2022年にスパイクを脱いだ、元日本代表MFの小林大悟氏。現役最後の所属クラブ、バーミングハム・リージョン(アメリカ2部)での3シーズン目を終えた翌年の決断だった。引退から4年、43歳になった同氏は、パリ・サンジェルマン アカデミー・ジャパンでのテクニカルディレクターを経て、自らの名を冠した『DAIGO FOOTBALL SCHOOL』の運営と指導を通じ、サッカー界への貢献を続けている。
インタビュー後編は、幼児から中学生までを教える“大悟コーチ”としての現在、そして「答えを与えない」「GOの合図を与えない」「怒らない」「長時間の指導をしない」「実戦に結びつかないことはしない」そのコーチングの心得について。
「自分たちのボールにすることが大前提…そのために何をすべきか」
――現役生活に幕を下ろした舞台はアメリカ。最後のバーミングハム・リージョン(2019〜21年)では、クラブ公式サイトで「レジェンド」という言葉が、よく大悟コーチに関して使われていた記憶もあるけど、最終的にアメリカが長くなった理由は?
「30歳から9年間だったんですけど、やっぱり役割的にはベテランとして、若手も多いチームにサッカーの“色々”な面を示してほしいといった要求を監督からされていて、20代の時にヨーロッパやJリーグでやっていた頃より、そこにもすごくやりがいを感じるようになっていたんです。まだサッカーのセオリーさえないような、これからのリーグでの自分の立ち位置として。
ボストン(ニューイングランド・レボリューション/2014〜17年)にいた時なんかも、ベトナム系のチームメイトで、すごくいい選手なのに少し燻っていたヤツがいて(元MFのリー・グエン)、僕はボランチで使われるようになっていたので、後ろから彼をどう活かすか意識しながらやっていて。ボールを集めてあげたり、ちょっとボールをこねくり回しちゃうタイプだったので『返してあげるから、いったんよこせ』と言ってみたり。そいつ、大爆発してアメリカ代表まで行ったんですよ(2014年に7年ぶりの代表復帰を果たして翌年も招集された)。そうした若い選手たちや、集団として成長していくところに、チームでの生きがいを感じていたというか、アメリカ時代は完全にそういうモードでしたね」
――MLSで下から上がってくる選手は、Jリーグと比べて荒削りな印象があった?
「もっとこう、うまいことやれば、その身体能力をもっと活かせるのになぁと感じる選手、すごく多いんですよ。ちょっとした体の向きとか、最初にこういうボールの止め方をしたら次がやりやすくなるみたいな。そういう細かいことはたぶん、そこまでの過程ではあまり教えないんでしょうね、アメリカでは」
'The Legend' Daigo Kobayashi comes out on top to win Crunch Fittest Man of the Match honors for #BHMvOKC!#HammerDown https://t.co/uX10x6xQvu pic.twitter.com/Vs3OK0kD75
— Birmingham Legion FC (@bhmlegion) May 28, 2021
――そうした経験や思いを、自ら育成年代の指導に反映できるようになる機会が、パリ・サンジェルマン(PSG)アカデミーでのテクニカルディレクター(TD)就任だった。
「自分の中で引退を決めたのが2022年の1月で、日本アカデミーのTDは23年からですね。毎週、全学年を見ていました。それが2年目で閉校になってしまったので、アカデミーの生徒さんたちを自分で引き継ぐ形になって。運営を手掛けるようになってからは、以前ほど現場での時間は取れなくなってしまったけど、他にも信頼の置けるコーチが2人。指導方針は、PSGで学んだメソッドが踏襲されています。すごくいいなと思ったので」
――その“PSG流”で、大悟コーチが最も共感を覚えた部分は?
「毎月、世界中の指導担当がリモートミーティングで集まってメソッドを叩き込まれるんですけど、『俺が小学校の頃と全然違うコーチングだ』と感じて。決して当時のコーチを否定する意味ではなく、けっこう単純に衝撃的だったんです。サッカーの本質みたいなところは、意外と考えたこともなかったし、教えられたこともなかったですけど、まずは自分たちのボールにすることが、サッカーの本質というか大前提。試合をする上でのターゲットなので当然、ゴールを狙うとしても、そのためにじゃあどうやって自分たちのボールにするのかといった本質からパッと言われて。そうするためには何をすべきかという考え方で教えるようになっている。それを改めて自分の中で整理するにあたって、『確かにそうだな』と。日本の場合は、割と技術的な部分に寄りがちなのかな。そういう意味で大まかに言うと、個人の技術じゃなく、戦術が先だよねっていう考え方になりますかね」
「起きてほしい現象が自然と起こるような練習メニュー」とは?
――『DAIGO FOOTBALL SCHOOL』のホームページを見ると、「全く新しい指導」とある。具体的にはどの部分が、日本での従来の指導とは違っているのかな?
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
