
3月5日に行われたAFCチャンピオンズリーグ2 (ACL2)準々決勝ライオン・シティ・セーラーズ(シンガポール)戦の第1レグ、69分にエディオンピースウイング広島のピッチに初登場すると、その5分後にクロスを頭で合わせてデビュー戦ゴール。さすがの役者ぶりを見せつけ、6-1の快勝に貢献したサンフレッチェ広島の新戦力が、2月27日に加入した34歳のFWヴァレール・ジェルマンだ。その母国フランス時代を振り返り、“贅沢な”幼少期やモナコ(2010-17)、マルセイユ(2017-21)などで活躍した華々しいキャリア、印象深いエピソードを紹介したい。
フランスのサッカーシーンから姿を消していたヴァレール・ジェルマンの名前を、Jリーグで聞くことになるとは。
2016-17シーズンのモナコのリーグ1優勝メンバーである彼は、白と赤のユニフォーム姿の印象が強い。モナコの後はマルセイユで酒井宏樹(現オークランドFC)とも共闘した。
そんなジェルマンの特徴を思い起こすと、こんなプレーぶりが浮かんでくる。
・ポジショニングのセンスがあり、どこからかふいに現れてはゴールを仕留める
・ヘディングが得意
・拮抗した場面でポコっと得点したりするので、彼がピッチにいると最後まで「点が入るのでは?」という期待を抱かせてくれる
・テクニックに優れている
トップで使われることも多かったが、チャンスメイク力にも長けた彼はセカンドストライカー的役割を得意としていて、ターゲットマンを狙ったクロスのこぼれ球に対応してシュートに繋げる、といった動きもうまい。それに「よくそこにいてくれた!」という感じで、思いがけない瞬間に予測しなかったところから現れて点を取ったりもする。
かなり昔だが、マッチアップした相手の選手がジェルマンについて、「単なる点取り屋ならシュートさえ打たさなければよいが、ジェルマンはクリエイティブで、ボールを奪ったり絶妙にスペースを作る動きもうまいから、コントロールするのが難しい」とコメントしていたのが記憶に残っている。
「ブルーノの息子」として、プラティニとテニスボールサッカー!?
ジェルマンはフランス南部のマルセイユ生まれ。父のブルーノ・ジェルマンもプロサッカー選手で、父がマルセイユでプレーしていた時期(1990年4月17日)に誕生した。
“Valère”というファーストネームはフランスであまり聞かないのだが、両親がモリエールの戯曲『守銭奴』を観に行った際に、その中で気に入った登場人物の名前を息子につけたのだそうだ。
年配のサッカーファンの間では、父ブルーノの存在はよく知られている。ヴァレールが年齢を重ねたらこうなるんだろうな、という見た目のブルーノは元DFで、フランス代表のジャン・ピエール・パパンやイングランド代表のクリス・ワドルらとともに、1980年代後半から90年代初頭にかけてリーグ4連覇を達成するなど、マルセイユの黄金時代を築いたメンバーの一人だ。ブルーノ自身も1988-89、1989-90、1990-91の3シーズンで優勝、1991年のヨーロピアンカップ(現チャンピオンズリーグ)準優勝も経験している。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。