【対談】田中達也×らいかーると:元教え子が語るリカルド・ロドリゲス監督の進化(前編)。「分析できない」徳島時代の“渡井フリーマンシステム”とは?
ロアッソ熊本、FC岐阜、ガンバ大阪、大分トリニータ、浦和レッズ、アビスパ福岡と渡り歩く中で、渋谷洋樹監督、片野坂知宏監督、リカルド・ロドリゲス監督、長谷部茂利監督から薫陶を受け、指導者への道を志した元Jリーガーがいる。タイへと渡って1部のラーチャブリーで1年を過ごし、2025-26シーズンより3部のカスタムズ・ユナイテッドで監督を務めている田中達也のことだ。
YouTubeチャンネル『田中達也【Football Insight】』も開設するなど異国の地で活動の場を広げる田中監督から、なぜか戦術ブロガー兼サッカー指導者のらいかーると氏を通じて編集部にオファーが舞い込み、両者の異色対談が実現。その経緯から指導法に戦術論まで、前中後編に分けて大いに語り合ってもらった前回に続き今回は2026シーズン開幕に先駆けて、昨季に就任初年度ながら柏レイソルをJ1リーグ2位&ルヴァンカップ準優勝に飛躍させたリカルド・ロドリゲス監督の進化を、浦和時代の教え子である田中監督に前中後編に分けて語ってもらった(取材日:2025年12月23日)。
Xやnoteで情報発信する理由は「指導者として…」
——前回の対談(取材日:10月16日)から2カ月余り経ちました。田中監督は記事掲載を皮切りにXやnoteで積極的に情報発信されていて、リアクションされた方ともかなりやりとりをされていました。現役の選手や監督が戦術についてサッカーファンと論じ合うのは珍しいですが、そこには何か狙いがあったのでしょうか?
田中「指導者の仕事は説明する作業の連続ですが、選手として『あれ、なんか先週と言ってること違うな……』と一瞬でも思うとその違和感が残り続けていたので、監督としてそう思われないように言語化を練習する場としてSNSを使わせてもらっています。そこで自分の理論や考えが矛盾しないように受け答えができて、サッカーファンの方にもわかりやすく伝えられれば、選手に伝えられると思ってやっていますね」
らいかーると「僕も遠くからその姿を眺めていて、“ワンタッチ”や“先出しジャンケン”の話が思わぬ方向に進んでも、理解してもらえるようにずっと説明されていたので、本当にリスペクトしていました」
田中「そういう意味では『こういう言い方だと伝わりにくいんだ』という勉強にもなっています。“先出しジャンケン”という表現は気をつけたほうがいいのかな、違う感じで伝わるならやめたほうがいいのかなとも思いました。決め打ちでプレーすると思われたりもして、僕の伝えたいニュアンスとはちょっと違ったところもありましたので。僕の中では相手を見て判断することが前提にある中での話で、まずはプレーを……“決める”って言っちゃうとまた難しくなるかもしれないので(笑)、もうちょっといい言葉を見つけないとなとか、ここは気をつけようとか、学びや面白さも感じていますね。それは反応をしてくださる方がいらっしゃるおかげなのでありがたいです」
——僕は“先出しジャンケン”についてしっくり来ていて、草サッカーやサッカーゲームをやっていても状況に対して頭が追いつかないことが多いんですよね。だから先に決めておく、Aの選択肢を準備しておいて、ダメだったらキャンセルしてBの選択肢に移るという流れはわかりやすかったです。
田中「まあ、(小泉)佳穂にこれを話した時はすごく納得して面白いと言ってもらえたので、共感してもらえる選手にはすごく共感してもらえるのかなと思っています」
らいかーると「僕は育成年代を指導していますが、チームで使っている言葉をトレセンで同じように使っても通じなかったりはするので、それぞれのチームでどういう言葉で教わっているのか、教わってないのかを確認しながらやっていますね。大抵の場合、表現が違っても同じ現象をいろんな言葉で呼んでいるだけですから。選手も『あ、このチームではそういう呼び方なんだな』くらいなものなので」
田中「“パラレラ”なのか“パシージョ”なのかもそうですね。僕も同じ意見です。結局は自分のチーム内でその言葉に対しての概念がそろっていればいいと思いますから」
らいかーると「あとはやっぱり、指導現場だとプレーで示しちゃえば伝わりますし、目で見れば一発じゃないですか。小学生年代とか中学生年代もそうですけど、目の前で実演することができるので、言葉を選ぶというよりもそういう状況を作る、実際にやるっていうのを重視している気がします。今スタンダードになっている映像で見せるのもそうですよね。プロの世界でも多分そうじゃないですか。見ればやっぱりみんなわかるので。ただ、そうやって言葉にすると選手は意識しやすくなりますから、すごくいいことだと思います」
田中「そこで僕は『わかってもらえるやつだけにわかってもらえばいい』とはなりたくないので、誰にでも伝えられるようになりたいですし、僕が今率いているカスタムズ・ユナイテッドの選手たちもそれぞれ情報処理能力が違います。一回で10や9まで理解できる選手もいれば、3とか4の選手もいますし、言葉よりも戦術ボードで見せたほうが理解できる選手もいたりする。とはいえ、その選手の情報処理能力が高くなくても、実力や武器があれば試合に出すべきだと思いますから、最低限の共通認識は理解してもらえるよう個別のコントロールもやってはいます。同時進行でソフトウェアのアップデートみたいに処理能力そのものも上げられるようにしていきたくて、『わからないならいいよ、僕はわかってる人たちと話すから』みたいな感じにはなりたくないんです。それでは指導者として失格ですから。
そうやって伝える能力はプロ選手としての経験だけでは限界があって、早くから指導者の道に進んでいた同い年の中嶋円野コーチに(アビスパ)福岡で指導を受けたんですけど、すごくわかりやすくてレベルの差を感じたんですよね。それこそ、浦和(レッズ)でも林舞輝のところによく話を聞きに行っていましたが、舞輝の話もすごく面白かったです。選手からは聞き出せないような目線や発想で助言をもらえたりしていました。そういう若手指導者や海外指導者の方々もSNSをやっていらっしゃって、みなさんの情報発信にも楽しく勉強させていただいています。もっと全体像としてサッカーを理解したい想いもあるので」
予算規模は50倍!絶対王者ブリーラムとの75分間で証明したこと
——そのカスタムズの近況はいかがでしょうか?
田中「カスタムズは一昨日、タイ1部のブリーラムとのカップ戦がありまして、負けてはしまいましたが狙いとする形や展開を少し作れていました」
らいかーると「ブリーラムはACLでも名前を見聞きすることがあってタイの強豪というイメージですが、他のリーグにたとえたらカスタムズとの実力差はどれぐらいになるんでしょうか?」
田中「イメージしやすいところだとドイツですね。前季に3部で残留争いをしていたチームがブンデスリーガで1強体制を築いているバイエルン・ミュンヘンに挑むくらいだと思います。ブリーラムはT1(タイ1部)を4連覇中でライバルも圧倒しているので」
らいかーると「それは勝ったら大騒ぎでしたね」
田中「6分に先制して75分まではリードできていたので、僕もめちゃくちゃ興奮していました。カスタムズの選手もブリーラムと試合をできたこと自体がうれしかったみたいで、個人のSNSにたくさん写真をアップしていましたね。今はまだそういう憧れの存在かもしれないですけど、自分たちの実力というか、やりたいことが少し通用して選手たちも自信を持てたはずです。リスペクトも大事ですが、あのレベルまで登ってきてほしいという意味で身近な目標としても見れるように、彼らのメンタリティを変えていきたいと思うきっかけにもなりました」
——結果としては終盤に怒涛の反撃を浴びて1-5でした。
田中「正直、同点に追いつかれたシーンはファウルがあったんじゃないかと疑っているんですけど(苦笑)、そこから少し集中力が切れてしまった印象です。FWはお金で買うなんてよく言われますが、タイリーグで一番の市場価値があるビソーリという3年連続T1得点王のブラジル人ストライカーには特に格の違いを見せつけられました。身長は174cmくらいなんですけど『そのこぼれ球をジャンピングボレーで叩き込んでくるのか』という同点弾に驚いていたら、あっという間に『そんなミドルシュートも持っているのか』と追加点を奪われてしまいましたから。彼も含めてブリーラムは予算規模がカスタムズの50倍くらいありますが、僕らはお金を使うのではなくて今いる選手たちの市場価値を上げて戦力差を縮めていきたいと思っているので、それが75分間証明できたのはよかったです」
——リーグ戦に目を移すとカスタムズは前期を終えてT3(タイ3部)ので3位となっていますが、優勝争いは拮抗していますね。
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Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。
