必要はまったくない。ただ、このディールが歴史的に見て、ライツホルダーが固定フィー方式からレベニューシェア方式への譲歩を認めた最初のディールとして記憶されることになるかもしれない (誤解なきように繰り返すと、Jリーグとの契約は12年間で2239億円が固定フィーとして最低保証されており、あくまでオントップの部分がレベニューシェアになっているに過ぎない。双方にとってWin-Winの契約となっているのは間違いない)。

 そもそも、放映権収入の重要性は欧米と日本でまったく異なる。それはクラブの全収入に占める放映権収入の割合の違いを見れば一目瞭然。『スカパー!』からDAZNに変わって飛躍的に増えたとはいえ、Jクラブでは一桁から10%台である。一方で、例えば欧州サッカー市場では、特にひと握りのビッグクラブを除けば各国リーグの1部に属するクラブはおおむね50%超が放映権収入である。中には、乾貴士と武藤嘉紀の所属するエイバルのように90%を占め、そのおかげでスタジアムの収容人数は1万人以下にもかかわらず、J1平均の50億円を超えるクラブ収入(60億円)を得ているクラブも存在する。

欧州各国クラブにとって放送権収入は非常に重要な収入源である(写真はエイバルのホームスタジアム「エスタディオ・ムニシパル・デ・イプルア」)

 欧米のライツホルダーにとっては、放映権に対する立ち位置、重要性が日本のそれよりも圧倒的に高くなっているため、ただライセンス金額が増えれば、契約年数が増えれば良いという問題ではなく、契約の基本構造の部分がライセンシー側に寄ってしまうことは大きなイシューになり得るのである。

 欧州サッカーを含め、欧米メジャーライブスポーツコンテンツの場合、これまでは圧倒的にライツホルダー側に有利な「売り手市場」であった。今後、DAZNが主要マーケットと見なす欧米のライツホルダーたちとどのような契約交渉を挑んでいくことになるのか? 日本でみながハッピーな気持ちで歓迎したDAZNとJリーグのニューディール。背景にはこんな思惑と国外の反応があったこと、知っておいて損はない。今後の動向に注目したい。

Photos: Getty Images

プレミア会員になってもっとfootballistaを楽しもう!

プレミア会員 3つの特典

有料記事が読める

動画が観られる

雑誌最新号が届く

「footballista」最新号

フットボリスタ 2020年11月号 Issue081

高度化するピッチ外の戦い。FFPを軸にモダンになったクラブ経営を読み解く。 特集➀FFPを理解するためのサッカーファイナンス入門。 特集②20-21欧州展望。新時代を切り開く戦術家たち

10日間無料キャンペーン実施中

Profile

利重 孝夫