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娯楽性が昨季までとは段違い。今見るべきチームの一つ、好調アスレティック・ビルバオの変化に迫る

2022.10.23

序盤戦を終え中盤戦へと入ってくる2022-23のラ・リーガで、好パフォーマンスを見せているアスレティック・ビルバオ。エルネスト・バルベルデの下での変化、好調を支えるチームのメカニズムを分析する。

 最初に言っておきたいのは、今季のエルネスト・バルベルデ監督のアスレティック・ビルバオは、会長交代によって誕生したものだ、ということ。在任17カ月でスペインスーパーカップ優勝、コパ・デルレイ準決勝進出、昨季欧州カップ戦圏内を惜しくも逃して8位という、前任者マルセリーノ・ガルシア・トラル監督の成績は十分続投に値するものだった。だが、マルセリーノを推す前会長が、予算案をソシオ総会で否決されるなどして続投を断念すると、マルセリーノも今季限りを発表した。

 アスレティックはレアル・マドリー、バルセロナ、オサスナと並ぶソシオ制のクラブである。すべてのソシオが平等に1票を持つ民主的な制度ゆえに、長期安定政権が築きにくいという面もある。フロレンティーノ・ぺレス会長独裁状態のレアル・マドリー、フロントが有力者に寡占されているバルセロナに比べると、はるかにソシオ制の理念が尊重されているクラブゆえに、スポーツ的な理由以外での監督交代が起こり得たわけだ。

数字に表れる変化

 ここからはリーガ序盤に旋風を起こしたバルベルデのアスレティックの分析に入る。

 執筆時(10月21日)の直近3試合で1敗2分、3位まで上げていた順位を6位まで落とした。第10節終了時で比較すると、マルセリーノ下で勝ち点16の9位、バルベルデ下で同18の6位と、さほど差がなくなってしまった。だが、得失点に注目すると違いは明らか。マルセリーノ時代の得点9失点6に対して、今季は得点19失点8。19得点は2強に続く3位で1年前の倍以上である。この大幅な得点力アップこそが、バルベルデの最大のインパクトだと言える。

 何が変わったのか?

 見た目にわかる変化としては、システムがマルセリーノの代名詞[4-4-2]から[4-3-3]になり、最終ラインが高くなった。変化を数字化してみると、ボール支配率が昨季の47.5%から55.7%へと劇的にアップ。過ごす時間の長さをゾーン別に見ると、マルセリーノのチームはグラウンドを3等分した前3分の1で32%、中3分の1で42%、後ろ3分の1で26%過ごしていたが、バルベルデのチームはそれぞれ前で35%、中で40%、後ろで25%を過ごしている。前3分の1で35%はバルセロナに次ぐ2位の多さ、25%はやはりバルセロナに次ぐ2位の少なさであり、今季はいかに前がかりであるかがわかる。

マルセリーノ時代の典型的な先発メンバー
ルベルデの典型的な先発メンバー

 顔ぶれの違いは、昨季の「守備を固めてのロングカウンター」から今季の「プレスを強めてのショートカウンター」へというスタイルの変化による影響が大きい。

 中盤では、守備的(ダビド・ガルシア)+攻撃的(ウナイ・ベンセドール)で構成されていたダブルボランチが攻守両用のワンボランチ(ミケル・ベスガ)に代わり、最大のタレントであるイケル・ムニアインと、前監督下ではセカンドトップだったオイアン・サンセットがインサイドMF的に配置された。前線では、ポストプレー要員(ラウール・ガルシア)が消え、右の順足ウインガー(ニコ・ウィリアムス)、左の逆足ウインガー(アレックス・ベレンゲール)に挟まれてCF(イニャキ・ウィリアムス)が置かれている。

 快速のイニャキにスペースへの飛び出しが要求されていることは前監督時代と同じだが、サイドへ流れることは少なくなり、中央に張ってセンタリングをゴールに叩き込む役に、下がってくさびの受け手になる新タスクが加わった。快速かつ両足が使えリズムチェンジで足を止めた状態からも突破できる、兄よりもプレーのバリエーションが多いニコは縦への単独突破が求められ、ベレンゲールには対角侵入とSBとのコンビが求められている。

豪快なガッツポーズを見せるイニャキ。チームトップの4ゴールをマークしている

 この両ウインガーの特徴と役割の違いがSBのそれにも影響を与えており、左SBユーリ・ベルチチェにはベレンゲールの対角侵入で空いた大外を使っての攻撃参加が求められ、ニコを後方からサポートすることが求められる右SBにはMF的なオスカル・デ・マルコスが置かれている。ちなみに、ユーリ負傷時には右SBのイニゴ・レクエが左でプレーしていた。本職を差し置いてのコンバートは攻撃参加力を買われてのことだろう。

一連のメカニズム

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アスレティック・ビルバオイケル・ムニアインエルネスト・バルベルデ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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