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「難しい」敗戦も前向く2人。ランス運命の最終節、伊東純也は「どっちにしろ痛いなら出るしかない」

2025.05.14

Allez!ランスのライオン軍団 #14

大好評のスタッド・ランス取材レポートが連載化! 伊東純也、中村敬斗、関根大輝の奮闘ぶり、欧州参戦を目指す若き獅子たちの最新動向を、現地フランスから小川由紀子が裏話も満載でお届けする。

14回は、降格危機で完封負けのホーム最終戦……日本人エース2人の胸中、そして気になる伊東の状態はいかに? 残留か、入れ替え戦行きか、中村が累積警告で出場停止となるリーグ1最終節は517日(日本時間28時キックオフ)、敵地でリールと対戦する。

「あのフォーメーションやってる意味がない」開始3分の失点から…

 勝っていれば残留決定、という勝負の第33節にスタッド・ランスは0-2で敗れ、決着は最終節に持ち越されることとなった。

 この試合は本拠地スタッド・オーギュスト・ドゥローヌでのシーズン最終戦でもあったから、サポーターたちは有終の美を飾る姿を見ようと期待いっぱいでスタジアムに足を運んでいたのだけれど、「晴れて残留決定!」を祝うことができず、残念なホームラストゲームとなってしまった。

お祭りムードにあふれていたスタジアム周辺(Photo: Yukiko Ogawa)
選手の入り待ちをするランスファン(Photo: Yukiko Ogawa)
雰囲気を盛り上げていた楽団のみなさん(Photo: Yukiko Ogawa)

 相手は「負けたら降格確定」の崖っぷちに立つサンテティエンヌ。3シーズン前に19年ぶりのリーグ2(2部)降格を味わい、昨季、入れ替えプレーオフを経てトップリーグ復帰を決めた彼らではあるが、過去リーグ1優勝10回を誇るフランスの名門クラブだ。そのプライドに懸けても「Uターンは絶対回避!」という、ものすごい気迫と勢いでぶつかってきた。

 一方のランスは、この日も堅守速攻のサッカーを選択。第26節のブレスト戦から採用している5バックシステムで、「とにかく守って点を与えずカウンターで刺す」という戦略を貫いた。

 それで以降7試合を3失点に抑え(3勝2分2敗)、戦い方が定着しつつあったことで、サンバ・ディアワラ監督もその路線を継続することを選んだのだろう。

 ところが。

 なんと試合開始3分も経たないうちに失点。自陣ゴール付近で甘いクリアボールを相手に拾われ、そこからどフリーだった33歳のベテランMFフロリアン・タルデューに見事なミドルシュートを決められた。

 「ああいうので1点取られたら、あのフォーメーションやってる意味がない」

 試合後、この日ベンチスタートだった伊東純也がそう描写した痛恨の失点シーン。

 さらに前半終了間際の41分にも、CBジョゼフ・オクムがMFバランタン・アタンガナに出したパスのタイミングが合わずに自陣でボールロストし、カウンターから2点目を献上してしまった。

 対してランス側の攻撃はというと、中村敬斗の孤軍奮闘感が否めなかった。

 前日の会見で、ディアワラ監督は伊東がメンバー入りできることを報告していた。なので、ひょっとして先発もあるか?と思われたが、右ウイングに入ったのは、この冬にマリからフランスにやってきたばかりの、リザーブチーム登録の18歳、アンジュ・マルシャル・ティアだった。

 36分には、中村がエンドライン手前で相手を振り切って見事なクロスを上げるも、ティアがこれを決め切れず。中村は逆サイドのウイングバックに入った関根大輝にも頻繁にパスを出しながらチャンスを作ったが、ピッチ上で一番決定力のある中村が作り手に回っているため、中村のシュート力を活かせる機会を生み出せないのが痛かった。

伊東がベンチメンバーのため、試合前のウォームアップでは中村と関根がパス交換(Photo: Yukiko Ogawa)
ホーム最終戦のために用意されたゴール裏の横断幕(Photo: Yukiko Ogawa)

 そんな攻撃の芽を見出せない状況に、伊東は前半のうちからピッチサイドでアップを開始。そして、もう彼を出すしかない、という当然の流れで後半アタマから登場した。

 すると開始直後から、CFジョーダン・シエバチュのシュートを相手GKがクリアしたセカンドチャンスに飛びついてゴールを狙うなど、さっそく好機を演出。布陣も4バックに変えて相手によりプレスをかけられる形になり、攻撃が活性化した。伊東が絶妙な落としでティアのシュートをお膳立てするなど、惜しいチャンスも訪れた。

 中村も右寄りにポジションを取って、伊東、関根とのトライアングルで反撃を試みたが、すでに2点を手にしているサンテティエンヌの守りは堅く、ゴールはなかなか破れない。

 84分、昨季までランスのキャプテンとしてチームを率いたユニス・アブデルアミドが投入されると、ランスサポーターは拍手と「ユニス!」コールで大歓迎。しかし今や敵方であるCBは、ランス時代そのまま、闘魂みなぎるプレーでゴール前の鉄壁となった。

 そんな勢いにも押されつつ、0-2のままタイムアップ……。

ランスが2部にいた2017-18から7シーズン、主力として活躍した37歳のモロッコ代表DFアブデルアミド

「まだ全然痛い」「無理やりゴーサイン(苦笑)」伊東“強行出場”の裏側

……

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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