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試合巧者ベネズエラが明らかにした日本が抱える「3つの隙」

2019.11.20

9月のパラグアイ戦以来、5試合ぶりとなった親善試合で1-4の大敗を喫した日本代表。12月に控えるEAFF E-1サッカー選手権をにらみ、一つの代表ウィーク内でメンバーを入れ替える選手選考など通常とは異なる背景事情があった点は考慮しつつも、あくまでピッチ上で起こった事象にフォーカス。『ポジショナルプレーのすべて』(小社刊)の著者・結城康平さんが、大敗を招いた「3つの隙」を指摘する。

 日本代表を指揮する森保一監督と、対戦国として来日したベネズエラ代表のラファエル・ドゥダメル監督には共通点があった。母国の代表を率いており、かつアンダー代表とA代表の監督を兼任していたのだ(ドゥダメルは今年に入りA代表監督へ専念)。

 しかし、決定的に違うのはA代表に至るまでの道程だろう。「黄金世代と呼ばれるユース世代を率いて結果を残し、A代表を兼任することになった」ドゥダメル監督と、「東京五輪という大きな目標を与えられる中、並行的にA代表の指揮官にも就任した」森保監督。彼らは同様に長期的な代表の強化という大役を任せられているものの、森保監督にはドゥダメル監督のように「長く指導し、ベースにすることが可能なチーム」がある訳ではない。

 アジアカップ決勝ではドゥダメル監督と同様に「黄金世代と呼ばれるユース世代を鍛え上げ、A代表の中核を担うメンバーとともに昇格してきた」カタール代表のフェリックス・サンチェス監督に敗れたのと同様に、時間を費やして鍛えられてきた「組織力に優れた」チームは日本代表の天敵だ。

3つの隙①:一貫性のないビルドアップ

 その一つの要因は、ビルドアップにおける「幅の少なさ」にある。GKを組み入れた最終ラインからのビルドアップは現代フットボールの必修課題だが、世代ごとに異なったメカニズムのビルドアップを使っている日本は継続的な強化が難しい。この試合の2日前に行われたU-22代表のコロンビア戦で、選手たちは3バックでのビルドアップに苦戦していた。このベネズエラ戦は[4-4-2]だったが、やはりビルドアップが覚束ない場面が目立つことになる。序盤は何度かボランチが最終ラインに下がる「サリーダ・ラボルピアーナ」に近い組み立てにもトライしたが、基本的には4バックをベースにボールを保持する方向にシフト。

 目の前の2ボランチに預けるか、自由に動く中島翔哉への縦パスを狙いながらボールを繋ごうとする日本に対し、ベネズエラは[4-5-1]のブロックを自在に可変していく。駆け引きに優れた練度の高いベネズエラは、黄金世代の筆頭ジェフェルソン・ソテルドがプレッシングを操るスイッチとして機能。サイドの高い位置から守備のラインを上げる[4-3-3]、サロモン・ロンドンとともに前線へと残る[4-4-2]に近い陣形でのプレッシングを使い分けながら日本を翻弄した。加えて中盤を前に押し出すベネズエラの守備スタイルはパスコースを遮断し、日本の中途半端な縦パスを次々とインターセプト。何度となく、ショートカウンターでDFラインの背後を脅かした。

 ベネズエラの配置は左右がアンバランスになっていたので、本来はプレッシャーの弱い左サイドから組み立て、ソテルドの背後をサイドチェンジで突くプランを選択すべきだった。室屋成へのサイドチェンジは何度か成功したが、あくまで散発的。チーム全体での意思共有には至れなかった。

 メンバー的な練度の低さは考慮しなければならないが、このビルドアップの質はフルメンバーでも常に課題となっている。チームとしてのビルドアップ方針を明確にしていない状況では、個々の認知的負荷はどうしても高まってしまう。アンダー世代からの一貫した強化を掲げるのであれば、ある程度相手側の枚数を意識しつつ、共通したビルドアップのイメージを描く必要があるはずだ。

 唯一ポジティブな要素となったのは、GKとして先発した川島永嗣のディストリビューションだ。もともと足下のテクニックに優れた選手とは言いがたいかもしれないが、正しい判断でボールを動かそうとしていた点は評価されるべきだろう。特に内側のコースを消された際、SBの頭に合わせるような浮き球はリスクを軽減しながらマイボールに繋がる可能性も高い選択肢であり、そこを狙っていくプレーにトライする意識が強かった。

3つの隙②:インテンシティの「バラつき」

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代、流行語的に扱われた「インテンシティ」(強度)は日本にとって解決すべき課題だと考えられている。しかし、課題として言及すべきは単なるインテンシティではない。実際ベネズエラ戦に限れば、強度で劣った試合ではなかった。特に後半の45分は、ネガティブトランジションでのボール回収でベネズエラを苦しめるなど、十分な強度と継続性を示したと言えるだろう。

 課題が残ったのは、インテンシティの「バラつき」である。強度を高めるべき場面と不要な場面の判断が未熟で、悪く言えば「気分屋」な守備が目立ってしまうのだ。特に顕著にそれが出てしまうのが中島や柴崎岳で、彼らは素晴らしいタックルでボールを奪ったかと思えば、曖昧な寄せで相手の突破を許してしまう。このようなバラつきが大きいことで、日本代表のトランジションにおけるボール奪取能力は時間帯や局面によって大きく変動する。大事なのは後半のような集中力の高まった時間帯を作り出すことより、試合の中でのバラつきを減らすことだろう。

 これは選手個々が解決すべき課題でもあり、同時に守備における意思共有の甘さに起因する課題でもある。例えば[4-4-2]でスタートした前半、2トップの役割が不明瞭だったことで両サイドアタッカーはブロックを維持するのか、相手のSBを狙うべきか不明瞭な状況になってしまい、過剰に体力を消費。結果的に疲労した2人のアタッカー、中島と原口元気のポジショニングが悪化。40分過ぎには強度を落とし、守備のバランスが崩壊している。先制点の場面でも、SBは相手に寄せるべきタイミングがあった。距離を取りながら待ちに徹してしまったことで、エリア内への進入を許したことは反省材料だろう。

試合後、自らを責めるコメントを残した柴崎

3つの隙③:局面を読み、選択肢を絞る能力の不足

 強度のバラつきを平準化する能力が乏しいことに加えて、相手の強度に合わせたゲームコントロールにも課題が残っている。ロンドンの先制弾からベネズエラが若干ペースを落とした時間帯に、シンプルなワンツーで抜け出された2点目は象徴的だ。ペースダウンしたベネズエラは、中央に枚数を増やすようなリスクを冒す攻撃は自重していた。そうなれば、サイドのスピードを活かしたシンプルな突破を「本線」に絞るべき場面だ。できる限り失点のリスクを軽減しながら追加点を奪いたいベネズエラが、サイドを中心に攻めることは当然の流れだろう。あっさりと左サイドを突破されての失点は、「局面」を読み切れていない組織全体のミスによって生じた。いかにロンドンでも単調な力押しではエリア内で守備陣を切り崩すのは難しいことを考慮すれば、警戒すべきは突破後の折り返しだった。

 そのまま押し切られるように3失点目、4失点目を喫した一因である「集中力の糸が切れた」ことも問題だが、最も防ぐべき失点は2点目だった。相手の状況を読み、逆に利用するような「したたかさ」も必要不可欠だ。相手がペースを落とした、本来は反撃に移るべき時間帯に失点し、そのまま押し切られるような未熟な試合運びは避けなければならない。4点差がついてからギアを入れ替えても、後の祭りとなってしまう。

 ロンドンやロベルト・ロサレスのような欧州で十分に実績を積んだプレーヤーを中核としながら黄金世代が躍動するベネズエラは、日本の課題を洗い出す上で重要な役割を果たした。彼らが初のW杯出場を目指す中、日本にはさら高い目標が課せられている。どのようにこの敗北から学んでいくのか、今後の改善に期待したい。

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ヴァイッド・ハリルホジッチ戦術

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。