シャビ・アロンソ新監督の下で2025-26シーズン開幕を迎え、公式戦7連勝を飾っている絶好調のレアル・マドリー。ラ・リーガで得点増と失点減に導いた攻守の整備を振り返りながら、新戦力のアルバロ・カレーラス、ディーン・ハイセンらの貢献と戦列復帰のジュード・ベリンガムへの期待を、元エリース豊島FCテクニカルコーチのきのけい氏が前後編に分けて分析する。
「明確なのは、チームの全員で守備をする必要があるということ。ピッチに立つ11人全員に参加意識がなくてはならない」
「長い時間、コントロールしている感覚がほしい。試合では、創造的かつ安定的でありたい」
レバークーゼンで一昨季にブンデスリーガ無敗優勝とDFBポカール制覇の2冠を成し遂げ、満を持して今夏レアル・マドリーへと戻ってきたシャビ・アロンソのコメントである。これらは彼の監督としてのフィロソフィをよく表しており、就任して4カ月が経過した今、実際にピッチに反映され始めている。
得点源はショートカウンター。ハードワークの徹底だけではない改善
クラブW杯では準決勝で欧州王者パリ・サンジェルマンに惨敗(0-4)を喫したものの、ラ・リーガは開幕6連勝、CLも開幕節を勝利で飾るなど、スタートダッシュに成功した新生マドリー。アロンソと前監督カルロ・アンチェロッティの大きな違いは、どんなにネームバリューのあるスターであろうと、ハードワークの基準を満たさない選手を戦術の中心に据えないという点である。
代表例はビニシウス・ジュニオールで、昨季はキリアン・ムバッペとともにスタメンが保証されたアンタッチャブルな存在であった彼は、現在左ウイングのポジションをこちらも昨季は右ウイングのレギュラーであったロドリゴ・ゴエスと争っている。一方、基準をクリアしているムバッペは、7試合9ゴール1アシストと絶対的エースとしてチームを牽引中。明確な基準を定めて健全な競争を促すというのは、ある意味誰しもが選択肢として持っているマネージメント手法だと思われるが、エゴの強いスターたちがそろうこのクラブでなせるのは、アロンソがかつてマドリーの選手としてあらゆる主要タイトルを獲得し、黄金時代の礎を築いたOBであるところが大きい。
戦術的に、目に見えて良くなったと言えるのはハイプレスの局面だろう。全チームが消化しているリーガ第5節時点のOptaのデータによると、プレス強度を表すPPDAはバルセロナ(8.3)、セビージャ(9.3)に次ぐリーグ3位(10.2)。敵陣でのポジティブトランジションの数は4位(43)、うちシュートでのフィニッシュの数は2位(10)、さらにゴールに繋がった数は1位(3)。下位相手でさえムバッペとビニシウスの2トップの緩慢な守備によってやすやすとハイプレスを掻い潜られ、自陣に押し込まれていた光景はもはや過去のものとなっている。CLでも、ロベルト・デ・ゼルビ率いるマルセイユ戦(2-1)ではショートカウンターから何度も決定機を作り出すことに成功している。
守備時の配置は[4-2-3-1]、あるいは[4-1-4-1]。クラブW杯では[5-2-3]や[5-3-2]も試されたが、ダニエル・カルバハルの戦列復帰やアルバロ・カレーラスの獲得など、主に攻撃面においてアロンソの求めるSB像を満たす選手がそろったこともあり、4バックを基本線としている。これに伴い、レバークーゼン時代と比較して、しっかりとミドルブロックを形成する時間帯は作りつつも、より相手GKまでボールを奪いに行くハイプレスへと移行する頻度と回数が増えている。トップ下(またはインサイドハーフ)のアルダ・ギュレルを1列前に押し出して2CBに当てる形や、3バック気味の陣形となる相手に対しては両ウイングを押し出す形など、配置の噛み合わせ方は様々。ただし、最終ラインの数的同数を受け入れ、エデル・ミリトンと新加入ディーン・ハイセンの両CBがハーフウェイラインを大きく飛び出して潰しに行く点は共通している。
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— Real Madrid C.F. (@realmadrid) September 13, 2025
スペースを“無駄に守らない”。ハイプレス増の理由はミドルサードにあり
このハイプレス局面の増加はミドルブロックにその要因がある。
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Profile
きのけい
本名は木下慶悟。2000年生まれ、埼玉県さいたま市出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻所属。3シーズンア式蹴球部(サッカー部)のテクニカルスタッフを務め、2023シーズンにエリース東京FCのテクニカルコーチに就任。大学院でのサッカーをテーマにした研究活動やコーチ業の傍ら、趣味でレアル・マドリーの分析を発信している。プレーヤー時代のポジションはCBで、好きな選手はセルヒオ・ラモス。Twitter: @keigo_ashiki
