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主力の海外移籍を「ポジティブな変化」と言い切る理由とは? 原靖FDが見据える、ゼルビアの将来像

2025.05.06

GMが描くJクラブ未来地図#8
原靖フットボールダイレクター(FC町田ゼルビア)後編

若手を中心に多くの日本人選手の目が「外」に向き、世界的な移籍金のインフレ傾向に円安も重なり外国籍選手獲得のハードルも上がる――今のJクラブの戦力編成の難易度はかつてないほど高まっており、中長期の明確なクラブ戦略なしでチーム力を維持・向上させていくのは不可能だ。今連載では、そのカギを握る各クラブのGM/強化部長のビジョンに迫りたい。

第7&8回で話を伺ったのは、大分トリニータに始まり清水エスパルス、ファジアーノ岡山でチームの強化に携わり、23年からFC町田ゼルビアに着任した原靖フットボールダイレクター(FD)。後編では、J1昇格後のチーム強化方針を中心に、直面した主力の海外流出を「ポジティブな変化」と捉える理由、そして「町田を世界へ」をスローガンに掲げるクラブの目指す将来像を語ってもらった。

前編へ

J1上位定着のために。ドラスティックな入れ替えと“選手ファースト”の視点

――1年でのJ1昇格という目標を達成し、24年のJ1初年度はチーム編成を整える上で、どんなご苦労があったのでしょうか?

 「そもそもクラブとしては、J1昇格がすべてではなく、J1の上位に定着し、アジアの戦場に出ていくというフェーズを見据えていました。ただそのフェーズへ行くまでには20年、30年はかかるかもしれないようなことを、10カ月くらいで成し遂げようとしているわけですから、チーム強化もJ1残留ではなく、J1の上位進出を見据えた“二足跳び”とも言えるような編成を整えることを目指していました。強化としては、それぐらいの感覚で編成を進めていたとはいえ、周囲の見え方としては、昇格3チームは有力な降格候補ですから、そういった周囲の見え方があった中でも、昌子(源)くんや谷(晃生)くんもいち早く町田加入を決めてくれました。その一方で結論が出ないような選手をいくら待っても仕方がありませんから、黒田監督のサッカーの中でその選手の個性が活きそうだ、あるいは試合に出れば力を発揮する選手だろうといった整理にも目を向けて編成を整えてきました」

――J1優勝も現実味を帯びる中で、昨夏には多くの選手との別れもありました。外からはドラスティックな入れ替えに映りました。

 「チームが目標に向かっていく一方で、個人的にどんな時も思っているのは、出場実績が低下し、プレーヤーとしての価値が下がっていくかもしれないという見極めも忘れないということです。個人的に選手たちには、35歳や40歳ぐらいまでは現役でプレーしてほしいと願っていますが、向こう3カ月や半年を予見すると、この選手の出場実績が低下していくかもしれない。あるいはこういう選手が必要になってくるだろうと、頭の中にはあるため、選手本人やエージェントの方とコミュニケーションを取るようにはしています」

――なるほど。“選手ファースト”の視点ですか。

 「外からはドラスティックに見えたかもしれませんが、一番不幸なのは、しばらくチームに留まることで他のクラブがその選手を獲らないという状況が生まれること。ですから選手に対しては、状況を鑑みた上で、正直に『今後は出場機会が少なくなって、半年が過ぎた冬の頃にはさらに厳しい状況になっているかもしれないから、他のクラブへ移った方がまだチャンスはあるかもしれない』と話すようにはしています。実際に話ができる段階になった際は、『このポジションにこういう選手が来る可能性がある』という話は、当人やエージェントの方とは話しています」……

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Profile

郡司 聡

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。

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