【対談】田中達也×らいかーると:元教え子が語るリカルド・ロドリゲス監督の進化(後編)。柏の躍進でJリーグの戦術トレンドは変わるのか?
ロアッソ熊本、FC岐阜、ガンバ大阪、大分トリニータ、浦和レッズ、アビスパ福岡と渡り歩く中で、渋谷洋樹監督、片野坂知宏監督、リカルド・ロドリゲス監督、長谷部茂利監督から薫陶を受け、指導者への道を志した元Jリーガーがいる。タイへと渡って1部のラーチャブリーで1年を過ごし、2025-26シーズンより3部のカスタムズ・ユナイテッドで監督を務めている田中達也のことだ。
YouTubeチャンネル『田中達也【Football Insight】』も開設するなど異国の地で活動の場を広げる田中監督から、なぜか戦術ブロガー兼サッカー指導者のらいかーると氏を通じて編集部にオファーが舞い込み、両者の異色対談が実現。その経緯から指導法に戦術論まで、前中後編に分けて大いに語り合ってもらった前回に続き今回は2026シーズン開幕に先駆けて、昨季に就任初年度ながら柏レイソルをJ1リーグ2位&ルヴァンカップ準優勝に飛躍させたリカルド・ロドリゲス監督の進化を、浦和時代の教え子である田中監督に前中後編に分けて語ってもらった(取材日:2025年12月23日)。
「ボールさえ持てれば相手は対策のしようがない」柏の強さ
——J1のチームスタッツで2025シーズンの柏を振り返ると、1試合平均ボール支配率、1試合平均チャンスクリエイト数、1試合平均パス数、パス成功率で首位とポゼッション面の数値は当然高いのですが、1試合平均走行距離も1位、1試合平均スプリント回数は3位とフィジカル面の数値もトップクラスになっています。
らいかーると「僕は『サッカーもっと知りたいシート』という浦和の企画シートで解説役をさせてもらっていて、去年担当したJ1第25節で対戦したのが柏だったので、井原正巳前監督体制下での試合もめっちゃ見たんですよ。当時は残留を争っていましたけど、そんなに悪くなかったんですよね。どうしても結果がついてこないと、求心力って離れていくじゃないですか。このサッカーを続けても勝てないんじゃないかって。でもそんなバラバラ感も最後までなくて、それでも柏の選手たちは最後まで死ぬほど走っているくらい、すごくモラルの高いチームだったんです。そういうクラブとしての文化が前提としてまずあったのかなと」
田中「あと一般的にボール保持を要求されたら、そりゃ走行距離は多くなるよねと思っています。調べてみたら2019シーズンに優勝した横浜F・マリノスも1試合平均走行距離がトップだったんですけど、ボールを回せるようにチームとしていいポジションを取って前向きになり続けるには当然、選手全員の移動や連動が必要になってくるので。逆に走行距離を少なくしてボール保持ができているチームはないと思います。そこは切り分けられないですね」
らいかーると「あとはやっぱり、プレッシングですよね。今年の柏はハイプレスもミドルプレスも超やってましたから。多分、その対策としてはボールを取り上げて走らせるのが理想的ですけど、今のJ1にボール保持で対抗できるチームがあまりいないので」
田中「B級ライセンス講習会でも『柏は個人個人が上手いなと思ったし、めんどくさかったよ』的なことを言っていたJ1の選手が多かったですし、他の選手からしてもすごくいいサッカーだなという印象があったみたいです」
らいかーると「あれだけボールを持って時間を潰されたら、やっている選手はきついですよね」
田中「メンタル的にも本当に嫌ですね、あそこまでボールを持たれると」
らいかーると「だから考えられる対策としてはハイプレスを諦めて後ろでしっかり守る。どうせ柏はGKからのビルドアップで数的優位を貯金してくるんだから、そこは付き合わずに無視すればいいじゃんってことだと思うんですよ。でもそこに対して、5レーンを埋める攻撃や右サイドの原田選手の攻撃参加で数的優位を作ったり、何より大外アタックがめっちゃ良かったですよね。引いた相手を崩す鉄則の1つとして、大外にクロスを上げて折り返して仕留める、相手の視野外のファーの味方が決める方法があると、ペップ・グアルディオラのバルセロナが提示したと思うんですけど、小屋松選手も久保選手もゴール周辺まで来てフィニッシュに絡んできていましたよね。ウイングバックからウイングバックの攻撃がJリーグでは一番うまくて考えられていたと思います」
田中「小屋松選手は本当に生き生きしていましたよね。『引いてくるんだったら、俺らはウイングバックへのいいボールの届け方を知ってるよ』という次の手があったのも大きかったと思います。僕が見た試合でも、その形で決定的なチャンスをつくっていました。久保選手の負傷離脱もありましたけど、ジエゴ選手がJ1第32節の川崎フロンターレ戦の2点目を奪ったように右でも仕事をしていましたし、対策をされても『じゃあ俺らはこいつを生かすから』という選択肢があったのが強かったのかなと思いますね。トモや康也を狙っていったのも、対策の対策に使えるカードを早めにそろえていっているイメージです」
らいかーると「そしてボールを持って相手を疲れさせた前半の後に、スーパーサブとして交代組が高いモラルを持ってプレーしていて、新加入組も結果を出した。そういうチームビルディングやチームマネージメントも含めてちょっとうまくいきすぎたかなとも思いますけど、計算通りだったと言っても大袈裟な表現じゃなかったのかなと思います。ボールさえ持てれば相手は対策のしようがないという強さをあらためて示したことも、今のJリーグにとってすごく大きなことだったんじゃないかなと思います。あとは本当に、よくカウンターやセットプレーで沈まなかった。(J1第26節)ファジアーノ岡山戦でルカオ選手に吹っ飛ばされたようなシーンや、ルヴァンカップ決勝で(サンフレッチェ)広島がデザインしていたようなロングスローはもっとあっても不思議じゃなかったなとは思いますけど」
田中「僕自身がそういうサッカーが好きっていうのもあるんですけど、選手のメンタル的にもああいうサッカーで勝ち切れていたら最後まで息切れしにくいのかなとは思いますね」
「また“カタノサッカー”を見たい」気になる恩師たちもプレビュー
——ここ数年のJリーグは神戸がJ1を連覇したりFC町田ゼルビアが飛躍したりと、パワー寄りのサッカーが主流になっていましたが、柏の躍進で変わっていくでしょうか?
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Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。
